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ジェシカさん事件のあとは、また一人で筋トレをして午前中は終わった。
さて、食堂はまだ飯抜きだから、自分の部屋に帰って食べよう。
「クルト」
「あ、リィム隊長、お疲れさまです!!」
「昨日から疑問に思っていたのだが、クルトは皆と同じように食堂へ行かないのか?」
「あ、それは……」
僕はかいつまんでリィム隊長に説明した。
ボコボコにされて気を失ってルールを破ったなんて言ったら、どんな顔されるやら……
別にいいんだけど、なんかカッコ悪いし、ね。
「なるほどな、それで自炊をしている、と」
「はい…でも最近始めたばかりなので、失敗しながら覚えてるところです」
それでは、と僕はリィム隊長の前から立ち去った。
昼休みの時間は貴重だからね。
貴重なんだけど……
僕が部屋に帰ってくると、テーブルの前にはリィム隊長が座っていた。
「おかえり、クルト」
「えっと……」
「不用心だな、鍵がかかっていなかったぞ」
「取られて困るものもありませんし…」
なぜ先回りされた!?
なぜ僕の部屋を知っている!?
「クルトの手料理が食べたい」
「え!?いや、そんな、リィム隊長に食べてもらうほどの物なんて作れないですよ!!」
「別に豪華な物が食べたいんじゃない。クルトが作った物を食べたいんだ」
だめかな?と小首を傾げる仕草をしたリィム隊長は、凛々しさとのギャップで、すごく魅力的だった。
「わかりました……ですが、期待しないでくださいね」
「すまないな、わがままを言ってしまって」
緊張するなぁ…
トモエ隊長とテレーズさんのときは、事前に心と食材の準備ができていたし…
今日自分が昼に作って食べようと思っていたチャーハンを、2人分作った。
失敗する確率が低い物の方がいいしね!!
どうせなら、おいしいと言ってもらいたいしね!!
「ふむ」
「チャーハンです。勉強中なので、正直な感想を言って頂けたら嬉しいです」
「わかった。ではありがたく、いただきます」
リィム隊長は両手を合わせたあと、レンゲを器用に使い食べ始めた。
よく考えたら、エルフの王女様にチャーハン出すとかありえなく無いか!?と思ったが後の祭り。
内心ドキドキだ。
「ごちそうさま」
「はい…いかがでした?」
「うむ、クルトの人間性がよく現れた素朴な味であった。また食べたくなる味だな」
「そうですか…」
まずくなかった、ってことでいいんだよね?
なんか恥ずかしいな。
「ふふ、私の国に行ったら、今度は私がクルトに振舞おう。あぁ、楽しみだな」
「はい、僕も楽しみにしてます!」
エルフの国の料理かぁ。
どんなのが出てくるんだろう。
リィム隊長に食後のお茶を出し、僕は後片付けをした後、一緒にお茶を飲み始めた。
「こういってはなんだが、クルトは王族っぽくないな。素直な青少年という感じだ」
「リィム隊長は王族っぽい男がお好みですか?」
「いや、ただプライドばかり高い王族や貴族は好まない。腹の中に何を溜め込んでいるか分からないからな」
リィム隊長は立ち上がると、座っている僕の後ろから抱きしめてきた。
心臓が跳ね上がる。
同時にふわっと、リィム隊長の甘い匂いが僕の鼻孔をくすぐった。
「プライドが高い王族や貴族にこういうことをすると、どうなるか分かるか…?」
「……あ、愛をささやき合うんですか?」
「違う」
「……」
「調子に乗るのさ。自分の物になったと思ってな」
「え?」
「王族や貴族なんて、所詮恋愛なんてゲームとしか思っていないんだ。女が甘い顔をすれば、自分の物になったとすぐに飽きてしまう。そのくせ、束縛したがりで、自分は自由にいたいという困った連中だ」
「な、なんかすごいですね」
「今のクルトみたいに、顔を赤くして体をこわばらせるなんて奴らには全くないからな」
僕の首に顔をスリスリするのはやめてください。
恥ずかしいです。
「すまないな、変な話をして」
「いえ……」
「クルトに触れる理由が欲しかったのだ。許せ」
「……」
しばらくそのままだった。
すごく、時間がゆっくり感じた。
「そろそろ午後の訓練の時間だな」
「はい…」
「これはおまじないだ。クルトの剣が上達しますように…」
リィム隊長はそう言うと、スッと僕の頬に口付けをしてきた。
一瞬何をされたか分からなかった僕は固まってしまった。
「ふふ、クルト、エルフの国ではこのおまじないをされたら、相手にも同じことをしてやらなければならないんだ」
「えぇ!?」
「さ、早くしろ。時間がないぞ」
リィム隊長にキスしなければならないのか!?
いや、でも、ほっぺただ。ほっぺたにだ。
意識するな、意識するな!!
僕とリィム隊長は立ち上がり、正面に向き合った。
「リ、リィム隊長がいつまでも健やかでありますように……」
「ん……」
僕は恐る恐るリィム隊長の頬にキスをした。
スベスベでしっとりしていた。
「ははは、クルト、震えていたぞ」
「な、慣れていないもので…」
「だが、すごく嬉しかった。今度するときは唇で誓い合いたいものだな」
リィム隊長はすごく良い笑顔だった。
何を誓いあうのかは聞かないでおこう。
うん。
「ありがとう、クルト。さぁ、訓練場に行こうか」
リィム隊長はそう言うと、僕から離れ、僕の手を取り、歩きだした。
僕は途中までならいいか、と手を握ったままで訓練場に向かった。




