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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第五章 戦勝式編
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第百十九話 新たなる勇者の伝説

第五章戦勝式編を開始します。


なお、各章にサブタイトルを加えました。

 魔王討伐!



 朱雀の国で猛威を奮っていた火の魔王及びその配下の軍勢は、4人の勇者様たちに率いられた4カ国の合同軍の手により壊滅した。


 これにより活発に活動していた魔王は全て倒された事となり、他の4体の魔王に目立った動きが見られない事から考えると、平和な時代が始まる事は間違いないことだろう。

 最もそうなるまでには、まだまだ長く苦しい時代が続く事になるだろうが。


 今回の戦いでは実に数十年振りとなる4カ国の連合軍が結成された。

 魔王軍が隠れ潜んでいた場所が朱雀の国と玄武の国の国境にもなっていた大河の中の小島だったが故に、参戦した兵士の大半はその2カ国の者たちであった。

 だが青龍の国及び白虎の国からも多数の兵士が参戦しており、各国から選出された選りすぐりの実力者達の活躍が魔王討伐に繋がったことは疑うべくもない。



 だが、やはり魔王討伐に最も多くの貢献をしたのは、強大なる魔王軍に人類の命運を背負って立ち向かった4人の勇者様達であろう。



 10年前には単独で光の魔王を討伐。

 その後に現れた火の魔王軍との戦いでも幾多の功績を積み重ね、名実ともに人類最強の御旗を背負う、光の勇者テルゾウ様。


 溢れんばかりの義侠心に突き動かされ、通常の活動開始時期よりも3年も前倒しにして勇者としての旅へと出発。

 この1年活躍の噂を聞かない日はない若手実力派勇者、氷の勇者サム=L=アイスクリム様。


 今回参戦した4人の勇者の中では紅一点、艶やかな黒髪と闇すらも見通す漆黒の瞳を持ち、魔王の側近の悪夢のような攻撃から多くの負傷兵を守り抜いた闇の勇者ダイアナ様。


 そして我が国の若き王子にして第一王位継承者。

 守備力に秀でるその特性故、仲間を守るためにあらゆる攻撃をその身に浴び続けた傷だらけの英雄。

 しかし最後には魔王へと致命の一撃を与え、若くして魔王討伐の偉業を成し遂げた新たなる伝説、土の勇者ロック=A=タートル様。


 一人のベテランと、それに続く3人の若き勇者達の活躍で、世界は平和を取り戻したのだ。


 だが、彼らをサポートし、共に魔王へと立ち向かった勇者の供達の活躍も見逃すことは出来ない。

 彼らの活躍なくして魔王討伐という偉業は成すことは出来なかったと断言しても構わないだろう。


 朱雀の国で最も評価されている脚本家であり、光の勇者テルゾウ様の信頼を一心に受ける劇作家ジェイク。


 未成年ながらも、死地へと向かう父の背中を追い、最悪の戦場へと颯爽と駆けつけた未来の英雄。光の勇者の一人娘『閃光のシャイン』



 孤児院出身の元軍人であり、かの天才ナイト=ロックウェル元町長の一番弟子。

 そして誰もが認める氷の勇者サム様の親友であるキング。


 かつての任務は玄武の国始まって以来の天才と王女殿下の護衛隊長。

 未だ若さの目立つ氷の勇者の一行を師として支えるエース。



 土の勇者ロック王子の実の姉であり、呪いスキル『成長停止』を愛の力で打ち破った偉大なる女傑。

 そのステータスの数値は誰よりも勇者に近い、ロゼッタ=A=タートル王女殿下。


 今回の魔王退治においてもその頭脳を遺憾なく発揮。

 稀代の天才にして変人、エリザベータ=エニシュ。


 ロゼッタ姫に付き従い、恐るべき実力を発揮する謎の存在。

 伝説に語られるその姿が今目の前に! ゲンとヨミ。



 玄武の国始まって以来の天才にして、タートルの町を発展させた最高の立役者、ナイト=ロックウェル元町長。

 今回の戦いにおいて、ロック王子の絶体絶命のピンチを体を張って防ぎきった騎士団の星ライ=ロックウェル。



