(第70回)敵対勢力
さて、記者会見が終われば連中は大挙してウチに来るだろう、会議室取っておくか
ここは警視庁本部の広い会議室。大勢の記者が居並ぶ中、ひな壇に警部が登壇した。総務課長が「それではこれより、本日の定例会見を始めます。本日は捜査一課の警部が説明いたします」
会場はどよめいた。通常定例会見とはいえ、警視庁の公式発表なので重大事件があるときは担当している所轄署の副署長、本部が関与している案件なら課長が説明するものなのに。
警部はマイクに向かって話し始めた。
「ええ、私の説明ということで、皆さん驚かれているご様子ですが、話を進めるにつれてご理解いただけると思います。
最初に、皆さん性犯罪者を検知するアプリ、今ではドライブレコーダーやスマートホン向けで広く普及していますが、今般、警視庁管内の交番の防犯カメラで検知された事案について、内偵を始めました。本日はその報告であります。」
直ちに、大勢の記者から質問の挙手があった。まとめると
1.容疑者の公表
2.前科の有無
である。このうち1は明かせるはずがなく、2は前科無しと回答した。
記者連中は誰一人として納得していない様子であるが、会見はこれで打ち切られた。多くの記者がその足で直ちにHグループの開発課長に会いに行った。
社内の会議室には設計課長と50人ほどの記者が入り、フリートークで会話している。
「課長は容疑者氏名ご存じですよね」「勿論存じていますが言えませんよ」
「事前に警視庁から予告は有りましたか」「はい、記者会見で公表することまで教えていただいてました。なので、こちらも会議室を予約して皆さんのお相手をしている次第です。」
「私は容疑者は先日逮捕され釈放された元大臣とにらんでいますが」
「さあ、どうでしょう。私は元大臣に恨みがあるわけでもなく、狙い撃ちなどあのシステムではできませんからね」
「この騒ぎで戦々恐々としている人が大勢いるでしょうね」
「それが犯罪抑止に繋がれば良いなと思っています」
「ところで課長、最近妙なアプリが出回っているのご存じですか」
「ひょっとして、ウチのシステムで検知されなくなるというやつですか」
「そうですそうです、まあ、当事者ですから知ってますよね」
「勿論です。そもそもこのシステムは崇高な理念から開発したわけではなく、画像認識に機械学習を加えたら面白いものができるんじゃないかと、技術的興味で開発したら、使う側の皆さんが、とても有効な使用法を考えてくださったので、それに合わせて色々機能改善を進めていったらこうなった、というものですので」「ところで効果打消しアプリへの対処は既にできているのですか」
「いえいえ、まだ取り掛かったところです」これで、会話は終了とさせてもらった。しかしT社グループはいかにウチのライバルとはいえ、何であんなもの作ったんだろう。どう考えても批判の嵐にさらされること間違いないと思うんですけど。
私はT社内で数少ない顔見知りの設計課長に遠隔会議を申し込んでみた。先方はいつでもどうぞとの意向だったので、すぐにTeamsで呼びかけたところ、通常の映像音声会議がつながった。
「お久しぶりです、記者会見拝見しました。お忙しそうですね。今日はどういったご用件ですか?ひょっとして弊社のアプリについてですか」
「お忙しいところ接続ありがとうございます。早速ですが、お聞きしたかったのはまさにその件です。貴方は開発に関わっていらっしゃいますか」
「まさか、あのアプリのおかげで当社の評判はガタ落ち、SNSでは✖コメントが10万件以上来ています。確かに上司から開発打診は有りましたが、誰が考えてもこうなるのは分かり切っていたので、断りました。というか開発を止めるべきだったのですが、あまりにも御社の評判が上がったので、幹部連中がやっかんだのでしょう。開発関係者は最近出社していないみたいです。」
「ほう、それはまた、どうして」
「そりゃ、取材なんか受けさせて、幹部からゴリ押しされて断れずに開発した、などと話された日には我が社は地に落ちますからね」
確かにサラリーマンは宮仕え、開発させられた人たちについ同情してしまう。
すると不意にPC画面が輝き、並木さんからの音声会議申し込みが通知された
直ぐに接続すると
「やりましたよ、課長、例のアプリが有っても検出が止まらない方法が分かりました」
「さすが、もう完成したのですか」
「いや、まだ原理的に見通しがついただけで、コーディングして確認完了まで一週間必要です」
「分かりました。とにかく上司には10日後にお披露目、と言っておきます。費用はかなり掛かりそうですか」
「いつもより一桁上です、と言いたいところですが、通常の一人月費用で大丈夫です」
「いつも助かります、早速発注しておきますね受入検査含めて納期2週間後で」「了解です。基本確認が済んだら五日後くらいにβ版をお渡ししますので、それでほぼ問題なく動くはずです」
やはり、持つべきは並木さんである。これで「山は乗り越えられるだろう




