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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第四章 VS火の魔王編 後編
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第百八話 ロックVSマンティス

2018/01/04

途中の文章が読みづらいとの指摘がありましたので、改稿しました。

 ロックは血塗れで倒れ込んだライの治療をロゼッタとシャインに任せ、3人の横をすり抜けてマンティスの前に立ちはだかった。


 ロゼッタの手によりポーションとハイポーションを浴びるように注がれたその体は、先程までと比べれば明らかに回復しているように見える。

 しかし、文字通り骨まで焼き尽くした火の魔王の攻撃を完治させるまでには程遠い。

 未だに全身からオートヒールによる治療中の湯気が立ち昇り続けているのがその証拠だ。

 しかしロックは立った、立たなければならなかった。

 勇者の供であるライがその責務を全うし、文字通り命をかけて勇者復活までの時間を稼いでくれたのだから。


 『勇者は強いが完璧ではない。だから、いざという時に手助けしてくれる仲間が必要』


 それこそが勇者の供の制度の根幹を成す考えであり、今この時、ライは勇者の供としての責務を全うしたのだ。

 未だに受けたダメージは回復せず、体はまともに動かない。

 しかしそれでも動かねばならない。

 勇者として目の前の死にそうになっている仲間を見捨てるわけにはいかない。

 おまけにその理由が、自らを守るためだったとなればなおさらだ。

 ロックはふらつく体を懸命に立て直しながらマンティスへと近づいて行ったのだった。


 それを見てマンティスはチャンスだと考えた。

 相手は死に体からは脱出したようだが、傷は完治しておらず完璧とは程遠い。

 それに仲間の1人は瀕死の重傷で、残りの2人はそいつの看病に掛かりきりだ。

 つまりこの場で勇者を手助けできる者はもはや誰一人として存在しない。

 この場で勇者を始末し、残った者たちも始末すれば、存分に魔王様のお役に立てるというものだ。


 マンティスはそう考え、まずは目の前の勇者を倒すために、左腕の鎌を振り上げた。

 まともに歩くことも出来ない相手だ。あまり手間を掛ける必要もないだろう。

 マンティスは鎌を振り下ろし、ロックの首を切断しようと試みた。

 しかしその瞬間、マンティスに突如加速したロックの放った蹴りが炸裂し、マンティスは大きく吹き飛ばされたのであった。



 ロックは蹴りでマンティスを吹き飛ばすことができたのを見て、どうにか戦えるようだと安堵の溜息を付いた。

 どちらかと言えば足技は苦手であるが、正直そうも言っていられない。

 先程受けた魔王の攻撃で上半身の装備は全壊し、腕は未だに動かすことが出来ない。

 だがロックが得意とする戦法は格闘戦である。

 腕が使えなくとも足で戦うことはできるのだ。

 幸い下半身の装備は残っており、耐火性能の高いブーツやすね当ても丸々無事である。

 蹴りを入れてもマンティスの全身を覆う炎に逆に焼かれることはなさそうなので、追加の火傷を気にする必要もない。


 ロックはマンティスの攻撃を掻い潜りながら、次々と攻撃を加えていく。

 前蹴り、膝蹴り、回し蹴り、かかと落とし。

 ロックの攻撃は確実にヒットし、ダメージを与えていく。

 こいつはこのままここで倒す!

 ロックは攻撃のスピードを上げていくのであった。



 つい先程までロックの治療に全力を注いでいたロゼッタは、現在ライの治療に四苦八苦しており、己の準備不足を後悔していた。


 ライは現在、半死半生になりながらもどうにか命を繋ぎ止めている。

 しかしその治療は遅々として進んでいない。

 なぜなら回復に必要なポーションの数が足りないからだ。


 ロゼッタは弟であるロックの治療の際、出し惜しみなどせず手持ちのポーションを浴びるように振り掛け、飲ませていた。

 そうしなければならないほどロックの傷は重症であり、ライが稼げる時間は少なかったのだ。


 ロゼは薬師であり、植物使いではあるが、アイテムボックス能力は持っていない。

 ロゼのパーティーでアイテムボックス能力を持っていたのは勇者であるアナだけである。

 それでは万が一勇者が危機に陥った時に助けることが出来ないため、闇の勇者のパーティーの残り2人、ロゼッタとエリザベータは、今回の戦いが始まる前に城の宝物庫からアイテムボックス能力を持つマジックバックを持ち出し、そこにポーションやら薬品やらを入れて持ち運んでいた。


