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第4章の7

「ここですよ、ミズサキ!」


そう言ってティタさんはお店の看板を指差した。


『Arara бар』


うん、たぶん合ってるだろう。下の文字は知らん。


俺たちはさっき出会ったロシア人から教えてもらった『アララ酒場』にやって来た。


扉を開けて店に入ると、中は薄暗く、よくわからないロシア音楽が流れていた。周りを見渡すと、なるほど、あちら側のものを連れた人がわんさかいる。そういう酒場なのだと俺は理解した。

周りの客は子どもが何で入ってきたんだという様子で怪訝そうに俺の事を見ていたが、後ろにいるティタさんの姿を見て口をつぐんだ。俺はとりあえずカウンター席に腰掛け、メニューを眺めた。しばらくすると店主とおぼしき男が俺に気づき、目の前に現れた。


『ボーイ、用件は?』

「!!」


日本語がわかるのか。さすが国際都市だな。でもこれで話が早い。


「俺たちは、運命を司る女神、モイライ3姉妹を訪ねて日本から来ました。もし居場所を知っていたら教えていただけませんか?あ、あとバルチカの10番・・・だったよねティタさん。」


ティタさんはうんうんとうなずいている。どうやらフルーティ味のビールのようだ。

店主は酒を取りにいったん俺たちのそばから離れた。よく見ると、店主にもあちら側の者がついており、カウンターの奥で、2人で何かをひそひそ話をしているようだ。


「店主と話している人誰だかわかる、ティタさん?」


「あの方はディースさんですよ。昔、戦場でご一緒したことあります。ただ、シャイな方で一言二言しか話さないんですよ。」


「シャイって・・・ティタさんは誰とでも気兼ねなく話すよね」


「私は話さないと、さみしくて死んでしまうのです!」


「うさぎかよ! まあティタさんの場合自分から話してもらわないと、逆に話しづらいところはあるけどね」


「??」


『あー、この人自覚ないんだな、自分がすごい美人で注目される存在だということに。今も相当ちら見されてるのに気づいてないもんな。特にあちら側の人たちからの視線がものすごく熱いよ・・・よだれたらして見てるのまでいるじゃないか。』


その中でとうとう我慢できなくなったのか、星の形をしたものが近づいてきた。後から聞いたが『デカラビア』さんというらしい。


『さ、触ってもらっていいですか。昔からあなたのファンなのです!』


大きな図体の割りにかわいらしい声を出すものが、少し震えながらティタさんの前にやってきてそう言った。ティタさんは優しくうなずき、すらりと伸びた美しい指で体に触れてあげていた。ついでに回復魔法もかけているようだった。


『あ、ありがとうございます!僕は幸せだーー』


そういうとデカラビアは駆け足で自分のマスタであろう人の下へ戻っていった。


それを見た他の者達が、何かが解禁されたかのようにティタさんの周りに押し寄せてきた。誰かが先陣を切るのを待っていたのだろう。何てシャイな人たちなんだ・・・


あっという間にティタさんのまわりは人だかりができてしまった。


『何だこれは・・・まるで芸能人じゃないか。』


そんなことを考えていると


「ボーイ、待たせたね。さっきの3姉妹だが、うちのディースの先輩らしくってね。電話しといてあげたから、今日の夜8時にオロロホテルの最上階へ行けばいいよ。」


「ありがとうございます。すごく助かりました。これは少しですが・・・」


俺はティタさんから預かっていたお金を手渡そうとした。


「小僧のくせに気を使うんじゃないよ、今日の酒代もおごりだ。何せあのティターニアを目の前で拝ませてもらったんだからよ、安いものだ」


そう言うとおっさんは気持ち悪いウインクを俺に浴びせてきた。


「おじさん、ひとつ聞いてもいいかな。何であのティタさんはあんなに人気があるのさ」


店主は額に手を当て、あきれ口調でこう言った。


「ユーは何も知らんのだね。あのティターニアはあちらの世界では3本の指に入るほどの者なんだよ。彼女を得るものが世界の半分を得るといわれているほどのね。」


「あ、それさっきも言われたような・・・」


「たかが回復魔法使いだとか思っているだろ。それは違うんだな。普通の魔法使いじゃ、深い傷を負ったものを一瞬で治すことなどできないんだ。せいぜい出血を止めたり、傷口を防ぐ程度なのさ。」


「ええっ」


「ユーは今まで普通に、一瞬で怪我や病気が全快するのを見てきただろう。あれは例外中の例外、最上級の回復魔法なんだよ。使えるのはティターニアしかいないといわれている。最高に贅沢な代物なんだぞ、あれは。」


『うーん。俺、毎日最高の魔法浴びて顔がてかってるんですけどなんて口が裂けてもいえんな、これは・・・』


「戦場では彼女がいるかいないかで戦局が傾いてしまうほどらしい。よく考えてみろ、一番強い者が手負いになっても、エンドレスで復活してくるんだぞ。敵からすると相当な脅威だぜ。だから彼女はいつも奪い合いになるんだよ。まあ、あの美貌もそれに拍車をかけているがな。」


『俺はすごい贅沢な状況にいるのか。まったく気づかなかったわ。まあ、かといって態度を改める気は全然ないけど』


ティタさんはまだ囲まれている。何かサイン攻めにあっているぞ。

よく見るとあのサイン『ティタさんより』って書いてるじゃないか。うーん、やっぱりバカなのか。大体、受け取るほうもあれでいいのかよ。


「あー、あとさっき3姉妹のことを紹介はしたが、これより先のことについて俺は責任を持てん。ディースによるとあの連中は『関わってはいけない者』と呼ばれているらしいからな。どういう意味かはまったくわからん。」


「色々ありがとう。だが俺には目的がある。必ず会って思いを伝えてくるよ」


「そうか、熱いな・・・。戻ってきたら1杯おごるよ」


俺たちが男同士の会話をかわす中、ティタさんはまだサイン攻めにあっていた。

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