第百九話 VSバーニング・スネーク
ロック、ロゼッタ、ライ、シャインの4人が魔王軍幹部マンティスと死闘を演じていた頃、この俺、ナイト=ロックウェルとエル、そして氷の勇者であるサムとその供のキングもまた魔王軍の幹部を相手に戦いを繰り広げていた。
ライにロゼとシャインを背負わせてロックの救出に向かわせた後、俺たちはテルゾウ殿と火の魔王の戦いを横目に見ながら平地の最奥まで進み、そこでテルゾウ殿の一撃を喰らい、吹き飛び、倒れ込んでいるバーニング・スネークと対峙した。
テルゾウ殿の一撃は相当強烈だったのだろう。
奴はしばらく藻掻いていたが、俺たちが近づいてきたことに気が付いたのか、その巨体を起こし、遙か上空から俺たちの姿を睨みつけた。
つーか、でかい。デカすぎる。
いや、つい先程まで山に擬態していたわけだから、デカくて当たり前なのかもしれないが、このデカさは規格外すぎるだろう。
そして長い、兎にも角にも長いのだ。
デカくて長いウネウネと動く巨大な壁が目の前に存在している。
伝説に聞く巨人とかドラゴンよりも大きいのではないだろうか。
もう正直こいつが魔王で良いんじゃないかと思えるくらいの貫禄である。
「それでどうするんだ兄さん。1年間勇者として活動してきた俺様も、こんな化物と戦った経験はないぞ」
「いや、どうするもこうするも戦うしかないだろう。俺たちの役割はテルゾウ殿が魔王を倒すまで側近を足止めすることなんだから」
「一撃もらったらそれだけで殺されちゃいそうな程大きいねぇ」
「でもやるしかないっすよ! 大丈夫! 兄ちゃんとサムがいれば何とかなるっしょ!」
「だな、取り敢えずサムは突撃。エルとキングと俺は遠距離から……いや、地面に穴を掘って、その中から援護をしよう」
「穴の中から援護?」
「あの巨体だ、どれだけ遠くに離れていても攻撃が届く可能性がある。俺がこの場に低い落とし穴を作るから、キングが引っかかって穴を作ってくれ。穴の中に入って、隠れながら攻撃すれば、ピンポイントで狙われない限り攻撃が当たることもないだろう」
「了解だ、それでは突撃を敢行する!」
「頑張ってね~」
「無理すんなよサム!」
そしてサムはスネークに向かって突撃していき、俺は足元に『罠作成』を用いて落とし穴を作り、キングに引っかかってもらって作った穴の中に身を潜ませ、遠間からの攻撃を開始した。
エルとキングは魔法を、俺はアイテムボックスから弓矢を取り出して相手に向かって撃ってゆく。
ついでにテルゾウ殿との戦いで作り上げたカタパルトの罠を用いて、蛇の頭へと毒の詰まった薬瓶をぶつけていく。
標的は遠くにあるものの、巨体過ぎるため狙いは外しようがない。
山に擬態していた時と比べて、表面の硬さはそれ程でもないのか、矢は刺さり、魔法でも傷を与えることが出来ていた。
しかし毒は効果を発揮していない。
顔に当たっているのは間違いないので、ひょっとしたら毒耐性の能力を持っているのかもしれない。
俺は一通りの毒を打ち出して効果が無いことが分かると、大人しく弓を使い、サムの援護に徹したのであった。
その間、もちろん相手も反撃を仕掛けてきていた。
スネークの攻撃は実に単純明快である。
余計な武器も魔法も必要無い。
ただひたすらに自らの体をのたくらせ続ける。
そしてそれだけで十二分に効果的なのだ。
何しろこの巨体である、横薙ぎに体を振るえば、壁が迫ってくるが如しであり、上から押しつぶそうとすれば、ビルが降ってくるような迫力があるのだ。
ただ巨体でありさえすれば、余計な小細工は必要ない。
そう主張するかのごとくスネークは暴れまわり、俺たちが戦っている周辺の大地は段々と平らに均されてしまったのであった。
そんな攻撃が続けば流石に俺たちが身を隠している穴にも被害が出るが、その頃には俺たちは最初の穴にはいなかった。
こちらには土魔法を扱うことが出来るエルとキングがいる。
俺は2人に支持を出して、最初に作った穴から横に穴を広げていき、戦場の至るところをまるで塹壕のように掘り進めたのだ。
