第百十一話 ムツキの回想
ムツキは勇者と魔王軍幹部が暴れまわる戦場の真っ只中で、己の無力さを噛み締めながら、なぜこんなことになったのだろうと、1人呆然と立ち竦んでいた。
彼女は王家に連なる貴族の一員として、生まれた時から何の不自由もなく暮らしてきたお嬢様であった。
そんな彼女が10歳の頃、祖国で国を揺るがす大問題が勃発し、彼女の人生に歪みが生じていった。
12年前、祖国青龍の国では水の勇者が18歳となり、勇者の旅立ちの儀が盛大に執り行われた。
青龍の国は4カ国の中でも厳しい環境で有名であり、国の人々は新たな勇者の誕生に過剰なまでの希望を抱いていた。
これからは国内の様々な問題は勇者様が解決し、世の中が明るくなると皆が噂していたのを彼女は薄っすらとだが覚えている。
しかし現実は非情なものであった。
沢山の、それこそ彼女と共に旅立った者たちの列で見える限りの街道が埋まってしまう程の水の勇者とその供の集団は、旅立ってから1月も経たぬ内に首都へと舞い戻り、水の勇者はそれ以降首都にある図書館の中に閉じこもってしまったのだ。
国の上層部がどれだけ説得を試みても梨の礫であり、勇者の活躍を夢見ていた国民は国の指導者たちへの不満を募らせていった。
それがいつの頃からだろうか、『これは神の与えた試練だ』と言われるようになり、いつの間にやら『勇者とは神の化身である』とか言われるようになっていったのだ。
そして『神の化身にはそれ相応の伴侶が相応しい、いやそうでなくてはならぬ!』という世論が巻き起こり、それまでは比較的自由恋愛が許されていた勇者の結婚相手は有力貴族限定とされてしまい、その候補者の中にムツキは引っかかってしまったのである。
あれは忘れもしない6年前、ムツキはある屋敷に呼ばれていた。
その屋敷にはムツキの他にも有力貴族の娘たちが多数呼び寄せられていた。
彼女たちは自分たちがこの場所に集められた理由を大体のところは察していた。
もちろんムツキもそうであった。
今日この場に集められた理由はつい先日スキル授与の儀式をお済ませになった氷の勇者サム様の伴侶を決めるためだろう。
この場に集った有力貴族の娘たちは、当然の事ながらサムのことを神の化身だなどと考えてはいない。
それはあくまでも下々の者たちを納得させるための方便であり、少しものが分かっている者たちはまともに取り合っていない考えだったからだ。
だが、勇者の妻になることは間違いなく名誉なことであるので、彼女たちはその時を今か今かと待ち望んでいた。
しかし実際にサムと対面した時、彼女たちはそれまで培ってきた幻想が粉々に打ち砕かれる音を耳にすることになった。
世界を救ってくださるはずの勇者様は醜く太り返り、傲慢が服を着て歩いているような醜悪な子供だったのだ。
当時のサムはそれはもう怒りっぽく、何の遠慮もなく胸を凝視しあまつさえ触ってくるようなエロガキで、とてもではないが子供の頃から寝物語に聞かされていた立派な勇者様には見えなかったのである。
そしてよりにもよってムツキはそのサムの婚約者の一人として選ばれてしまった。
どういうこだわりがあったのかは解らないが、その場に集まった者たちの中でサムは6人の女性を妻として選び、残りはサムに仕える女官として士官することがその場で決定されてしまったのだ。
ムツキも含めてその場に集まった者たちは当然のごとく抗議をしたが、『神に仕える事を拒むとは何事ですか!』とその時その場にいた責任者に叱責され、抵抗も出来ずに婚約者にされてしまったのである。
その後ムツキは家に帰り、両親に状況を報告した。
しかし味方であると思っていた両親は、ムツキにそのまま妻として氷の勇者様を支えるようにと意見をしたのだ。
否、それは意見ではなく命令であった。
