EP 7
【閑話】炎上神の憂鬱。魔王軍がエンジョイ勢すぎて村が燃えない
神界セレスティアの一角にある、ワイズの専用スタジオ(自室)。
薄暗い空間には、彼が特注した無数のホログラムモニターが浮かび上がり、アナステシア世界のあらゆる事象をリアルタイムで監視・録画していた。
「さてと……今日のゴッドチューブのランキングは、と。よしよし、僕がプロデュースした『裏切られた賢者の復讐劇』がダントツで1位ですね。やっぱり視聴者(神々)は、血みどろの『ざまぁ』が大好きなんですよ」
ワイズはブルーライトカット眼鏡を中指でクイッと押し上げ、マイタンブラーに入った淹れたてのカプチーノを優雅に啜った。
「次なる大型企画の主役は、僕の専属契約勇者である『ゼロス・ディバイン』。彼の課金スキルを使って、最高のざまぁ配信を撮りたいんですが……それにはまず、残酷無慈悲な『悪役』が必要不可欠です」
完璧な悲劇と、圧倒的なカタルシス。
それらを演出するためには、平和な村を理不尽に焼き払い、人々を絶望のどん底に叩き落とすヒール(魔物)が必要だ。
ワイズはキーボードを叩き、アナステシア世界の最大の脅威であるはずの『アバロン魔皇国』の幹部プロフィールをモニターに呼び出した。
「どれどれ、まずは魔王軍のトップから……ん?」
ワイズの手が止まる。
魔王ラスティアの現在地を示すGPSの光点が、アナステシア世界ではなく、なぜか『地球の日本』を指していたからだ。
「……現在地、日本の福岡? なんで魔王が地球にいるんですか? 目的は……『イケメンアイドル・朝倉月人のライブツアー全通』? 国庫を横領してオタ活!? ふざけてるんですかあの永遠の17歳!!」
ワイズはカプチーノを吹き出しそうになりながら、慌てて別の幹部のプロフィールを開いた。
「ま、まぁいい。トップが不在でも、好戦的な将軍クラスが暴れてくれれば……そうだ、炎魔将軍グレン! 奴の炎なら村を焼くのにうってつけだ。えーと、現在のステータスは……」
【炎魔将軍グレン:城のデスクで事務整理中】
「はぁ!? 熱血馬鹿の設定どこ行ったんですか! なんで冷暖房完備の部屋でハンコ押してるんですか! 勇者の村の一つでも焼きに行けよ!!」
苛立ちながら、ワイズはさらに画面をスワイプする。
氷魔将軍ならどうだ。あいつなら絶対零度で村を氷漬けにできるはずだ。
【元氷魔将軍スアイ:退職届を提出。現在、中立地帯のポポロ村でスキー場を経営中】
「退職ゥ!? しかもビキニアーマー捨てて、タローマン製のオーバーオール着てDIYキャンプしてる!? なんでスアイの『開拓DASH村配信』が、うちのメインチャンネルよりPV稼いでるんですか! スアイ・キャンパーズ(ファンクラブ)って何だよ!!」
ワイズはタンブラーを机に叩きつけた。カプチーノが少しこぼれる。
「じゃあ穏健派の貴公子、ルーベンスは!? あいつなら闇魔法で暗躍……」
【ルーベンス:ルナミス帝国の競馬場で貧乏ゆすり中。右耳に赤ペン】
「ただのギャンブル狂のオッサンじゃねえか!!」
ハァ、ハァ、と息を切らしながら、ワイズは最後の希望にすがる。
力自慢の土魔将軍ドスンだ。あいつが地震を起こせば、甚大な被害が出る。
【土魔将軍ダストン:改名。ルナミス帝国でちゃんこ屋『土雷亭』をオープン。塩ちゃんこ鍋の飯テロ配信が大バズり中】
「ダストンって誰だよおおおぉぉッ!!! ドスンはどこ行ったんだよ! 相撲取りキャラにクラスチェンジしてんじゃねええッ!!」
ガンッ!! と、ワイズはついにキーボードに台パンをかました。
信じられない。
絶望的なまでに、魔王軍が「平和ボケ」している。
どいつもこいつもセカンドライフをエンジョイしやがって。これでは悲劇など起こりようがない。
「……使えねぇ。どいつもこいつも、ヒールとしての自覚が足りなすぎる」
ワイズは乱れた前髪をかき上げ、冷たい目でモニターの光を見つめた。
「悲劇のスパイスがないなら……俺が自ら、裏で野心を持ってる奴を焚きつけて『強引に』悲劇を起こすしかないですね」
ワイズの脳内に、魔王軍の中で唯一、現体制に不満を抱く反逆分子――ネフィリムの剣士『ミラース』の顔が浮かぶ。
あいつに強力な武器と資金を裏から回し、村を襲わせる。そして、絶望のどん底に陥った村人たちの前に、自分のプロデュースする『偽勇者』を颯爽と登場させるのだ。
ワイズはエンジェルすまーとふぉんを手に取り、契約勇者であるゼロス・ディバインの回線へ発信した。
『やあ、ワイズ様。何かご用件かな?』
通信石の向こうから、美容整形で手に入れた爽やかなイケメンボイスが響く。
「ええ、ゼロス君。君の新しいプロモーションビデオ(PV)の撮影スケジュールが決まりました。最高のシチュエーション(マッチポンプ)を用意しましたから、せいぜい正義の味方を演じてくださいね」
すべては数字(PV)のために。
炎上神の底なしの悪意が、ユートたちの運命を巻き込む最悪の「ヤラセ事件」を引き起こそうとしていた。