俺たちは縦横無尽に広がった塹壕の中を移動しながらスネークに攻撃を仕掛けていく。
多方向からの攻撃を加えることで相手の注意を散漫にするという目論見は見事に成功していたのだった。
そんな中でサムは、スキを見つけてはスネークにハンマーを叩きつけていた。
サムの攻撃は効果的であった。
サムがハンマーを振りかぶり一撃を加えるたびに、スネークの巨体はくの字に折れ曲がり、その巨体はグラついていく。
流石は勇者だ、その攻撃力は決して巨体のスネークにも劣っていない。
このまま攻撃を加え続ければそう遠くないうちに倒せるだろう。
俺たちはそう考え、攻撃を続行していった。
それが間違いだと気づいたのは、その状態が10分以上続いた頃であった。
「ぜー、はー、くっ、くそ! 一体全体どういうことだ!」
「不味いな、全く攻撃が効いていない。……いや、ダメージが通ってもすぐに回復されているのか?」
「不味いよ兄ちゃん! さっきから攻撃が当たっても、傷口がすぐに塞がっちまう!」
「ロックと同じくオートヒール持ちか?」
「……違うと思うな、魔力の揺らぎを感じない。こいつは魔力を一切使ってないよ」
「じゃあ何なんだよ! このままじゃこっちの体力が先に尽きちまうぞ!」
「しっ! 静かに! 砂埃が上がったどさくさで視界から消えたんだ。相手に位置がばれるのは不味い!」
現在俺たちは、スネークから見えない角度に作った穴のひとつに集合し、作戦会議をしている。
スネークは俺たちを見失い、見当違いの場所で暴れ続けている。
蛇と言えばピット器官という温度センサー持ちだからすぐに居場所がばれそうなものだが、案外そうでもないようだ。
恐らくスネーク自身が発火しているために折角のピット器官が使い物にならなくなっているのだろう。
それは良かったのだが、現状は決して楽観視出来るのものではなかった。
俺たちはずっと攻め続けているにも関わらず、未だスネークを倒すことが出来ないでいた。
向こうもこちらを倒せていないので互角の戦いを繰り広げていると言えるかもしれないが、こちらは4人がかりでしかも1人は勇者なのだ。
そして相手はその勇者の攻撃を何度も喰らいながらも未だにピンピンしながら戦いを続けていた。
この状況は予想以上に俺たちの心を削っていた。
俺たちは土、闇、氷と共に旅する勇者は違えども、圧倒的な実力を誇る勇者と共に旅をし、戦ってきた経験を持っている。
その経験から言うと敵というのは、勇者の一撃を受ければただそれだけで倒されてしまう生き物だったのだ。
それなのに目の前の巨大ヘビは、何発どころか何十発も勇者の攻撃を受けているのに、全く倒れる気配がない。
魔王もその幹部も一筋縄ではいかないと分かっていたのに、いざ実際に戦ってみると、いかに今まで楽な戦いしかしてこなかったのかを理解し、一撃で沈まない敵に精神的に追い詰められてしまっているのだ。
しかも俺たちの仲間は半分は魔法使いだ。
体力的にも長期戦は厳しく、俺たちは直接的なダメージを受けていないにも関わらず、自壊寸前にまで追い詰められていた。
だが、そこに救いの手が差し伸べられる。
但しその救いは、侮蔑と嘲笑が入り混じった苦いものであったのだが。
「やれやれ君たちは、本当に君たちは未熟者だね! 揃いも揃って一体全体何をやっているのかね! か~ね!」
「「ジェイク!」」
「ジェイクじゃん! あれ、何でそんな所から出て来るの?」
現れたのはジェイクであった。
ジェイクはスネークの裏側からひょっこりと顔を出してきた。
それを見て俺たちは揃って頭に疑問符を浮かべる。
俺たちが戦っている場所は島の中央にある平地の端である。
そしてスネークはそこの端に陣取り、俺たちは中央に背を向けて戦っている。
つまりジェイクは平地の向こう、ここに来るまでに通ってきたような坂道から顔を出したという事になる。
わざわざ迂回して相手の後ろを取ったのか? 相手の裏をかき奇襲を仕掛ける目的で。
いや、それはないだろう。それならば声を掛けたりはしないはずだ。