この時国内の世論は『勇者=神』説が完全に固定化され、下手に背くと取り返しの出来ない事態になりかけていたため、ムツキの両親は娘を守るためにそう判断したのだが、ムツキにはその考えは伝わらなかった。
そうしてムツキは嫌々ながらサムの婚約者の一人としてサムの旅に付き合うこととなった。
それはカズハを始めとした他の婚約者たちや強制的に仕えさせられた女官たちも同様である。
喜々として付いてきたのは、何も知らずに勇者に付いていけば楽ができると考えているサムの取り巻きとその他大勢の貴族のバカ息子たちだけであった。
彼女たちの最初の旅路はサムの実の家族に合うための国境の町への移動であった。
前も後も果てが見えないほど長い列となった氷の勇者の従者たちは途中で立ち寄る村や町で尊大な態度をとり好き勝手しながら、約束の期日を大幅に遅れるペースで待ち合わせ場所である国境の町へと向かっていく。
その間の事をムツキは思い出したくもない。
とにかく少しでも油断すると胸に吸い付いてくるサムが気持ち悪かっただけの旅であった。
カズハたち他の婚約者たちなどは早々にサムを見限り、付いてきた兵士の中から良さげな相手を物色し、彼らとの秘密の恋に明け暮れていた。
そのくせ人前に出ると完璧にサムの妻を演じ、優秀な従者を演じるのだから大したものである。
『偉大なる氷の勇者様』はやり過ぎだと思っていたが、あれは忠誠心を隠れ蓑にした壮大なる皮肉であったらしい。
それとは別に、万が一の確率であってもまともになってもらいたいという意図もあったのではないかと考えているのだが、死んでしまった今となってはもう真意は聞き出せないままである。
日を跨げば跨ぐほどサムの評価が落ちていく旅路の果てに待っていたのは、偉大なる氷の勇者様の完全なる没落であった。
彼は実の家族と出会うなり暴言を浴びせ、正論をぶつけた実の兄を手打ちにしようとして返り討ちにあった。
そして倒された翌日、偉大なる氷の勇者様は自らに降り掛かった敗北を受け入れられず、部屋に閉じこもり、現実から目を背けたのだ。
それまでは評価が限りなく低いながらも仮にも勇者なのだから暫くは様子を見ようと考えていた私たちは一気にサムを見限った。
そしてそれは甘い汁を吸う目的で付いてきた兵士たちも同様であった。
彼らはこの旅の間に好き勝手をやりながらも冷静に自らの神輿の力量を吟味し、使えないと判断して一気に見限ってしまったのだ。
そしてそれからはあっという間の出来事であった。
兵士たちも女官たちも素早く荷物をまとめて、一秒でも早くサムから離れようと一目散に宿泊していた青龍の国の砦を抜け出したのだ。
その騒ぎがあまりに大きかったからだろう、サムは途中で部屋から顔を出し、彼の従者たちが彼を見限って国へと帰ろうとしていることにようやく気付き、必死に説得を繰り返していた。
しかしその説得が通じることはなかった。
当たり前である、彼らは勇者の活躍のお零れをもらうのが目的で集まって来たバカ貴族たちだ。
当然の事ながら彼らは戦えない。
なのに勇者が頼りにならないとなると前線に出なければならなくなる。
そうなると死ぬ確率が高くなるので彼らは一人残らず逃げ出したのだ。
私も私でサムの婚約者の立場を自らの意志で放棄することを決定した。
代表としてカズハ様に我々全員の婚約届を預け、サムに絶縁を叩きつけて帰国。
本来このような真似をしたら大変なことになることは目に見えていたのだが、あの失態を見てしまった以上、彼の妻になるなど考えることすら出来なくなったのだ。
それに勝算もあった。
というか、勝算がなければこんな真似は出来なかっただろう。
彼の敗北と、その後の無様は砦の中であっという間に拡散し、広まっていった。
