【12】 雪臣様と馬央位様①
何の説明もナシに第12コマ目突入!!
とんでもないことやってやんよ。
「……俺たちの過去はざっとこんな感じだ。空気を濁らせて悪かったな」
「いえいえ、そんな」
難駄様が未だ見つめているのは、折り紙でカブトを作り始めた雪臣様……ではなく、隣で微笑む馬央位様であった。
「それから、そこにいるキミの所長さん。あの方とも色々あったようでね」
「馬央位様、とですか?」
「ああ。その話もできればしたいのだが……時間は大丈夫かね? キミは見た感じ学生に見えるが。学校は休みなのかい?」
「ええ、はい。私、学校に許可もらって働いているんで」
「そうか。じゃあ、話を始めるとしよう」
難駄様は、雪臣様と馬央位様の両方に目をやった後、私の目からその真黒な瞳をそらさずに、言い放った。今から語る話は、少しショッキングかもしれない。
「雪臣は、キミの所長さんを本気で殺そうとしていたらしい」
◆◆◆◆◆◆
それは、俺が雪臣と出逢う少し前の話。―――――酷い嵐の晩。
雪臣は、連れ去られた母親・姉と父を捜して、街をさまよっていたらしい。身内もいなかった雪臣は、空腹も限界なところでようやく闇組織のアジトを見つけたらしかった。躊躇もなく中へ入る。
薄暗い部屋。鼻につく不快な臭いを必死にこらえながら、部屋の奥へと進む。しかしその時、後ろから声をかけられたらしい。
「ねえ、キミ。ココの従業員じゃないよね、名前は?」
「な……なまえ?」
雪臣はその顔を見て、驚いたことだろう。だってその顔は、ずっと仲良くしていたまーくんの顔だったから。
「まー……くん?」
雪臣は一瞬、疑問符を頭に浮かべたらしい。だって、仲いいはずのまーくんの喋り方が、あまりにも仰々しかったから。まーくんはいっつも僕のことを『キミ』なんて言わない。ちゃんと『ユキくん』って呼んでくれた。この人はまーくんにそっくりだけど、何かが違う。雰囲気も顔も、姿形もみんなそっくりだけど、何かが違う。
「ここに来たってことは、お母さんとかお父さんとか捜しに来たんだよね、あ、お姉ちゃんお兄ちゃんかな?」
「う、うんっ……」
「どうしたの……そんなに怖がらなくっていいんだよ。さあ、会わせてあげるから、ついておいで」
ニィっと歪んだ口元。細まる目。どれもこれもまーくんそっくりだったけど、雪臣はやっぱり何か違和感を感じていた。
「ココだよ」
まーくんに案内されたのは、棚のたくさんある部屋。白いタイル。に、赤い水玉模様……。
「ここにはね、『たくさん頑張ってくれた人たち』がいるんだよ」
「たくさん……頑張ってくれた人たち……?」
「そう。例えば、この人なんかね……」
まーくんが言って引きずり出したのは、血糊で頭が真っ赤に染まっている男の人……。
「ひッ……」
「怖がることはないよ。この人はね、確か……お金で自分を買ってほしい! って言って、低い値段を付けられても決してめげずに捌かれた勇者様なんだ」
低い値段を付けられても決してめげずに……。
――――――さばかれた?
「それじゃあ、この人たちって……もう」
「そ♪ あの世をエンジョイしてるかな? あはは」
え。待って。そんなの。そうだったら。もしもそうなんだとしたら……。それが本当のことであるとするならば……!!
僕のお母さんは? お父さんは? お姉ちゃんは??
どうなっちゃうの
「ねえ、ねえまーくん!」
「んー?」
「ぼ、僕の……お母さんは?」
「大ー丈ー夫! 大ー丈夫だって!」
「だって、この中に……いるかもしれないんでしょう……?」
「ふふふ。じゃあ、ここに来た記念に、イイことを一つだけ教えてあげようか。この指の中から1本選んで?」
「……」
「じゃあ、言うよ。男は労働に使える。だから、さっさと働かせて例のように売って捌かれてポイさ。女はまあ、あんまり役にたたねぇけど、若いのよりは主婦のほうが役立つからなぁ」
涙の1滴も出なかった。
「若い女子は特に脱走が多くてさ、逃げたら捕まるって知っててなんで逃げるのかな……ってハナシ。ま、こないだのみつあみの少女なんか特にそうだったなぁ。お父さんが売られてったとか言ってさ」
そのかわり、殺意が芽生えてきた。
「今残ってるのは、労働専用の主婦だけ……って、坊や?」
「……まーくんでも許さないからね」
「何のことを言っているのかな?」
「人を売るとか、ダメなことって習わなかったの……?」
声が震える。
「ダメなコト? ワケが分からないよ。なんのことを言っているのかな?」
「もういい。まーくん……キミを、殺したい」
そ こ か ら
意識がぷつんと途切れた――――――――。
俺とあの晩会った時、雪臣は「闇組織から逃げてきた」と言っていた。
「おかあさんを見つけるために、思い切って乗り込んだんだけど、あっさり見つかっちゃったから仕方なくね」
そうも言っていた。
それは全て、偽りであったこと。それを、深音も寝静まった夜、雪臣の寝言で聞いた。
雪臣はあれ以後、その一件のことを話そうとしない。いや、話そうとしないのではなく、『話せない』と言ったほうが正しいのだろう。
これも寝言での話だが、あのあとどうやら雪臣は記憶を消されたらしい。上手くは表現できないらしいが、何かを嗅がされ、そのまま気を失った……そんなことを頻りに呟いていた。うなされているようだった。
だが、そこまでは納得できるとして、いや……納得は決してしないが。どうして“まーくん”は、雪臣を生きて返したのだろうか。そしてそもそも、その人物は本当に『まーくん』であるのかということが気になる。しかし、その時の雪臣は何を言っても『あれはまーくんだったけど、なんかまーくんじゃなかった』としか口を割ろうとしなかった。
でも、『まーくん』として存在するものはたくさんいるが、性別、容姿、声、ニックネームが重なる人物は限られてくる。
俺は……認めたくないが……。
「そちらの探偵様こそが、その人物なのではないか、と踏んでいる」
つづきます。




