<第14話> かつてないほど強烈で壮絶な
「ディアラ、これからするのはただの実戦だ。実戦の中でおまえは剣を奪い、俺の動きを封じなければならない。それができたら免許皆伝だ。いいな?」
免許皆伝。
これからわたしは、この方を師とするのだ。
言われてはじめて、実感を得ることができた。
目の前にいる死黒色の全身鎧がわたしの師匠。
自らを剣士でも戦士でもない、という動鎧で、
龍の刻印を持っている。
ゼラス姉様が認め、エルジェイド様の専属護衛……。
「かかってこい、ディアラ」
言われ、わたしは全身の力をみなぎらせる。
全身の毛が逆立っているのがわかる。
母から受け継いだ銀色の毛並みだった。
「いきますっ!」
両手の爪をむき出しにして、前傾姿勢でとびかかる。
剣を奪い返さなければならない。
だが、師匠は動かない。
わたしの剣を肩に乗せて突っ立っている。
どうして――
「仕掛ける時に声を出す馬鹿がどこにいるかぁ――っ! 悪い子にはこうだぁ――!!!」
え――。
飛びかかり、勢いのついたわたしの右腕がぐいっと引き寄せられる。
わたしの速度をそのままにして、はるか上空へのスイング。
ふわっと宙に浮き、次の瞬間には、わたしの体は森の中に埋まっていた。
十メートルはあるであろう城壁をすんなり超えてしまっていた。
強い衝撃が全身に響き渡る。
一応は受け身が取れたものの、左腕を犠牲にしてしまった。
おそらくは折れてしまっている。
「う、うう……」
「もう終わりにするか?」
「いえ! まだです!」
今度は風魔法をつかって、周囲の空気をかきみだす。
なるべくジグザクに動いて、仕掛けるポイントをわかりづらくする。
近づいて、後ろ回し蹴りを――
「なんでそんなスキの多い攻撃をする?」
わたしの横腹に鞘が食い込む。
わたしの剣だった。
わたしは手で触れる間もなく、横薙ぎに巻き込まれる形で吹っ飛ばされる。
草の地面をごろごろ転がって、樹の幹にぶつかりそうになるも何とか回避。
回転して、立ち上がる。
にちゃ。
膝をついて立ち上がって地面に粘着質な感触があった。
「テケケケリィ、メスのワーウルフだァ~」
「――くっ、ショゴスかっ!」
旅の道中で一度だけ見かけた粘液生物だった。
地面に伏せていた体にわたしは引っかかってしまった。
徐々に、人型の形を取りつつ、わたしを包み込もうとしてくる。
スライムよりも知能を持ち、より凶悪な生物だ。
食われる――!
「ショゴス、何をしている?」
大きくて黒い影がわたしの前にあらわれる。
「テケケ……クラディウスゥ……」
「離せ、今すぐにだ」
「オレッち、お腹すいたァ~。頼むぅ~」
「ダメだ。餌なら俺が後で取ってきてやる」
「ホントかァ~? ラッキィ~」
ショゴスがわたしを解放してくれる。
あのねっとりした嫌な感覚がなくなった。
あれは気持ち悪いことこの上ないものだった。
「ディアラ……」
「す、すみません……」
「謝るな」
言って、師匠は一瞬で右手に一本の刃を造りだした。
わたしの真っ直ぐしたものとは違い、大きく反っている。
次に目を引くのは、師匠のものと同じ死黒色のオーラだ。
「つかえ」
「これを、ですか?」
「ああ」
どう使えとか、どうしろとかは一切言われなかった。
ただ渡されて、すぐに戦いは再開した。
わたしが剣を構えたときには、師匠は同じものを造りだしていた。
師匠がじっとわたしを見ている。
待っているのだ。
師匠は決してこちらから仕掛けてこない。
……試されている。わたしの力量を見ているのだ。
「――っ!」
いつものように突進しつつ、得物の先端で鎧の隙間をねらう。
関節部分を攻撃すれば破壊できると踏んでいた。
駆けている間、師匠から目を離さない。
わずかな予備動作も見逃すつもりはなかった。
相手の予兆を悟り、瞬時に対応する。
そして弱点を突く。
村でも教えられたことだった。相手が意識を逸らせ、怯ませるのだ。
わたしはそれを忘れていた。
こんなに緊張感のある戦いをしたことがなかったのだ。
わたしの剣先はしっかりと首の部分を目指している。
師匠はまたピクリとも動いていない。
剣も地面に下したままだ。
――いける!
「バカか。刀の形状をよく見ろ。直線的な攻撃をするな。相手の怯みを期待するな。勢い込めば押し通せると思っているのか?」
掴まれていた。
予備動作も一切わからない。
「鎧の俺に筋肉はないんだ。今まで使っていた技が誰にでも通用すると思うな」
まるでわたしの考えがすべて見通されているかのようだった。
馬鹿正直に、わたしは仲間との稽古のときと同じ動きをしていたのだ。
長年染みついた動作がなかなか抜けきらない。
「もう一回だ」
刀を手放され、後ろへと押し戻される。
悔しかった。
村のみんなを馬鹿にされたような気がしたのだ。
この打ち込みを何百回を繰り返されたら。
すべて対処され、傷一つつけることができない。
それでも、最後の方には掴まれるようなことはなくなった。
ハジかれたり、避けられたり。
その小さな進歩が、わたしには嬉しかった。