だから水の勇者の問題と同様、氷の勇者も使えなかったと国民たちに広まるのも時間の問題だと考えたのだ。
私はそう考えたからこそサムを見限り実家へと帰った。
他の者たちも同様だ、使えない勇者を見限って実家に報告し次善の策を練ることは貴族の家の者にとって当然の選択だった。
だが私たちは知らなかった。
貴族である私たちは、この国の貧しさも、この国の下々の者たちがどのような状況下に置かれているのかも正確には理解していなかった。
だから分からなくて当然だった。
貧しく厳しい環境にさらされた彼らがどれだけ本気で救いを求めていたのかを。 彼らがどれだけ神の化身である勇者様を求めていたのかを。
その彼らが信じる神の化身を裏切ることがどんな状況を生み出すのかを。
私たち当時のサムの従者たちは誰一人として実感していなかったのである。
実家に帰った私は両親に激しい叱責を受けた。
そこで私は始めてこの国の民衆の心に巣食った『勇者=神』説の恐ろしさを懇切丁寧に説明され、犯してしまった事実を鑑みて我が身を震わせた。
だが同時に噂が拡散すればこの考えは容易に淘汰されるとも考えてもいた。
しかし事態は全く予期せぬ方向へと転がっていった。
この話は青龍の国の中では広がらなかった。
いや、上層部はもちろんのこと、一族の者が従者として同行し、報告を受けた家族には当然伝わっていた。
貴族にしろ王族にしろ、相当数の者たちにとって、サムはハズレ勇者だという認識で一致した。
だが大多数の国民たちはこの噂を真っ向から否定、否そもそも戯言だとして話すことすら禁じられてしまったのだ。
ここで青龍の国の上層部は、水の勇者が活動しないことへの対応を失敗したことに気が付いた。
だが間違った対応策は既に取り返しがつかないところまで来てしまっていたのである。
上層部が思っていた以上に国民は疲弊し、勇者へ救いを求め、そこへ『勇者=神』説を投下した結果、大多数の国民たちにとって勇者は最早神そのものと化していたのだ。
彼らにしてみればムツキたちの行なった行為は神に対しての反逆行為に他ならず、国に帰った従者たちは反逆者の烙印を押され、国中総出で村八分の扱いを受けるようになってしまったのだ。
この扱いを打破しようと、カズハを始めとした元婚約者たちや一部の兵士たちは短絡的にサムの暗殺に動き、その動きに気付いた青龍の国の上層部に切って捨てられた。
いくらハズレ勇者であろうとも勇者暗殺など許されざる大罪である。
と言うか、そんな事を認めたらクーデターが起きても不思議ではないほどに青龍の国は崩壊寸前まで追い詰められていたのだ。
この時ムツキはカズハたちのようにサムの暗殺には動かなかった。
と言うか、ムツキは激高した両親の手で屋敷の一室に軟禁され、外と連絡を取る事自体が禁じられていたのだ。
そしてこれが結果的にムツキの命を救うこととなった。
下手な動きをした者は始末され、国に残った者たちは裏切り者の烙印を押されて不遇な生涯を送る羽目になり、終いには世論に押されて大部分は牢獄送りとなったのだから。
その後ムツキは屋敷に軟禁され数年を過ごすことになる。
ムツキはその軟禁生活の間に酒に逃げ込み、始終酔っ払って16歳から20歳までの人生の晴れの時を屋敷の中で酒に溺れて過ごした。
そして4年後、更なる激動が青龍の国を襲うこととなる。
初めてその話を聞いた時、ムツキは意味が分からなかった。
青龍の国の上層部が『勇者=神』説を明確に否定し、それに逆らう者たちを弾圧し始めたというのだ。
つい先日までは勇者を神扱いしないと袋叩きにされそうな勢いだったのに、今では神扱いすると問答無用で牢屋送りになるという。
これまで牢屋に入れられていた昔の同僚たちは無罪放免となり牢から開放されていると言うし、一体世の中はどうなっているのかとムツキは天を仰ぎ頭を抱えた。