 だがそのマジックバックは、アナの持つ『無限収納』は愚かナイトの持つアイテムボックス能力と比べても、格段に少ない数しか収納できなかった。

 だからロックの治療を優先した現状、ライが完全に復活できるほどの数のポーションは残っていなかったのだ。


 だが、ポーションの数が足りないからと言って、治療を諦めるわけにはいかない。

 幸いにしてロゼッタは、この世界では珍しい医術の心得のある医者の卵でもある。

 回復しきれなかった傷口は水を使って丹念に洗い流し、持ってきた包帯を用いてライの傷の手当をしていく。

 タートルの町での修業時代に手にした技術が初めて役立ち、ロゼッタは何でもやっておくものだと感心していたのであった。


 そして治療中のライは、血を失ったお陰でふらふらになりながらもロックとマンティスの戦いを見ていた。

 ロゼ姉は治療中で気が付いていない。

 シャインも一杯一杯になっており、気が付く様子もない。

 ロック王子も戦いに集中しているためか気が付いていそうにない。

 少し離れて全体を見渡しているライだけが気づいていた。

 『視覚強化』のスキルの恩恵で、視力に優れるライだけが気づいていたのだ。


 マンティスの背中、正確に言うと今は閉じられている羽の隙間から見える体内で、赤く燃えている炎が段々と火力を増し、禍々しい赤黒い炎へと変貌していることに。

 それはまるで、マンティスの体内を侵食する呪いのようにも見えたのであった。



 マンティスは土の勇者の猛攻に追い詰められていた。

 目の前の土の勇者は魔王様から受けた傷が治りきっておらず、万全とは言えない状態だ。

 そしてマンティスのほうは、つい先程魔王様から新たな力を授かり、パワーアップを果たしている。

 しかし、それでもマンティスは所詮は新米幹部でしかなかったのだ。

 魔王様に殺されかけボロボロになっている新米勇者と、パワーアップを果たした新米幹部の力関係は、これだけ有利な条件下においても、勇者のほうに軍配が上がっていたのである。


