モリノ ハルカ様 10列目 D コンビニ発券(バス予約.com)
母が嫌いだ。
手をあげられたことは無い。
ご飯も毎日欠かさず作ってくれた。
やりたいといった習い事は全てやらせてくれた。
すぐに飽きて投げ出す私は出来の悪い娘だったに違いない。
それでも母が嫌いだ。
日曜日に「教えを聞きに行く」とよく分からない公民館のようなところに連れて行かれるのが嫌だった。
校歌や国歌は歌ってはならないと教えられた。
鳥居をくぐってはいけない。
「いただきます」は手を合わせてはいけない。
そんな母の「教え」はまだ私の生活を縛っていた。
危篤の知らせが私のスマホを震わせたのは、残業もカタがつきかけた頃のことだった。
「帰ってこれるか?」と訊ねる兄からのチャットには、まだ返信していない。
上司に事情を話すと、「地元に帰るならまだ夜行バスが間に合う」と、チケットを買ってくれた。
母が難病を患い、県立病院に入院したのは一昨年のことだった。
一度も見舞いには行けなかった。いや、行かなかった。
バスの中で何度となく母との思い出をループした。
いつしか意識は薄れ、運転士さんの声で目を覚ました。
「県民会館前。ご予約の停留所に着きましたよ。ゆっくりご支度ください」と。
手元にはティッシュで一杯のビニール袋、1番後ろの席を立ち上がり、ボサボサの頭でバスを降りた。
その場でタクシーを拾い、県立病院に駆け込んだ。
病室で静かに窓の外を眺めていた母の手は温かく、ゆっくりとした鼓動が感じられた。
母が、嫌いだった。