「何でも何もテルゾウの馬鹿が全ての元凶だ。あのアホ勇者め、この蛇と一緒に私も吹き飛ばしおったのだよ!」
「……マジで?」
「大マジだ。お陰でもう一度山登りをする羽目になったぞ」
「あ~、そりゃ大変だったな」
「なぁに構わんさ、主役は遅れてやってくるものだからな」
「勇者を差し置いて劇作家が主役かい」
「主役に決まっているではないか、見たところ攻めあぐねているのだろう?」
「グッ! 痛いところを突くな」
「突くさ、この程度の相手も倒せない未熟者などに遠慮する必要がどこにある」
「何だと?」
「気が付いていないのか? 先程から呑気に会話をしているのに、私は一切攻撃を受けていないではないか」
「あ?」
「あれ?」
そう言われて見れば確かにジェイクは隠れもせずに堂々と姿を表しているのにスネークからの攻撃を受けていない。
というか、声を聞けば俺たちの位置だって丸分かりのはずなのに、俺たちも一切の攻撃を受けていない。
見ればスネークはジェイクを凝視し、その姿を見逃すまいと視線を固定していた。
俺たちは完全に無視だ。その目はジェイクだけを捕らえている。
蛇の目付きなど全く分からないのだが、雰囲気で分かる。
こいつひょっとして怯えているのか?
「それで先程の話だがな、サム殿の攻撃はこいつに上手い事躱されていたのだよ」
「躱されていた? 何を言っている、俺様の攻撃はしっかりと当たっていたぞ」
「そりゃ違う、正確には『しっかりと当たっていた様に見える様に相手が動いていた』ってだけのことだ」
「しっかりと当たっていた様に見える様に動いていた?」
「要するに動きが読みやすかったから、当たる直前に体を逸らしてクリーンヒットを防いでいたのだ。いくら勇者の攻撃であっても、威力を殺すことが出来れば致命傷には成り得ない。相手の演技に見事に騙されたな」
「そうだったのか……」
確かに思い出してみれば、蛇の動きは極端だったかもしれない。
右に左に体が動いていたからサムの攻撃の威力が強いのかと思っていたのだが、あれは相手の演技だったのか。
「とは言え、流石に完全にダメージを逃がすことは不可能だったから、このまま続けていれば勝てるのだろうがな」
「本当かよ? 全く攻撃が効いていないように見えるのだが……」
「それは全体を見ていないからだ。注意深く見さえすれば、段々とこの蛇の体が小さくなっていたことに気が付いたはずだ」
「なんだって?」
「この再生能力のカラクリは生命力の変換なのだろうな。大方魔王から授かった力を体内で発動させて巨体になったものの、その際に魔力を完全に使い果たし、体の再生には生命力を使わざるを得なかったのだろう」
「あっ、だから魔力を感じないんだね」
「そういうことだな。だがそのお陰でまんまと我々を騙したのだがら実際大したものだよ」
そう言ってジェイクはゆっくりとスネークへと近づいて行く。
そしてある一定距離まで近づくと、とうとうスネークはジェイクから距離を取るように後じさりを始めた。
信じられない。戦えるとは聞いていたが、まさか魔王の側近を遠ざける程の力量があったのか。
そうしてスネークはジリジリとジェイクから遠ざかろうとするが、そうすると当然反対方向にいる俺たちの方へと近づいてしまう。
そして結構な距離まで近づいたスネークはようやくそこで俺たちの存在を思い出したのだろう、体を振るって俺たちを弾き飛ばそうと試みた。
しかしその時、その巨体が災いしてしまった。
多少小さくなったとは言え、スネークは山に擬態していたほどの巨体だったのだ。
そんな体で攻撃を繰り出そうとすれば、当然のことながら周囲もその攻撃範囲に含まれてしまう。
そして今回の攻撃範囲には距離を取っていたジェイクも含まれていた。
スネークの尻尾がジェイクへと迫る。
ジェイクは避けもせず迫る巨体を眺めている。
ジェイクは何かを懐から取り出し、迫りくる蛇の体へと向けた。
そして巨体がぶつかり、ジェイクが弾き飛ばされたと思った瞬間、ジェイクに迫っていた蛇の尻尾が爆散し、蛇は絶叫を上げながらその体を大幅に縮小したのであった。