 白虎の国から天才ナイト=ロックウェルへと託された幼い勇者の兄弟、風の勇者ハヤテ様と雷の勇者デンデ様。


 その素性は全てが謎、未だ幼い2人の勇者を体を張って護衛する。

 謎の達人トウ老師。


 彼らもまた勇者と共に魔王の側近、そして火の魔王そのものと戦い、人類の勝利に貢献したのだ。

 今回の戦いにおいて魔王にとどめを刺すという最大の功績を上げたロック王子は戦いの感想を聞かれた時こう答えたという。


「勇者は強いが無敵ではなかった。彼らの活躍がなければ魔王討伐は成し得なかったであろう」


 劇作家でも、魔法使いでも、兵士でも、一般人でさえも! 鍛え続ければ勇者と共に魔王と戦う程に成長することが出来るのだ。

 未だ幼い風の勇者様と雷の勇者様。

 彼らが勇者として旅立つ時、隣に立っているのは君かもしれない!



 だが勇者の供に選ばれるためには、絶対的な実力と、最高の頭脳と、有無を言わせない実績が必要だ。

 だからその時の為にも、君も一緒に学ばないか?


 タートル町立全学校は随時生徒募集中です!

 今なら勇者の供、ナイト=ロックウェル元町長の授業も特別に開講中!

 興味のある方はタートルの町役場、または学内の入学受付にお問い合わせ下さい。



「……という案内を作ったら入学希望者が殺到しまして、本日からはこちらの大講堂で授業をしていただくようお願い致します」

「最早俺の評価についてはとやかく言わないが、名前を使う際はせめて許可を取ってからにしてくれ!!」



 全く、うちの学校の広報部はやる気があるのは良いのだが、暴走するのが玉に瑕だ。

 俺は学校の行事で使うために作った巨大な講堂の中にスシ詰めになっている生徒達を控室から覗き見ながら、魔王を退治してから今日に至るまでの怒涛の日々を思い返していた。



 あの日、俺達は火の魔王を打ち倒し、勝鬨を上げた後、負傷者の手当をし、残敵を掃討してからヤマカワの町へと戻っていった。

 俺達が魔王と戦っている最中にも、父さん達は魔王配下のモンスター軍団と戦い続けており、決して少なくない死傷者が出ていたのだ。


 俺達は魔王とその側近という大物の相手を任され、ピンチの数にも事欠かなかったが、それでも最終的には誰一人欠けること無く、五体満足で勝利を手にすることが出来た。

 それもこれも、魔王に付き従うモンスター軍団の相手を父さん達が引き受けてくれていたお陰なのだ。


 俺達は彼らの献身に感謝の意を示し、魔力とポーションの数が許す限り負傷者の治療を行なった。

 治療の心得の無い者は、死亡者の遺体を回収したり、散らばっている魔石や道具類を回収したり、島の中へと散っていったモンスターを退治しに行ったりと精力的に活動を続け、結局日が沈む寸前の最終便でヤマカワの町へと戻ることになったのだ。


 そして大河に揺られることしばし、俺達が辿り着いたのは、町中の人間が出迎えに来たのかと錯覚するほどの大絶叫が響き渡るヤマカワの町の港であった。

 今朝俺達が出発する際にはほぼ素通りしただけのその港には煌々と明かりが灯され、ヤマカワの町の町長が満面の笑みで俺たちを出迎えてくれた。

 彼は自分の不手際でシャインとハヤテとデンデを危険にさらしてしまったことを侘びてきたが、どう考えても不可抗力なので、テルゾウ殿も俺達も彼を許した。


 そしてほっとした町長に一体この騒ぎは何事なのかと尋ねたのだった。


「何事なのかではございませんよ! 魔王討伐ですよ、魔王討伐! しかもそれを成し遂げた勇者様方がやっと帰ってこられたのですから、騒ぎになって当然ではありませんか!」


 町長は何を当たり前のことをと言った感じで、騒いでいる住民達を指し示す。

 そうだよな、俺達は魔王を倒したんだよな。

 魔王を倒すってことは、町中の人々が大騒ぎするような出来事なんだよな。



「さぁさぁ皆様、まずは風呂に入って汗を流し、清潔な服にお着替え下さい。その後は祝勝会ですよ! 我が町の料理人達が腕をふるった自慢の料理を存分にお楽しみ下さい!」



 俺達は集まった住民達に揉みくちゃにされながら、用意されていた部屋へと移動し、風呂に入って汚れを落とし、服を着替えてから祝勝会へと出席し、夜通し飲めや歌えやの大騒ぎをした。

