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城下町の門をくぐると、四人乗りぐらいの馬車の前に、エルフの男女が立っていた。
リィム隊長が「ご苦労、よろしく頼む」と言うと、「かしこまりました」とエルフの男が馬車のドアを開けた。
「クルト王子、馬車に乗るのは初めてか?」
「はい、以前馬の後ろに乗せてもらったことはあるのですが」
「そうか、その手があったか」
ふむ、とリィム隊長が考えこむ。
その手って、どの手なんだろう。
「馬に二人乗りした方が、密着度が上がるではないか」
「は、はい?」
「いやしかし長旅だからこそ、馬車の方が…あ、すまない、では、乗ろうか」
リィム隊長って、結構おもしろい人なのかな?
口調がトモエ隊長と同じ軍隊式だから、お固い人だと思ってたけど。
馬車の中
四人乗りだから二人だと結構快適だった。
足も伸ばせるし、ソファはふかふかだし、思ったより揺れないし。
「クルト王子の家族は暖かいな。以前来たときはもっと空気が張り詰めていた気がするが…」
「そうなんですか?…僕は最近になって家族と話をするようになったもので……以前の母上と父上のことはあまり知らないんですよね…」
重い空気にならないように、あはは、と笑顔で言った。
「すまない、クルト王子…嫌なことを思い出させてしまったか…」
「いえ、大丈夫ですよ。今となっては過去の自分が懐かしいです。ほんの数ヶ月前までのことなのに…」
「……女王陛下から今回の研修は、クルト王子に色々見せて、色々聞かせて、色々経験させてほしいと言われたのだ。なんだったら、エルフの国にいる間はずっと遊ばせてもいい、楽しませてやって欲しい、ともな」
「は、はぁ」
「クルト王子はどうしたい?」
「え、えーっと、ちょっと考えさせてもらっていいですか?」
「分かった。エルフの国に着くまで二日ある。私との会話の中から見つけるのもいいだろう」
しばらく外の景色を見ながら、お互い喋らなかった。
何を話していいか分からないってのもあるけど、リィム隊長も話しかけて来ないから、きっと疲れてるのかなって思って、黙ってた。
ガタゴト。
ガタゴト。
心地よい揺れだ…。
馬車ってあまり乗り心地が良くないって本で読んだけど、全然快適だよ…。
うーん、朝早かったせいか、少し眠くなってきたな…。
いや、リィム隊長の目の前で寝るのは失礼だろ……王女なんだぞ……
ぐー。
「クルト王子」
「は!?はい!?」
「少し休憩にしよう。馬を休ませる」
「わ、分かりました!って、ええええ!?」
いつの間にか僕はリィム隊長の肩に頭を預けて、寝ていたみたいだ。
あれ?ていうかリィム隊長は、僕の前に座っていたのに…
「ソファにそのまま横になると寝苦しいかと思い、こちらに移動したのだ」
「す、すみません、寄りかかっちゃって…」
「別に良い。気持ちよさそうに寝ていたぞ、ふふ」
気づけば、片方の手はリィム隊長の手を握っていた。
「あ、す、すみません、手を握ってしまって…」
「ふふ、クルト王子の方から握ってきたのだぞ?覚えておらぬか?ははは」
「あ、ははは…」
「起きてるのかと思って、ドキッとしたぞ。寝た振りをして、私が横に来るのを待っていたのかと…」
リィム隊長の顔が少し赤くなった。
照れてる顔がすごく綺麗だった。
僕は目を奪われた。
「ふふ、そんなに見つめられたら、穴が空いてしまいそうだぞ」
「ご、ごめんなさい」
「さっきから謝ってばかりだが、謝る必要はないのだぞ?私がクルト王子にしてあげたことなのだから、気にせずともよい」、
「さ、外に出て少し体を伸ばそう」とリィム隊長は僕を馬車の外に連れ出してくれた。
草原。
周り一面見渡す限りの大草原。
心地よい風が吹き、目には緑以外入ってこない。
思わず「すごい…」と声を漏らしてしまった。
「この辺は緑が多いから、景色が良いだろう?」
「はい…」
「アイネリアから馬車で三時間ほどだ。馬に乗れば二時間くらいで着くであろう」
「え、ということは僕…結構寝てました…?」
「あぁ、三時間くらいな。寝る子は育つ、良いことだ」
はっはっはっ、と気持ち良い笑い声を聞かせてくれた。
僕は恥ずかしくて、ちょっと照れた。