一体何があったのかは知らないが、じゃあこの4年もの間軟禁されていた私の立場は一体どうなるのだ。
この4年ですっかり酒とは友達になり、今では片時も離れられない存在であり続けているというのに。
大声で吠えてみたところで返って来る返事などありはしない。
ムツキは4年ぶりに屋敷の外に出て周囲を見回した。
かつては至る所に存在した勇者を神と崇める者たちは消え、酷く閑散とした通りが何となくこの国の将来を暗示しているように見えたのだった。
それから暫くして今度は国外で活躍しているという氷の勇者の噂が青龍の国の中にも届き始めた。
彼は何でも光の勇者しか勇者が活躍していない現状を憂いて、通常よりも早く勇者としての活動を開始し、人類のために貢献しているのだという。
それを聞いたムツキは、それは一体誰のことなのだと笑い、まともに取り合うことをしなかった。
彼女の知っている氷の勇者とはろくでなしを絵に描いたような無能な子供であり、人のために活躍する姿など想像も出来なかったからだ。
しかしそれからも噂は届き続けた。
どうやら玄武の国へ渡ったサムは更生し、本気で勇者として活躍しているらしいのだ。
最初からそういう生き方をしていてくれさえすれば、こんな惨めな状況になることもなかったのに!
ムツキはサムを罵り、ますます酒に溺れるようになった。
そんな状況が1年余り続き、約一ヶ月前に突然ムツキは青龍の国の城へと呼び出された。
そこには見覚えのある者たちが多数存在していた。
どうやらかつての氷の勇者の従者たちの生き残りが集められたことは分かった。
彼女はそこで怪しい笑顔を振りまく男から氷の勇者と共に魔王軍と戦ってもらうと説明され、逃げる間もなく国から旅立つことになったのだった。
他の者たちは氷の勇者様と一緒に戦うという話を聞き、勇者に守ってもらえると安心したようだったが、ムツキの心には焦りが生じた。
ムツキの知る氷の勇者サムが誰かをを守って戦う姿を想像できなかったのだ。
しかも彼女はこの数年間戦闘訓練は疎か、まともに外出もしておらず、レベルも一切上がっていなかった。
そんな状態で魔王軍と戦っても戦えるわけがない。
彼女は彼女たちを率いて旅をする怪しげな笑顔の男に窮状を訴えたが、聞き入れられはしなかった。
しかしそれでも道中に出てきたモンスターを積極的に倒すことは認められ、ムツキは実に6年ぶりとなるレベルアップを果たしたのだった。
ちなみに旅の間に当然のごとく酒は取り上げられ、彼女は本当に久し振りに素面へと戻った。
そうして玄武の国に入国しカワヨコの町へと到着し、実に6年ぶりに氷の勇者サムと再会したムツキは驚いて言葉が出なかった。
目の前にいる少年と6年前の豚が同一人物だとはとても思えなかったのだ。
厳しい訓練をしてきたことが分かる引き締まった体、
周囲を睥睨する鋭い目つき、
歴戦の強者だけが放つことができる特有の強者の気配、
そこにはかつての氷の勇者の従者たちが夢想した若き勇者様の理想像が存在していた。
そしてムツキたちが驚いている間に話が進み明かされる驚愕の事実。
何と私たちは勇者様たちの戦いで、露払いに利用されるために集められたというのである。
この場にいる者たちは、私も含めてまともに戦うことすら出来ない。
このままでは死んでしまうと考えたムツキはサムに助けを乞うたが、すげなく拒否されてしまった。
それでもムツキはみっともなく縋りかつての婚約者に慈悲を乞うた。
初めて国の外を旅した事で、ムツキの心の中に変化が生まれていたのだ。
それは『まだ死にたくない』と言う気持ちであった。
玄武の国を旅し、この国が祖国よりも豊かで国民たちにも余裕があると理解したのはいつの頃だっただろうか。
