【19】 秘密を (所長*所長)
○砺龍馬央位
○麻墓浮受
side.麻墓浮受
奴は……脆い。
今、俺の事務所の応接室には、馬央位と俺のふたりしかいない。ヒトミもお譲も状況を察して席を外してくれた。
「なあ、お前さぁ。昔っから何一つ変わっちゃいねぇよな」
俺の隣で今も尚、涙をこぼし続けている奴に向けて言う。目線は反対方向の天井を向いているが。
「感情が少しでも揺さぶられるとすぐ泣く。成長とかしねぇのな」
そう、少しも変わっちゃいねぇ。こうやってすぐ“だって”って言い訳をしようとするところとか、感情が高ぶって言葉になっていないところとか。
こんな様子を見ちまうと、まるで昔に戻ったような気分になる。
でもこんな状態のコイツを見て、同じように切り返している俺も、昔と大差ないのではないかと思ったりもする。トゲがある言葉を、人を傷つけるのは承知の上で使っているのは俺の悪いクセなのかもしれない。その時はあまり気にしていなかったが、年を重ねるにつれて段々と自分の悪いところが浮かび上がってくるのがわかる。長所なんてものは全く見つけられないまま。
「あのよ、お前だって成人してんだからさ、もうちょっとビシッとしろよな、ったく」
「…………っく、だって……だって……!」
「あ、すまん。少し言い過ぎた。ほら! 泣くなよ、俺が悪いみたいだ」
そう、俺が悪いんだ。毎回毎回、コイツを泣かしていたのは俺だった。結局、俺も変わらないんだな。
「………消して」
「――――あ?」
「電気、消してくれる……?」
「ああ、わかった」
本当に言いたいことを、気持ちを、言葉を、胸の奥から引っ張り出すことができない。いつもいつも、栗のイガのように受け取りにくい気持ちしか投げつけていない。それでいて、『本当はこう思ってる』だなんて口が裂けても言えない。俺にだってプライドがあるからな。
本気でぶつかって、相手に俺の考えていることを飲み込んでもらうまでに、今までどれほどの時間を要したことであろう。
『俺』という人間を心から理解してくれている人間は、この世の中にどれくらいいるのだろう。
そんなこと、分かるはずがないじゃないか。
「浮受は、ボクのこと、本当に親友だと思ってる?」
いや、違う。そうじゃない。
「ほんとうに、ボクといて、満足……?」
俺は――――――。
「多分な」
答えを知るのが
「そっか……でも、ボクもはっきりわからないんだ」
怖い…………。
逃げるな。俺はいつだって自分を信じてきたはずだ。俺は自分の意見には絶対の確信があったはずだ。それに対する根拠だってあった。
でも、今の問いにははっきりと自信が持てなかった。情けねぇ。
「浮受、好き」
「……は……。いきなりどうした」
しまった。目を合わせらんねぇ。タイミングを恨む。
「ボクは、浮受が好きなんだよ」
「それがどうかしたのか?」
わかってる、わかってるさ。馬央位がほしい答えがこんなものじゃないってくらい。
「だからね……だから、っ……」
ああ、どうしたんだ俺。こいつをなんど泣かせたら気が済むんだ。しっかりしろ。優しい言葉でもかけてやれよ。そしたらコイツはすぐ泣きやんでいつも通りの馬鹿に戻……。
戻る?
俺は馬央位の機嫌をとるためだけに、笑ったり気の利いた言葉をかけたりしてきたのか?
それじゃあ、俺とコイツの間にある関係ってなんなんだ?
コイツとの関係に自信がないのも、そのせいなのか?
「馬央位、ちょっといいか」
「ん……」
涙を拭って、その潤んだ瞳で俺を見る。その表情には不安の色が浮かんでいた。
「俺はどうやら、お前の機嫌をとるためだけに気前良く接してきていたらしい」
「えっ……」
「お前にかけてきた言葉も、嘘だったのかもしれない」
「……そう、だったんだ」
「だけどもな、続きがある」
「――――――もう、いいよ浮受。ボク……」
「続きがあるから聞けって言ってんだろ!!?」
俺は勢い余ってソファーから立ち上がり、馬央位の肩に両手を乗せた。
「……俺が昨日まで言ってきたことは全て忘れてしまっても、構わない」
忘れるという言葉に、胸がチクリと痛んだ。
「だが、これだけは確かだ! 俺がお前にしてきた動作、これは本当だ……間違いじゃない!!」
間違いじゃ、ねぇよ。
「ふ……」
「な、なんで笑う!」
「だって浮受、泣いてるじゃん」
「は、はァア?!」
マジだ。俺の頬をいつの間にか、しずくがしとりと濡らしていた。
「……やっぱりボク、浮受が好きだよ」
「そうか」
「否定も肯定も、しないんだ」
「いいだろ……親友、なんだから。そのくらい察せて当然なんじゃないのか?」
「わかってるって、わかって、る……っグスッ……」
「おいおい、なんで泣いてんだよ……泣きやめ、俺にまで伝線し……ッ」
俺はわかった。
たとえ強がっていても、プライドがどうだこうだと言っても、こんな自分を理解してくれる人がそんなに多くなくても、いいんだ。
大切なのは、数じゃなくて質ってことだ。
俺は今、俺のことを大切に思ってくれるヤツを、すぐ目の前で再確認できた。
最高に幸せであることを、今、ここに宣言したい。
「俺だって、……だかんな!!」
「え、なになに、聞こえないー」
「知るか! その瞬間を逃したてめェが悪ィ」




