【18】 秘密を (助手*助手)
つづくよ。
○凪原はや
○権内人見
side.凪原はや
今、私と人見さんはオフィスの外にいる。もうすぐ日本が闇に包まれる。
人見さんは何か物憂げな顔をして、しばらく空を見上げていた。
「雨、ふりそうですね」
「えっ、ああ。そうね」
「昔はすごく雨が好きだったんです。わたし」
「うん」
「でも、最近は雨が降りそうになるたびに、心が曇るんです」
人見さんは何が言いたいんだろう。私はおんなじように薄暗い空を見上げた。本当に暗い空だ。
「浮受さん、ちゃんとお仕事してる?」
「え……はい。いたって真面目なお方ですよ」
「そうなんだ。ウチの所長も少しは見習ってもらいたいな」
「砺龍さん、お仕事されてないのですか?」
「いや……まあね。私が主に依頼受けたりとかしてるかな。事件的な事件が舞い込んでこないんだよね。どういうわけか」
「そうなんだ……」
おや?
「麻墓様はとても几帳面なお方なの。わたしがココに残って仕事を片付けようとしていると、一緒に残って手伝ってくれるのよ」
人見さんから、敬語が消えた!
「だから……って。あの、凪さん聞いてます?」
「うん。ちょっと話しやすくなったなあって思って」
「あっ、えっと、すみません! ついつい話に夢中になっちゃって」
「私も話しやすいほうがいいし、さっきの話し方でいいよ」
「あ、ありがとう! えっと……凪原はやちゃんだよね」
「うん」
「はやちゃんって呼んでいいかな……?」
「もちろんいいよ」
「わあ、ありがとう!」
私が発する言葉に一喜一憂(笑)。
ヒトミちゃん、本当に可愛いすぎんだろ。
「浮受さん、いつもどんな感じなの?」
「麻墓様ですか。とりあえずわたしは学校に行く前に、一度この付近でバスを降りて麻墓様をお起こしに行くのです。お寝坊さんなので」
「(やっぱり浮受さんだよ……その辺)」
「それからわたし、学校から帰宅するのが四時頃になるので、その時間帯までに仕上げておかなくてはならない書類やら何やらを、学校でまとめて一度目を通しておくんです。五時くらいに事務所に着いて、そこから夜の十時くらいまで麻墓様と一緒に、お客様のお相手をします」
「やっぱり雑用関係?」
「そういう言い方もできるね。でも、わたしは楽しんでやらせていただいてるから、雑用であってもこの仕事、意外と好きよ」
「いい子だねぇ、ヒトミちゃん。ウチの所長様は平気で仕事押し付けてくるのよ。まったく……所長だっていう事実もまだ肯定できてないもん私。いいなあ、それに比べたら全然探偵事務所っぽいじゃんね、そっち」
「やはり事務所たるもの、所長がしっかりしていないといけないと思うの。でもね、頑張りすぎてるのを見ると、手伝ってあげたいって気になるの」
「(その状況を、ウチの所長バージョンで見てみたい)」
「はやちゃん。砺龍さんのこと、好きなんでしょ?」
……えっ? どうしてそういう流れに。
「好きじゃなかったら、そんなに「面倒だ、所長らしくない」上司のもとで働いてないもんね? 辞めないでついてこれる何かがあるんだね」
何か……?
「だとしたらそれ、何だと思う?」
「答えはもう、はやちゃんの心の中にあるよ」
どういうこと。
聞こうと口を開きかけた時、ヒトミちゃんがそれを遮った。
「わたしの心もね、曇ってきそうよ」
事務所の灯りはまだ、点いたままである。
しずくが道路を黒く染めていった。