 それはとても楽しい宴であり、俺達は誰彼構わず酒坏を掲げ、歴史的な勝利を心から祝った。

 特にアナとエースが怖いくらいに真剣に料理を味わっていたのが印象的だった。

 まぁ『料理人』と『美食家』なのだからこの反応も頷けるというものだ。



 明けて翌日、今度は今回の戦い犠牲者たちの追悼式が執り行われた。

 今回の戦いで命を落とした者、または行方が分からなくなった者達の名前が一人ずつ読み上げられ、俺達は揃って頭を垂れる。

 今回の勝利は彼らの犠牲無くしては成し得なかったのだ。

 事前に追悼式を執り行うという話を聞いていた俺達は、勇者の旅立ちの儀式の時の様に二日酔いで出席する愚は犯さず、神妙に式に参列したのであった。


 死亡者の内訳だが、やはり初めに投入された懲罰部隊の者達が大半を占めていた。

 だが正規兵もそれなりの数が亡くなっており、戦いの過酷さを死傷者の数が物語っていた。

 式の最中にすすり泣き、膝から崩れ落ちている人々も見受けられる。

 彼らはこの町の住民達だ。

 恐らく彼らの家族が兵士として参戦し、そして今回の戦いで死亡してしまったのだろう。

 俺は彼らの活躍に感謝し、彼らの死に報いることが出来た事を誇りに思い、今回の戦いの勝利の意味を胸に刻んだのであった。



 それから数日後、俺たち連合軍に別れの時が訪れた。

 今回の魔王討伐を祝して、朱雀の国で戦勝式が行われるのは確定事項。

 だがそれは準備の都合上、まだしばらく先の事になるので、一旦各国の勇者及び兵士たちはそれぞれの国へと帰ることになったのだ。


 最初に町を旅立ったのは、朱雀の国の関係者達であった。

 光の勇者テルゾウ殿とその供のジェイク。そしてシャインと朱雀の国からやってきた兵士たちは船を使って対岸の朱雀の国へと渡り、陸路朱雀の国の首都バードを目指すという。


 テルゾウ殿もジェイクも別れはあっさりとしたものであった。

 旅から旅の2人にとってはこのような別れは日常茶飯事なのだろう。


 だが俺たちと仲良くなっていたシャインは、最後の最後まで帰りたくないと駄々をこね、2人を困らせていた。

 まぁ最終的にはテルゾウ殿に諭されて、渋々国に帰ることを決めたのであるが。


 その際、俺達全員と別れの挨拶をしたのだが、特にロックの奴としつこいくらいに再会の約束を交わしていたのが面白かった。

 見た感じではロックの方も満更でもない様子だ。


 新たな恋の始まりの予感がひしひしと感じられて俺達の頬も自然と緩んでしまう。

 しかもあの2人、俺たちにバレているのが分かっていないようなのである。

 当事者の2人以外の者たちは、互いに協定を結び彼らの恋の行方を邪魔しないように見守ることを誓ったのであった。



 朱雀の国一行が旅立った後、今度は白虎の国の兵士たちが帰国することとなった。

 ゼロに率いられてやって来た白虎の国の懲罰部隊の面々は大分数を減らしていたが、生き残った者達の顔には笑顔がある。

 今回の戦いの参加者は戦後に大幅な減刑が認められ、中には国に帰った後で出所する者もいるのだという。

 俺はそういった約束はなんだかんだで反故にされてしまうのだろうと考えていたので、きちんと履行されると聞いて正直驚いてしまった。

 ゼロ曰く、こういう約束を反故にすると、次に運用する懲罰部隊の働きが明らかに落ちてしまうのだそうだ。


 父さんにも確認したところ、玄武の国の懲罰部隊にも同様の処置がなされるのだという。

 約束は約束として履行することで、使える者は犯罪者だろうと利用する。

 これもまたこの過酷な世界を生き抜くための国としての知恵なのだろう。

 俺は国と犯罪者の意外な関係を目にし、以降は出来るだけ犯罪者に出会っても殺さずに、生け捕りにしようと決めたのであった。


 ゼロは旅立つ前にハヤテとデンデに白虎の国へと戻るよう説得していたのだが、2人共梨の礫であり、脈は全くなさそうであった。