 マンティスは左手の鎌を振るい、右腕の火の鎌を振るいながら、同時に魔法も放つ。

 しかし土の勇者は鎌の側面を蹴り飛ばし、魔法を耐え抜き、攻撃の隙間を縫うように一撃を加え、じわじわとマンティスを追い詰めてくる。

 土の勇者は『格闘の天才』持ちだという話は聞いていたが、足技だけしか使っていないにも関わらず、マンティスは接近戦において、目の前の勇者に全く敵わなかった。


 正直このまま戦っていても勝てそうもないので、当初の予定通り足止めに徹し、魔王様や他の側近が勝って援軍が来るのを待つべきだろうかと、マンティスは諦めかけていた。

 だがそれは不可能となった。

 もう数えるのも面倒臭いほどのクリーンヒットをもらい、何度目か覚えていないほどに吹き飛ばされた時のことだ。

 突然マンティスの体の中からこれまでとは違う禍々しい赤黒い炎が吹き出したのだ。


「な!?」


 それはマンティスの体を一瞬で覆い尽くし、同時にマンティスの思考をも塗りつぶしていく。

 意識を手放す直前、マンティスの脳裏には、この力を授けた魔王様の無邪気な笑みが映っていたのだった。



 ロックは突如目の前で赤黒い炎に全身を包まれたマンティスに度肝を抜かれた。

 ここでまさかの再パワーアップなのかもと思ったが、それにしては様子がおかしい。

 マンティスは赤黒い炎に包まれた瞬間絶叫を迸らせ、手足をバタつかせながら炎に飲み込まれていったのだ。

 そして動きが止まったロックの横を一本の槍が通り過ぎていく。

 見覚えがありすぎる、これはライが使っている氷の槍だ。

 恐らく回復を終えたライがマンティスへと攻撃を加えたのだろう。

 振り返って状況を確認したいが、目の前の敵から目を離すわけにもいかないので多分に想像混じりではあるが。


 槍は一直線にマンティスへと向かうが、直撃する直前に弾かれ地面に突き刺さってしまった。

 そしてその奥から出てきたのは全身が赤黒く染まったカマキリの化物であった。

 体型は先程までと一切変わっていない。

 しかし迸るプレッシャーは格段に上昇している。

 まるで赤黒い炎の化身になったかのようなマンティスではあったが、ロックは迷うことなく攻撃を再開した。


 相手がどのような変化を遂げたとしても、結局のところやることに変わりはない。

 未だ腕は上がらず、全身が治療中という現状、使える部位は足しかないのだ。

 ロックは先程までと同様、目の前の魔族へと蹴りを繰り出した。


 マンティスはその蹴りを回避する素振りすら見せず、無防備に攻撃を喰らってしまう。

 しかし喰らったと同時に、マンティスはロックへと攻撃を仕掛けてきた。

 ロックは体を捻って攻撃を回避し、連続して攻撃を繰り出していく。

 ロックの攻撃は全てマンティスに当たった。

 だが同じ数だけの攻撃をマンティスは繰り出してきたのであった。


 突如戦い方の変わったマンティスにロックは訝しげな視線を向ける。

 先程までと違い、スピードもパワーも上がっている。

 だが動きは直線的になっているので、攻撃を見切ることは容易だ。

 こちらの攻撃は避けることなく受け続け、狂ったように攻撃を繰り出し続けるその姿は、まるで理性をなくした狂戦士のようであった。


 しばらく拮抗した状態が続いたが、均衡を破ったのはマンティスであった。

 段々と体から立ち上る炎の量が増加していき、攻撃の速度が上がっていく。

 ロックは徐々に攻撃を捌けなくなり、マンティスの攻撃を受け始めていた。


 だがそれと同時に、マンティスの体は段々と崩れ始めていく。

 燃える木材が端から段々と炭化して崩れていくように、マンティスの体も焼け焦げながら崩れ落ちているのだ。

 どうやら文字通り命を燃やし、力に変えて襲い掛かってきているようである。


 「グウオオオォォォ!!」


 マンティスは絶叫を上げながら勇者の命を奪いに来る。

 このままでは遠からず、致命傷を負ってしまうだろう。

 だがそれはあくまでも一対一だった場合の話だ。

 勇者は勇者の供と共に戦いに望む。

 そしてこの場にはまだまだ元気な仲間がいたのであった。



「下がりなさいロック!」


 その声が聞こえた瞬間、ロックは大きく後退し、マンティスは追撃を仕掛けて前進した。

 そしてマンティスの体は突如地面から生えてきた木に絡め取られ、上空へと持ち上げられていったのであった。



 突如謎のパワーアップを果たしたマンティスに弟であるロックが追い詰められている姿を見せられた私は、相手にスキを作るためにロックに後退を命じた。

 ロックは素直に指示に従い、後ろに下がって相手との距離を取る。

 そして私は追いかけてきた相手の足元で植物生成の能力を発動させ、相手を木に絡め取って上空へと持ち上げた。


 私の能力は他の皆と違って非常にシンプルだ。

 ステータスこそ優秀だが、未だに満足に使いこなせていないし、特別な攻撃能力も持っていない。

 持っているスキルで戦闘に使えるものは『上級植物使い』の付属能力である植物生成くらいしかない。

 だからこそ私は旅の最中に訓練を続け、植物生成能力を使いこなせるようになっていたのである。


 自由自在に植物を生み出す植物生成の使い方として私が選んだのは、障害物として使うという方法であった。

 火の魔法に対しては難燃性のある樹木を生やし、動きの早い相手に対しては足元から植物を生やすことにより障害物として使用する。

 木に絡めて拘束出来たのならば上出来だ。

 これは直接の攻撃には使えないが、防御や拘束といった攻撃の補助として役に立つ能力だったのだ。


 木に絡め取られて一度は戦線から遠ざけたマンティスだが、あっという間に拘束を解き、今度は上空から襲い掛かってきた。

 そこにシャインが飛び出し、マンティスの目の前でいつもの様に強烈に発光したのであった。


「ライトボディ!!」


 シャインが使ったのはいつも使っている全身を発光させる魔法だ。

 しかしこれは初見の者からすれば、強烈な目潰しとして機能する。

 マンティスはシャインの発光をまともに見てしまい、その視界を奪うことに成功していた。


 落下の途中で視界を奪われるのは致命的だ。

 マンティスは私たちの姿を見失い、ロックはそのスキを見逃さずにマンティスを串刺しにしてしまった。

 マンティスを串刺しにしたのは、もちろんライが使っていた槍である。

 ロックは地面に突き刺さっていた氷の槍を口に咥え、相手の落下速度を利用して相手に突き刺し、そのままの勢いで木に縫い付けてしまったのだ。


 マンティスは手足をバタつかせて槍を抜こうと試みる。

 だが鎌と化した両腕が災いし、マンティスは槍を抜くことが出来ない。

 まぁあれだけ深く刺さってしまっては、たとえ腕があったところでそう簡単に、抜くことは出来ないだろうが。


 こうして私たちは、魔王の側近の1人、マンティスとの戦いに勝利したのであった。

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