第4章の8
「ティターニア様とそのお連れの方ですか、お待ちしておりました。」
俺たちは約束の午後8時に、指定のホテルを訪れていた。
『このホテルマンも色々知ってそうだな・・・。大体、姿が見えない者をホテルに滞在させるなんて普通ではありえんだろ。』
「あのお方達は最上階のお部屋に滞在しておられますので、こちらの専用エレベーターからご案内いたします」
明らかにVIP待遇だ。こちらでは相当の名士なのか、それとも超のつくお金持ちなのか。色々、詮索をしようとしたが、このホテルマン、相当口が堅そうな紳士だったので俺は黙っていた。まあ聞いたところで、この先の未来がどうかなるわけでもあるまい。
『チーン』
エレベーターは最上階に到着した。
周りを見渡しても部屋のドアらしきものは見当たらない。恐らくこのフロア全体が一つの部屋になっているのだろう。長い廊下を歩き、2回曲がったところでやっとドアらしきものが見えてきた。ドアというよりは門といった代物であったが。
「ティターニア様とそのお連れの方が参りました。」
「ご苦労さま。入ってもらって」
美術品のような彫刻を施した大きなドアが開かれ、俺たちは部屋に入った。
「では、何かあったら参ります。私はここで」
ホテルマンは帰っていった。
すごいな、この部屋。周りがガラス張りで展望台のパノラマのようになっている。ソファーも含め、その他の調度品も上品なものばかりだ。そういうものに目が利かない俺でも、高級なものというのはすぐにわかる。
「こんばんは、少年。そしてティターニアよ」
俺がきょろきょろしていると、後ろから、赤いドレスを身にまとった背の高い上品な女性が声をかけてきた。
「は、はじめまして。ミズサキと申します。」
俺は緊張しながら、その女性に挨拶をした。
「そんなに、緊張するな。わたしはクロト。そしてこの後ろにいるのが妹のラケシスとアトロポスだ」
よく見ると後ろには青いドレスを着た女性と黒いドレスを着た女性が立っている。
「ミズサキです。よろしくお願いします!」
俺はその2人にも挨拶をした。
なぜか2人の妹はくすくすと笑っている。
この3人、想像してたゲームのキャラクターとは違い、大変美しい方々であった。ティタさんは清楚な美人といった感じだが、この方達はファッションモデルといった容姿をしている。顔も彫りが深く、人間的には完璧に近いんじゃないだろうか。ただ、3姉妹は大変よく似ていて、外見上は区別がつきにくい。本人たちもそれをわかっていて、はっきりと違う色のドレスを着ているんだろう。
「まあ、座りなさい。少年、君がここへ来たのは大体想像がついている。マタタキちゃんのことだろう。」
『あっ!まって。姉さんそのセリフはまだ早い、打ち合わせとちがう』
慌てて、青いドレスを着たラケシスが止めに入った。
「??」
何故か、クロトはラケシスに諭されている。
「ん、んっ。それでは、仕切りなおしだ。少年、君は何をしにここへ来たのだ」
『えええ。今想像はついているって・・・』
「あ、はい。実は3姉妹の皆さんにお願い事がありまして」
「そうか、マタタキちゃんのことだな。そのことだが・・・」
またしても、ラケシスから静止が入った。
『姉さん、マタタキちゃんの名前を出すのはまだ先でしょう!どうしてさっき読み合わせしたことをこんなに早く忘れるんですか!』
クロトとラケシスは後ろを向いて肩を組み、何やらひそひそ打ち合わせをしている。
その様子を俺がボーっと眺めていると、黒いドレスを身にまとったアトロポスがそばにやってきて耳元でこうささやいた。
「すまんな、こいつらあほで。用件はもうわかっているから、後は適当に話をあわせてやってくれ」
「あ、はい。了解しました」
俺はそう言うと何事もなかったかのような態度で臨んだ。
「あー、えー、君は何かを頼みに来たのだな。まあわかっているとは思うが我々3姉妹は人の運命を司っている。それに関係することであろうとは思うが・・・」
「はい、実は私の幼馴染にマタタキという者がいまして、その者が2日後に命を落とすことになっています。何故わかったのかというと・・・未来を見る装置で見てしまったからです」
クロトとラケシスは顔を見合わせて驚いた。
『ああ、これは打ち合わせどおりなんだろうな・・・』
俺は少し離れて立っているアトロポスさんに目配せをされ、話を続けた。
「我々、人間ではその死の運命を変えることができません。どうかあなたたち3姉妹の手で彼女の運命を変え、死から逃れさせてやることはできないでしょうか。」
俺は自然にソファーからおり、じゅうたんに頭をつけてお願いしていた。
しばらくの沈黙の後、クロトは口を開いた。その手には光り輝く1本の糸が握られている。
「人の運命というのはこの糸で決まっている。そして、この糸の長さで寿命が決まるのだ。ちなみにこれは君の糸だ。どれどれ、ほう、さすがティターニアが選んだ男だな。君はほぼ不死身に近いわ、ははは。」
「はっはっは」
後ろでティタさんが高笑いをしている・・・がスルーだ。
「さて、本題だ。この糸なのだが、私クロトがおおまかな長さを決める。そしてラケシスが正確な長さを測り、アトロポスがその位置に従って切り取るのだ。当然切り取られるとそのものの人生は終わる。」
「無礼を承知でお願いです。何とかマタタキの糸の長さを伸ばしてもらうことはできないでしょうか!」
それを聞いてクロトは腕を組み、悩みだした。
「とは言ってもな、そんなことを簡単に許していたら、我らの存在自体の意義が問われてしまうのだよ・・・。」
そう言いながらクロトはティタさんの方をチラチラ見ている。他の2人からも
『おい、お前そろそろ出番だろ。早く何か言うんだ』
という雰囲気がありありと表れていた。
さすがに天然なティタさんもそれを感じ取ったのか、
「しょうがないですね、ミズサキ。私が助け舟を出しますよ!」
そういうとティタさんは俺の横に座り、アルバムのような本をテーブルの上に置いた。