祖国青龍の国に引きこもっていた時には気づかなかった気持ちに気づいた私は、粛清されることも厭わずにサムへと助命嘆願を試みる。
こればかりは他の者に任せる訳にはいかない。
この場にいる当時の氷の勇者の従者たちの中ではムツキが一番サムに近い立場だったのだから。
結局その場での助命嘆願は確約されなかったが、ちょうどいいタイミングで他の勇者様方が現れてくれたお陰で、何とか切り捨てられるような状況にはならなそうな雰囲気になった。
声を掛けてきたのがかつての騒動の決め手となったサムの兄であったことは遺憾だが、無い袖は振れない。
たった一言だけ挨拶をしておくだけでも、相手の心には記憶として残るものなのだ。
あそこで彼らに私たちの存在を認識させたことは、生存率に関わる重大な出来事だったのだと私は思っていた。
そして現在、ムツキはまだ生きてはいるが、無力感に苛まれながら1人戦場で立ち竦んでいた。
結局なんやかんやあったが最終的には露払いに使われ、見覚えのある仲間たちはほぼ全滅状態。
最後の最後まで突撃を躊躇していたお陰で橋の上で魔族に殺されることはなかったが、その後の魔王軍のアジトへの突入の際に戦闘の余波を受けて足をくじいてしまい戦線を離脱。
ポーションを使って回復をしている間に部隊には置いて行かれ、後からやってきた勇者様一行には気づいてすらもらえずスルーされ、周辺の怪我人の治療に当たっていたらなぜか空から闇の勇者とその仲間たちが落下してきて、魔王軍幹部の巨大ガエルと戦いを始めてしまい、次元の違う戦いに介入することも出来ず、無力感を噛み締めながら戦闘を見つめている。
一体私の人生は何だったのだろうか?
そんなことを考えながらムツキは、逃げることも戦うこともせずに只々その場に突っ立って、人外たちの戦いを眺め続けている。
目の前で刀を振るいカエルを追い続ける闇の勇者様は立派な方だ。
私よりも若いのに立ち居振る舞いにスキがなく、それでいて慈悲深いまさに勇者の中の勇者様である。
今も逃げ惑う私たちを守りながら魔王軍の幹部と渡り合う彼女を見ていると、選ばれし者の生き様を見せつけられているようで泣きそうになる。
私は水の勇者の勝手のお陰で歪んだ祖国のせいで氷の勇者の婚約者にさせられて、見限ったら村八分にされ、捨て駒として切り捨てられて、闇の勇者の戦いに巻き込まれて死ぬのか。
でもまぁ、仕方ないのかもしれないな。所詮私のような一般人は勇者様の活動の余波で吹っ飛ぶ程度の存在でしかないのだから。
私は闇の勇者様が弾きそこねたカエルの攻撃がまっすぐ私に向かって飛んで来るのを認識しながらそんな事を考え、しかし動くことも出来ずに突っ立っていた。
そんな私の前に大きな背中が立ちはだかり、迫り来るカエルの放った謎の攻撃は、私を庇った男に直撃した。
その攻撃はどうやら毒の塊だったらしく、シュウシュウと音を発しながら私を庇った彼は一瞬動きを止めてしまう。
しかし次の瞬間にはすぐに元に戻り、私を軽く一瞥してから、後ろを指差し逃げるようにと指示を出した。
口を開かないのは顔にも毒液を被っているからか。その顔はどこかで見た覚えがあり、誰だったかを思い出す前に2発目が飛んできたが、それはどこからか飛んできた大岩に阻まれこちらまで届くことはなかった。
「無事かエース殿!」
(コクッ)
「なら来てくれ、今度は向こうだ!」
その年老いた声を追いかけるようにその男性は私の前から去って行った。
それで思い出した、彼はサムの従者の1人、確かエースとかいう名の彼を更生させたという人物の1人だ。
ドクン!
私の胸が急激に脈打ち始める。
その正体が何なのかも分からぬまま、戦場は私の前を通り過ぎて行ったのだった。




