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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第四章 VS火の魔王編 後編
114/173

第百十二話 ニコの機転

2018/01/04

新年あけましておめでとうございます。

今年も宜しくお願い致します。


なお、百八話 ロックVSマンティスが読みづらいとの指摘がありましたので、改稿してあります。


2018/01/08

改稿しました。

 闇の勇者ダイアナは、火の魔王の側近の一人、バーニング・フロッグと戦いながら状況の悪さに歯噛みしていた。


 仲間全員と山を登り、サムたちと戦っていたこのカエルから所在が掴めない魔王の居場所を聞き出そうと近づいていった矢先、彼女の目の前で想像だにしない出来事が次々と起こった。


 まず最初の想定外は、ヤマカワの町に置いてきたはずのシャインとハヤテとデンデが、フロッグの舌に絡め取られて、船ごとこの島へと上陸してしまったことだった。

 ヤマカワの町に置いてきたはずの彼らがどうして船に乗っていたのかは分からないが、結果的に魔王軍の罠を見破ることが出来たのだから僥倖だったと言えるだろう。

 カエルの舌によって引き寄せられた船に乗っていたシャインがいつものように発光し、そのお陰で隠されていた本物の山の姿が現れ、同時に自分たちが今登っている山が偽物だということが理解出来たのだから。


 引き寄せられた船に乗っていた3人は老師が救出に成功していた。

 だが、その後の蛇の発火と暴走のお陰で、私たちは随分と戦場の中心から離されてしまった。

 私たちというのは、この私ダイアナ以外にこの方向へと飛ばされてきた者たち、つまりエースとゲンとヨミ、そして老師と老師に抱えられた2人、ハヤテとデンデの事を示している。

 そこにシャインは含まれていない。恐らく救出後のドタバタで老師から離れてしまったのだろう。


 仲間の実に半数近くが一箇所に集中してしまった計算になる。

 しかし、現在の状況はとても良いとは言えないものであった。

 何しろ私たちだけではなくサムと戦っていたフロッグまでもが同じように飛ばされ、飛ばされた先で戦いが始まってしまったのだから。


 そしてこの戦いはこちら側が圧倒的に不利な立場に立たされていた。

 何しろ私たちが戦っているこの場所はよりにもよって島の入口から主戦場となっている平地へと通じていた坂道であったからだ。

 そしてその坂道にはよりにもよって、私たちが飛ばされてくる以前から、多くの味方が行き交っていたのである。


 フロッグは戦場と化した坂道に存在する者たちへと容赦なく攻撃を仕掛けていく。

 私たちは味方を守りながらの戦いを強いられ、防戦一方の展開だ。

 この場にいるのは負傷兵と衛生兵が大半で戦闘能力は期待できない。

 そんな彼らを守りながらでは、いかに戦力が結集していたところで、中々攻勢には移れないのだ。


 今もあの憎きカエルの口から放たれた毒玉の攻撃を、エースが身を挺して防いでくれている。

 ハヤテとデンデを抱えた老師が、それにゲンとヨミも走り回って味方を庇ってくれているが、もう幾らも持たないだろう。

 彼らが動ける間に、私は勇者として目の前のカエルを何としても仕留めなければならない。

 私は逃げ回りながら攻撃を続けるフロッグの後を追っていくのであった。



「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! 絶対死ぬ!」


 元盗賊団ビッグ・オーガズの首領だったニコは、勇者と魔王軍の幹部が暴れまわる戦場の中で声を枯らして絶叫しながら逃げ惑っていた。


 ニコは襲撃開始当初に敵のアジトの入り口でマンティスが暴れた際の生き残りであり、遅れて上陸した勇者たちによって落ちた堀から引っ張り上げられた後に、ゼロの指示により朱雀の国の兵士たちを救出し、その後島の中心部へと向かって坂道を登っていた。