 そうしてゼロは兵士達と共に旅立っていった。

 彼らはここまで来た道を引き返して国へと戻って行くのだという。

 俺たちは彼と白虎の国の兵士たちの参戦に感謝し、戦勝式での再会を誓うのであった。



 そして最後に意外な者達が町から旅立って行くこととなった。

 それはサム達氷の勇者一行である。

 何とサム達はあれだけ忌み嫌っていた青龍の国へと向かい、向こうの城で戦勝式の準備をすると言い出したのだ。


「いや、正直に言えば行きたくはないのだが、今回のこれは勇者としての仕事の一つだと言われてな。俺様が青龍の国の所属である以上、無視することも出来ないのだよ兄さん」


 そう言って実に嫌そうな顔でサムは青龍の国へ行くことを報告してきた。

 見ればキングもエースも顔色が悪い、余程3人共青龍の国へと行きたくないようだ。

 だがそれ以外の者達はそんな気配は全く纏っていなかった。

 それ以外の者、つまり青龍の国からやって来た生き残りの皆さんの事である。


 彼らは6年前の時点でサムの従者をしていた者達だったのだが、今回の魔王戦を経験しすっかり神経が参ってしまい、一刻も早く国へと帰りたがっていたのだ。

 まぁ中にはムツキの様に国なんぞどうでもいいからエースの側に居たいと言い出す者もいるのだが。



 今回青龍の国からやってきて、カワヨコの町で俺たちに挨拶を交わしてきた、かつてはサムの婚約者の一人であったムツキ。


 彼女は「元々サムなんぞ好きでも何でもなかったのに無理やり婚約者にさせられた挙句、人生を滅茶苦茶にされたからあんたなんて大嫌いだ。

 そして今回の件でぼんやり生きてる場合じゃないと知ったから、まずは恋に全力投球するのだ」と宣言し、島から帰ってからというものエースへと猛アプローチを掛け続けていたのである。


 何でも島での戦闘の際に助けて貰った事が切っ掛けで、エースに惚れてしまったのだそうだ。


 俺は彼女に複雑な感情を抱いている。

 かつての彼女はサムを見限り、見捨てて逃げた馬鹿な裏切り者だった。

 だが、そんな彼女も元々はサムのわがままでむりやり婚約者にさせられた被害者であると知り、一方的に憎むことが出来なくなってしまったのだ。

 何しろ俺達は昔の馬鹿なサムの姿も知っているため、彼女が語ったかつてのサムの馬鹿さ加減にある程度の理解を示してしまったのである。


 そんな彼女がようやく自分の人生を歩み出し、よりにもよって俺の恩人に恋をしているというのだ。

 応援したいのは山々だが、素直に応援したくもないような微妙なこの感情は一体何なのだろうか。


 ちなみにムツキに惚れられているエースは困惑しきりの状態である。

 思えばエースは俺とロゼの護衛をしている最中はずっと日陰者であり、その後はサム達と旅に出てしまったので、女っ気がまるでなかった。

 エースは確か今年で33歳になるはずだ。

 とっくに結婚していてもいい年であるし、顔も良いし、強いし、おまけに勇者の供でしかも師匠なのだから本来ならば引く手あまたの優良物件のはずだ。


 そんな彼と彼女の恋路がどうなるのか興味は尽きないが、残念ながらお別れの時間だ。

 サムたちは青龍の国の面々と共に青龍の国へと向かっていく。

 彼らの無事を祈り、俺達もヤマカワの町を旅立った。


 土の勇者一行と闇の勇者一行。

 そして土の勇者一行に預けられている風の勇者と雷の勇者とその保護者のトウ老師。

 俺達は父さんが率いる玄武の国の兵士達と共に、今回の戦いの報告をするために一路タートルの町へと向かったのであった。

*エースの年齢について


ナイトとロゼが修業を開始した時点で25歳。

この時点で兵士としては7年目。

まだ若いが優秀だったため、護衛隊長に抜擢。

8年後の現在は33歳。

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