ハタノ ヒデノリ様 4列目 C レギュラー会員
住めば都とは言うが、単身赴任先はどうにも居心地が悪く馴染めない。
妊娠中の妻を残して「本社栄転」の名の下に孤独な都会暮らしをはじめたのはもう6年前のこと。
当時は妻のお腹の中にいた息子は来年、小学校入学だ。
これを機に妻と息子も赴任先へ、という話も出たのだが、どうしても私と妻の生まれ育った街で、息子にも青春を歩んで欲しい思いが捨てられなかった。
しかし、父親不在の幼少期は非常にさみしい思いをする事を私はよくわかっている。男の子なら尚更である。
そう、転勤族というのも遺伝するのかもしれない。
そうして私は、人事部に半年掛け合い、とうとう来年度付けでの地元の県支社長への異動を勝ち取った。
出世コースからは外れるが、年収は今とさほど変わらず、可処分時間も増えるのである。
なにより家族と暮らせるのだ。
最近の新入社員が「ワークライフバランス」と声高に主張していたのを、鼻で笑っていた私だったが、なるほどこういうことかと、その鼻を折られたのは私の方だった。
かくして私は夜行バスに揺られている。
しばらくは支社業務の引継ぎを受けながら、本社で受け持った仕事の残務整理をこなさなければならない。
この夜行バスにも何度か世話になるだろう。
しかし、そんなことはどうだっていいのである。
明朝、大波止の駐車場に妻と息子が迎えに来てくれるそうだ。
少し公園で遊んで、午後からランドセルを見に行こう。落ち着いたらワンちゃんでも飼おうか。
車内アナウンスが、明日の到着は晴れだと告げていた。




