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今日の訓練は、問題なく終了。
ちょっと技術訓練のときのトモエ隊長の剣が、重たかったぐらいで。
・・・問題なく終了。
僕は晩御飯とミーティングを済ませた後、明日の出発に備えて着替えや装備などの準備をしていた。
コンコン、と部屋のドアがノックされる。
誰だろう?
僕はドアまで行き、そっと開いた。
「クルト・・・」
「と、トモエ隊長!!」
「だめだった・・・」
「え?」
トモエ隊長はそう言うと、僕をいきなり抱きしめてきた。
少し震えている。
こんな弱々しいトモエ体調は初めてだった。
「ど、どうしたんですか!?何がだめなんですか!?」
僕は緊急事態だと思い、トモエ隊長の肩を掴んで顔を上げさせ、目を見つめた。
「エルフの国に、一緒に行けなくなった・・・」
「え・・・?」
「女王が、だめだって・・・」
「・・・」
「私が城にいないと、何かあった時に大変になるから、って・・・」
「トモエさん・・・」
母上の言うことも最もだ。
父上の次に強いとされているし、指揮系統やカリスマ性など全てにおいて必要な人材だってことだ。
でも、母上はトモエ隊長の気持ちを知っていて、城に残るように命じたんだろうな。
辛い、よな・・・
「僕も・・・すごく残念ですが、それだけトモエさんがこの城にとって、女王にとって、必要な存在だってことですよ!!」
「わかっている!!・・・わかっているんだけど、な」
トモエ隊長が力なく立っているのがわかる。
僕はトモエ隊長を部屋に入れ、テーブルの前に座らせ、紅茶を入れてあげた。
「すまないな、クルト・・・」
「いえ、でも、こんなトモエさんを見るの、初めてで・・・どうしたらよいか・・・」
「最近の私は、おかしいよな。クルトのことで一喜一憂だ・・・鉄面皮の鋼鉄女はどうしたって話だよな」
「そんな、トモエさんは・・・」
なんか自嘲気味になってるっていうか、卑屈になってるっていうか、どっちにも当てはまらないっていうか。
本当に僕はどうしたらいいか分からなかった。
「一緒に行けるって確信していたんだ。女王にはクルトのことを報告していたし、私のクルトへの気持ちもバレていたみたいだし」
「・・・」
「きっと、ダメだって言われたときの私の顔は、いつもの顔では無かったはずだ。がっかりした、落胆した、そういう顔をしたんだと思う。女王が、いつもより優しかったからな」
「トモエさん・・・」
だめだ、本当にどうしたらいいか、分からない。
僕は座っているトモエ隊長を後ろから、抱きしめた。
「ちゃんと、帰ってきますから。研修、がんばりますから。帰ってきたらこうしてまた、二人で紅茶を飲みましょう。約束、しましょう」
「クルト・・・」
「帰ってきたらまた筋トレと技術訓練、知能テストのための勉強、トモエ隊長と一緒にがんばらなきゃいけないことがいっぱいあります」
「あぁ・・・」
「今のトモエさんを見ていると、僕まで寂しくなってきます・・・いつも通り、ビシッとしたトモエさんで、僕が安心して研修にいけるように、見送ってほしい、です」
う、うーん、どさくさに紛れて図々しいこと言ってる気がする。
お、怒られないかな・・・
「よし!!」
っといきなりトモエ隊長は立ち上がった。
後ろから抱きしめていた僕は、後ろに尻餅をついてしまう。
「何をウジウジしていたんだろうな、私は!!これも初めてのことだったから、どうしたらいいか分からなくて、気づいたらお前の部屋にいたんだ」
「・・・」
「もう大丈夫だ。クルトのおかげで、自分がどうしたら良いか分かった。ありがとう、クルト。」
「良かった、いつものトモエさんに戻った」
僕は、ホッとした。
もうトモエさんは悩んでる顔をしていない。
「まさか10歳以上離れているクルトに元気づけられるとは、な」
「あ、あはは・・・きっと僕だけしか見たことないトモエさん、でしたよね」
「お前にだけしか見せない、私か、ふふ」
その後、また二人で紅茶を飲んだ。
二人で肩を寄せ合いながら・・・
たまに手を握られたりとかされながら・・・
「そういえばクルト、昼のことなんだが」
「(ビクッ!!)」
「なんだ、何かやましいことがあったのか?」
「や、やましいことなんてないですよ!ただ僕の手料理が食べたいと言われたので、料理を作って食べてもらっただけです!!」
「ほう・・・手料理を、か」
「えぇ、そ、それだけ、です」
繋いでる手がギューっと強くなる。
怒ってる、のかな・・・
「体に触れられたりしていないのか?」
「ふ、触れられてないし、触れていませんよ!ただちょっとおまじないとか言われ・・・あ」
「おまじない?」
素直な僕はいつも通り自爆した。
回避、できるか!?
「いえ、なんでもないです!」
「おまじない?」
「いえ、なんでも、ないです」
「おまじない?」
「あの、その・・・」
「おまじない?」
トモエ隊長は逃がさないぞという目で、無限ループした。
僕は、負けた。負けてしまったのだ・・・
「・・・・・・ほっぺにキスされました」
「ほう、それで?」
「・・・・・・エルフの国のしきたりで、されたら同じことを相手にしてあげないといけなくて・・・」
「ほう、それから?」
「・・・・・・ほっぺにキスしました・・・」
「なるほどな、クルトはどちらの頬にキスされたのだ?」
「・・・・・・右側、です」
「クルトが無事に私のもとに戻ってきますように」
「え!?」
トモエ隊長が僕の左頬にキスをしてきた。
しっとりとした、優しい感触だった。
「さて、クルト」
「は、はい」
「私の故郷ではおまじないをされたら、相手に同じことをしなければならないしきたりがあってな」
「・・・」
「さ、いつでもいいぞ」
ぜ、絶対ウソだ!!
でも、なんか、すごく可愛いというかなんというか。
いつものトモエ隊長とのギャップが、こう、グッとくるというか。
「トモエさんが無事に僕を迎えてくれますように」
「あ・・・」
そっとトモエ隊長の左頬にキスをした。
一瞬、ピクっと動いたのが分かった。
唇を離したくない、そんな感触だった。
「む、むぅ」
「あ、なんか、おかしかったですか!?」
「いや、なんというか、こう、胸が高鳴ってしまって」
「は、はぁ」
トモエ隊長はモジモジしていた。
く、ずるいぞ、そういった仕草をするのは・・・
「ありがとう、クルト。無事にいってこい」
「ありがとうございます、トモエさん!!」
ははは、二人で笑いあった。
良かった、トモエ隊長にちゃんと見送ってもらえて。
よし、準備をして、早めに寝よう。
明日は早いんだ。
「おやすみ、クルト」
「おやすみなさい、トモエさん」
「って、なんで僕のベッドにトモエさんが!!」
「明日は早いのであろう?私がしっかり起こしてやろう。さ、こっちを向け」
「え、いや、その」
「ほら、私の胸で休め。良い夢を見ろ、な」
押しに弱い僕は、なし崩し的にトモエ隊長と僕のベッドで寝た。
あー、うん。
流されやすい性格、直した方がいいの、かなぁ・・・