 坂道は、ニコよりも先に島の内部へと突入したものの、坂道での戦闘で負傷した者たちや、奥の戦場での戦いで負傷した兵士たちで溢れかえっており、その移動は困難を極めた。

 そんな中、突然上空からニコを堀から救出してくれた闇の勇者様と仲間の何人かが落下してきた。

 闇の勇者様はその美しい姿に勝るとも劣らないような美しい着地を見せ、他の者たちは話に聞いていた巨大フクロウと3本足の黒ガラスに掴まれた状態で到着していた。


 到着後巨大フクロウは老人に、3本足の黒ガラスは少女に変身し、すぐさま闇の勇者様の周りに集合していた。

 恐らく彼らはこれからの行動について相談でもするつもりだったのだろう。

 だがそれは叶わなかった。

 なぜなら彼女たちよりも少し遅れて、同じ方向から巨大なカエルが降ってきたからだ。


「ゲロゲロゲー!」


 そのカエルは着地を待たずに空から『俺たちに対して』攻撃を仕掛けてきた。

 それを見た勇者様たちは一斉に別れて、カエルの攻撃から俺たちを守り始めた。

 以来、ずっとこの状況が続いている。


 カエルは縦横無尽に飛び回りながら、四方八方へと毒玉を吐きまくり、舌を伸ばして逸れた者を絡め取り、俺たち普通の兵士に向かって攻撃を仕掛けてくる。

 勇者様とその仲間たちは俺たちを守るために頑張ってくれているが、如何せん相手が狡猾な上に俺たちが広くバラけているので守るので精一杯で攻勢に回れない。


 このままでは遠からず彼女たちは力尽き、俺たちにも攻撃が届くようになり、全滅してしまうだろう。

 ああ、せめて守る人数がもう少し少なければ。

 いや、せめてせめて、守る範囲がもう少し狭ければ、勇者様たちもカエルへと攻撃を加えられるのに!


 そう思ったところで、事態は何ら好転することなく、刻々と時は流れて行く。

 ほら、今だって勇者様が切断した毒玉の半分が兵士の近くに着弾して、彼らはふっとばされて、周囲を巻き込んで団子みたいになっているではないか。

 そこをすかさず、カエルが襲撃! いや上手い具合にエースとかいう兵士が防いだようだ。

 それを見て気がついた。

 俺はこの場を生き抜く方法を思いついた。

 世界のためとか、仲間のためとかの方法ではなかったが、それは仕方がない。

 俺は所詮は元山賊の町長の息子。

 勇者でも英雄でもないのだから。



「全員逃げるなぁ! 一塊になって固まるんだ!」


 ダイアナはフロッグからの攻撃を凌いでいる最中に、とある兵士が発するそんな声を耳にして一瞬呆けてしまった。

 見ればまだ若い兵士が、いやあの装備は懲罰部隊の兵士か『逃げずに固まれ』と声を上げて周囲の者たちの足を止めている。

 この状況で逃げずに固まれとか一体何を考えているのか。

 同じことを考えたのだろう、ゲンがその若い兵士の下へと向かい説教を開始した。


「オイ! 一体何考えてるんだあんた! オイラたちが何のために頑張ってると思ってるんだ!」

「そんなことは先刻承知だ! 俺はあんたたちのために固まれと言ってるんだ!」

「ハァ? 意味が分かんねぇぞ、どういうことだ」

「あんたたちは俺たちを守っているからカエルと戦えない!

 カエルはそれが分かっているから俺たちを攻撃してくる!

 だったら話は簡単だ。俺たちが一塊になってしまえばいい!」


 話を聞いたゲンはキョトンとした顔になった。

 きっと私も同じだろう。


「俺たちが一箇所に固まって一塊になればあんたらも守りやすくなる!

 そうすれば攻撃に回る余裕も出てくるんじゃないのか?」

「あ、あ~……確かに。それは……予想外だったな……」

「そういうわけだ。ほらお前らぁ! 話は聞こえていただろう! 一塊になって固まれ! どうせ俺たちじゃ魔族の攻撃には耐えられないんだ! 勇者様方が守りやすいように固まっておいた方が生き残れるぞ!」


 ニコとゲンの話は周囲の者たちにも聞こえていたのだろう。

 彼らは続々とニコの周りに集まって防備を整えていく。

 フロッグはそれを見逃さずに攻撃を加えるが、標的が分かっているのなら守るのは容易い。


「ダークボール!」


 私は敵の射線上に先回りし、敵が吐く毒玉を闇魔法で生み出した闇玉で打ち消した。

 いや、私の闇玉の方が威力が上だったようで、魔法はそのままフロッグへと向かって行く。

 フロッグは避けようとするが、まともに反撃されたのは初めてだったので反応が遅れ、少し体にかすったようだ。


「オオオッ! ダイアナ様の攻撃が当たったぞ!」

「攻撃力で負けていない! 頑張れダイアナ様!」


 それを見た兵士たちから歓声が上がる。

 たった一発の魔法がかすっただけだったが、劣勢だった状況からの反撃は彼らの胸に響いたようだ。


 それを見たフロッグは歓声が上がった方向へと向けて攻撃をばら撒いていく。

 しかしこれは先回りした老師とエースが防いでくれた。

 彼らも私と同じく相手の思考を先読みしたようだ。


「ダイアナ殿! その若者が言ったように兵士たちが一箇所に集中した方が守りやすい! すまんが至急兵士たちを集めて下さらんか!」


 老師が状況の変化を好機と捉え、若い兵士の意見を取り入れるべきだと進言してきた。

 私も同意見だったので、戦場を走り回りながら影を伸ばし、周囲に散らばる兵士たちを次々と一箇所にまとめていく。

 フロッグは私たちの行っている行動がどういうものなのか分かったのだろう。

 今度は集まった場所へと集中的に攻撃を打ち込んでいくが、たった一匹では満足に弾幕も貼れず、私の仲間たちに尽く攻撃は防がれていった。


 それからしばらくして、全ての兵士は一箇所に集められた。

 彼らが集まったことを確認した私は、彼らに防御陣地を構築するように指示を出し、この方法を編み出した兵士にハヤテとデンデを任せ、彼らの周囲を魔法の結界で覆い、結界の外側にゲンとエースを配置して防御を固めた。

