EP 2
借金返済のタイムリミット! 『特別仕様』のスキルが無料だと知った日
「ユート……体に気をつけるんだぞ。芋ばかりじゃなく、ちゃんと肉も食うんだ」
「マグローザの船には、絶対に乗せられちゃダメよ……!」
あれから20年。
両親の涙の見送りを受け、俺――ユート・ディスパーダ(20歳)は、生まれ故郷である『勇者の村』を旅立った。
勇者の村とは名ばかりの、ただの太陽芋の農村である。
農地を継げない俺のような三男坊が、一攫千金を夢見て次々と勇者を目指すため、揶揄を込めてそう呼ばれているだけの限界集落だ。
俺の装備は、20年間実家の押し入れで大切に保管されていた『タローマン製 初心者向けガテン系防具セット(定価1万円)』。
動くたびに、安っぽい鉄の継ぎ目がギイギイと油切れの悲鳴を上げる。
今日、俺は20歳になった。
それはつまり、あの芋ジャージ糞女神と結ばされた『100万円(金貨100枚)の悪徳ローン』の返済猶予期間が終了したことを意味する。
ルナミス帝国における成人年齢は16歳だが、この極悪ローンの取り立ては20歳から。
もし期日までに金が用意できなければ、黒服の屈強な男たちが現れ、俺をシーラン国の『マグローザ漁船』へと強制連行する。
マグローザ漁船――それは、船内通貨『K(ケツフキのK)』が飛び交い、チンチロリンで脱出を図る漢たちが絶望の底で考える人のようなポーズをとる、海の強制労働タコ部屋。
前世で72時間連勤をこなした社畜の俺ですら、あそこに行けば一ヶ月で過労死する自信がある。
「冗談じゃねえ……っ! 誰がタコ部屋なんかで人生終わらせるかよ!」
俺はルナミス帝国の地方都市にある『冒険者ギルド』の扉を、勢いよく蹴り開けた。
ギルド内は、俺と同じように一攫千金を夢見る、農村出身の若者たちでごった返していた。
俺はカウンターに直行し、受付嬢(猫耳族のお姉さん)に声をかける。
「すいません! 『勇者』のライセンス登録をお願いします! 金を稼がなきゃならないんで!」
「はいにゃ! 勇者ギルドへの登録ですね! では、身分証と登録料の『銅貨50枚(5000円)』をお願いしますにゃ」
なけなしの貯金を叩きつけ、手続きを済ませる。
受付嬢はニッコリと微笑み、ペラペラの登録証を差し出してきた。
「おめでとうございますにゃ! これで今日からユート様も勇者です! そしてなんと……今ならルチアナ教会からの協賛キャンペーンで、新規登録者全員に初期特典が付いてきますにゃ!」
「……え? 特典?」
嫌な予感がした。
前世の居酒屋バイトで「今なら生ビール1杯無料!」と叫んでいた時の、あの裏があるパターンの嫌な汗が背中を伝う。
受付嬢は、マニュアル通りの完璧な笑顔で言い放った。
「はいにゃ! ユニークスキル【ブレイブ】を、もれなく全員に無料で付与させていただきますにゃー!」
――ピシリ、と。
俺の中で、何かが決定的にひび割れる音がした。
「……ま、待ってくれ。今、なんて?」
「ですから、ユニークスキル【ブレイブ】ですにゃ。勇者登録さえすれば、誰でもタダで貰える汎用スキルですにゃ! 便利ですよね~!」
俺の脳裏に、20年前の白い空間の光景がフラッシュバックする。
『特別に伝説の鎧セットとユニークスキル・ブレイブを授けよう! 代金は100万円だけど、出世払いでいいから♡』
……あの糞女神。
原価1万円のタローマン製防具を「伝説の鎧」と偽っただけでなく。
ギルドに行けば『タダ』で貰える汎用スキルまでセットにして、100万円のローンを組ませやがったのか!!
「ああああああああああああッ!!」
ギルドの中心で、俺は咆哮した。
怒りで視界が真っ赤に染まる。俺は腰に下げていたタローマン製の鉄の剣を引き抜き、ギルドの隅に鎮座していた『女神ルチアナの石像』に向かって、渾身の力でぶん投げた。
ガガァンッ!!
「ふざけんなァァァァッ!! なにが特別だ! なにが伝説だ! クソが! 詐欺神がァァァ!! 消費者庁仕事しろやァァァッ!!」
「ひぃぃっ!? ゆ、勇者様!? 神像に八つ当たりは罰金ですにゃー!?」
周囲の冒険者たちが「あいつ、田舎から出てきていきなり発狂したぞ」というドン引きの視線を向けてくるが、知ったことか。
俺はゼーゼーと肩で息をしながら、ギルドの壁に貼られた巨大な手配書を睨みつけた。
そこには、禍々しい魔族のシルエットと共に、こう書かれている。
『特級討伐依頼:魔王ラスティアを討伐せし勇者には、懸賞金・金貨1万枚(1億円)を授与する』
魔王。
そう、こいつを倒せば1億円だ。
借金の100万なんか一瞬で完済できるし、残りの9900万でルナミス帝国の歓楽街に繰り出し、エルフや女豹のねーちゃんたちを侍らせて、毎日ルナキン(ファミレス)で一番高いステーキセットを食うFIRE生活が待っている。
「……やってやるよ」
俺は床に落ちた鉄の剣を拾い上げ、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「魔王だろうが何だろうが、ぶっ飛ばしてやる。マグローザ漁船行きだけは、絶対に回避してやるんだ……!!」
どん底のマイナス(借金)からスタートする、最低最悪の勇者ライフ。
俺の『真の勇気』が世界を変えることになるなど、この時の俺はまだ知る由もなかった。




