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冤罪  作者: ニベア王子
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(第66回)検察取調べ2日目

さて、次席検事は本日過去被害者同席で聴取すると言ってたけど、実際先生は過去犯罪認めているしアドリブで隠しきれるとは、到底思えない。どこまで広がっちゃうのかな。まずは今日は様子見しかない。

朝10時、昨日と同じ部屋で聴取開始、次席検事だけでなく若い女性も座っている

それを見た先生の様子に特段変化はない様に感じられる。

「皆さんおはようございます聴取二日目を始めます。昨日お伝えしたようにこの女性が3年ほど前に被疑者に性的暴行、これはあいまいな言い方かな、簡単に言うと今回の事件と同じ段取りで、バーでの接客後、アフターでホテルに合流し、部屋で勧められた飲み物を飲んで10分くらいで眠くなり、良く朝起きてみたら性行為をされた感触が残っていたが、現職大臣だったこともあり、警察が力になってくれると思えなかったので、被害届を出していなかったが今回の事件で逮捕されたことを知り、警部に相談に来た、という状況です。今の説明で間違いないですか」女性が答えた「はい、その通りです。友人には相談しましたが大臣じゃ無理だよ、警察で散々恥ずかしい話をさせられた上に、立件できませんでした、とか言われて終わりだから辞めときなよ、と言われました。今回の事件がテレビで放送され、なされていたことが自分とよく似ていたので、警部さんに相談したところ、既に検察に移動しているので、警部さんから検事さんに状況を伝えていただくことで、今日ここに来ました」なるほど、筋は通っている。

次席は先生の方を向き「どうですか、彼女にも同じことをしたと認めますか」

先生はとまどった様子で「いえ、彼女は初対面です、そのようなことをできるはずが有りません」と言い切った。演技なら大したものだ。

「そうですか、本件は現行犯でもないし、貴方の罪を証明する証拠も何一つありません。被害を主張する彼女が居るだけなので・・・。では質問です。3年ほど前、六本木のBというバーに通っていましたか」

「Bですか、聞いたことがあるような無いような」

「そこの経営者の女性が、大臣が常連客だったと言っています。月3回くらい遊びに言っていたようですね」なるほど、これで状況証拠を固めたわけか

「そういわれても、覚えていないのですよ」そこで私から「例えば防犯カメラ映像とか残っているんですかね」と聞いてみた「いえ、カメラ映像は通常一ヶ月で消去、というか新しいデータを上書きしてしますので、3年までということは少なくとも30回以上上書きされたことになり、とてもじゃないですが復元もできません」「そうですか、そうすると立証は無理ですね、この女性のスマホの通話やメール履歴で立証するおつもりですか」「いいえ、この手の仕事の方の携帯電話は使用量が多く、これまた三か月程度で上書きされます。通信キャリアも通話履歴は一ヶ月遡れれば上出来というくらいの状況でして」

ということは先生が自供しない限り、立件できないということだな。何だか元気が出てきた。「では、本人が知らないと言っていますので本日の聴取はこれで終了ですね」とっとと幕引きしようと提案してみた。しかし

「いえ・・・どうしようかな、弁護士さん、ご相談があるのですが・・・別室で5分ほどお時間いただけませんか」「え、この二人をこの部屋に残してですか」「ああ、彼女は残しておけないので廊下の椅子でお待ちいただきましょう。先生は室内で、本当に5分で戻りますから」彼女は予め聞いていたのか、うなずくとすぐに退室した。「では弁護士さん、隣の部屋で」二人で移動したのは聴取室が見える小部屋だった。ハーフミラーになっており、あちらからは勿論こちらは見えないはずである。「正直なところ、どうなんですか、あの人これまで色々やってきてるでしょ」お見通しだぞと言わんばかりに砕けた調子で語り始めた「種明かしをすると、彼女が警察に来たのは3年前です。但し、当時、大臣の火遊びを立件できる自信が無かったので警察はあまり捜査せず、事件になりませんでした。」ただ、彼女一人じゃない、都合5人ほどの女性から被害相談が来ていました。このため、囮捜査をしようと警部は提案したようですが、それは誰も許可できないので、被疑者が大臣ではなくなった時点から少人数で内偵を進めており、今回、現行犯逮捕にこぎつけました。捜査記録も完全に残っており、完全に合法です。私は、目の前が暗くなってきた。なるほど囮捜査と思えるほどタイミングよく逮捕されたのは「内偵」だったのか、しかし

「今の検事さんのお話が本当であるとすると、逮捕された件の被害者は被害にあうまで見殺しにされて居たことになりませんか」「その通り、そこが相談ポイントです。あなたが見殺しとか騒ぎ立てずに、先生を説得して過去犯罪を認めさせてくれれば、今日の被害者以前の犯行については触れないことにします。そういう落としどころで行きませんか

なんと、相談は司法取引だった!

「それはひょっとするととてもありがたい提案なのかもしれませんが、即回答できるものではないですね。明朝まで待っていただけませんか」

「良いでしょう。明日の聴取開始前、9時半までに返事を下さい」

「分かりました。でも取引決定後に別件で訴えられることは無いですよね」

「そこまで約束する権限は自分にはありませんが、この提案をするにあたり、警察と検事正には了解をいただいてます」「分かりました、よく考えてみます」

さすがに5分では終わらず、時計を見たら10分経っていた。

廊下の被害者に詫びを言って、聴取室にもどり

「では、相談内容について、弁護士と被疑者で検討いただくということで、本日の聴取は終了します。明日も午前10時から聴取開始です。皆さんお疲れ様でした。」これで2日目は散会となった。

早速先生と面会室で相談。取引の話を伝えるとたいそう驚いていたが

「で、弁護士先生はどうすべきだと思いますか。」「自分は飲むべきだと思います。それが一番検事の心証が良く、量刑も抑えめにしてもらえる可能性が高いと感じますので。ところで、先生、今日の女性のこと本当に覚えていないのですか」「勿論思えてますよ。当時バーBのナンバー1でアフター了解まで半年かかったんだから」「で、その後は同じ手口」「そうそう、自分も色々な薬品を自由に入手できる訳じゃないので、いつも同じ・・・まさか、薬品の入手方法とか詳しく聞かれて、芋づる式に立件されやしませんかね。あの人政治家嫌いなんでしょう。話が旨すぎやしませんか」

「まあ、それは無いと思いますが、提案を飲む代わりに余罪追及はここまで、と一筆書いてもらうことを条件にしてみますよ」「うーん書いてくれればいいけどねえ」「書くと思いますよ。実際のところ、今日の女性の件も、知らぬ存ぜぬで通せば立件する自信が無いから、こんな提案をしてきたのでしょう。出なければ警察や検事正がこの提案を飲むはずが無いですからね。

説明しているうちに、あれ、だったら本件は知らぬ存ぜぬで行った方が良いのでは、という気がしてきたが、警察が本当に余罪の証拠を何も持っていない保証は無い、と考えなおし改めて提案を飲むことを先生に勧め、了解をもらった。


さて、道は見えてきたが何か見逃しは無いだろうか

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