 そして私は空を飛べる老師とヨミを供に付け、フロッグとの決戦に臨んだのだった。



「ゲッ……ゲロゲ……ロ」

「ふぅ、まぁこんなものですかな」

「意外と呆気なかったですわね」


 目の前にはフロッグが瀕死の重傷で倒れ込んでいる。

 味方を一箇所にまとめ、攻撃に専念することが出来た私たちは、割りと簡単にフロッグを追い詰めていた。

 大勢の味方を守りながらの戦いというハンデがなければフロッグの相手はそう難しくはなかったのだ。


 サムたち氷の勇者のパーティーはフロッグの相手に苦労していたようだが、あれは山の斜面という足場の悪さに加え、パーティーが空中戦に対応できていなかったのが原因だ。

 今度の私のパーティーは老師とヨミという空中戦に長けた2人がいたお陰で、制空権を奪うことに成功。

 跳ね回ることが出来るカエルであっても、空を飛べるフクロウとカラスの相手は難しかったのだ。


 制空権を失ったフロッグは著しく機動力を減退させた。

 跳べないカエルなど、捕まえるのは簡単だ。

 私は2人にフロッグの頭上を抑えてもらい、相手の動きが止まった時にその体に影を巻き付け、フロッグの動きを封じてしまった。


 長い舌も、脅威の跳躍力も、捕まえてしまえば意味がない。


 フロッグの足は私が刀を振るう度に切断され、驚異的な長さに伸びる舌も切り飛ばされ、体には無数の切り傷が出来た。

 後は首を切断するか、心臓を貫くだけだ。

 私は刀を握る手に力を込めた。

 だがその前にフロッグに異変が起き、その体は禍々しい赤黒い炎に包まれたのだった。


「くっ!? これは何?」

「近づいてはなりませんダイアナ殿! その炎には邪気が渦巻いております!」

「や~な感じですわね」


 火の魔王の側近の最後の悪あがきなのだろうか。

 炎に包まれたフロッグはこちらの攻撃を受け付けなくなり、魔法も遠距離攻撃も弾き飛ばすようになった。

 私は刀を用いて炎ごとフロッグの体を切断しようと試みたが、周囲に止められてしまった。

 『妖刀闇切』の魔力切断能力が通用しないとは思わないが、ここまで追い込んだのだから放っておけば後は勝手に死ぬだろうと判断したのだ。



 それが間違いだった。

 倒せる相手は無理をしてでも倒しておけば良かったのだ。

 突然大きな爆発音が聞こえたかと思ったら、先程まで魔王の側近が山に擬態していた辺りで同じような色をした炎の柱が天に向かって伸びていた。

 それから遅れることしばし、目の前のフロッグの炎も火力を高め、同じように炎の柱となって天高く伸びていく。

 更にこことは別に2本、炎の柱が立ち昇っているのが見えた。


 合計4本の炎の柱は天へ向かってしばらく伸びたかと思うと、最初に立ち昇った柱が急に太くなり、他の3本の柱は急激に細くなっていった。

 そして最終的には目の前のフロッグから立ち昇っていた柱は消滅し、同時に瀕死ながらもまだ生きていたフロッグの体も消え去っていた。



 そして奴が現れた。

 ダイアナたちがいる坂道からは坂の上の戦場の様子は角度の関係で見ることは出来ない。

 それなのにそいつの頭が視界に入ったのだ。

 先程まで立ち昇っていた炎の柱と同じ、禍々しい赤黒い炎を身にまとった、大きな犬の頭がダイアナたちがいる坂道からでも見ることが出来たのだ。

 それは先程まで偽物の山のあった場所の近くに突如として現れた。


 禍々しい炎をまとった巨大な犬。

 心当たりは1つしかない。

 ダイアナたちはハヤテとデンデの世話を先程機転を利かせた若い兵士に任せ、一目散に坂道を登っていった。


 火の魔王軍への4人もの勇者を動員した奇襲作戦。

 その最後の戦いが始まろうとしていた。

今月から投稿日を4の倍数の日に変更致します。

(4,8,12,16,20,24,28)


去年の年末辺りからのリアルの忙しさで、ストックがなくなってきたので。

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