表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の鎧騎士物語  作者: うろこ
16/25

<第15話> 勇者、闇の中で

「明日はお稽古中止です! 私が部屋で魔術を教えますからね! いいですか!」

 

 ディアラの生傷を手当しながら、ノイルさんが半ギレ気味に言ってくる。

 初日だから油断してたらまたこれだ、という感じだ。

 しかしそう言われても、俺はこれしかやり方を知らないのだからどうしようもない。


 ノイルさんには悪いがこれを貫くしかないだろう。

 魔術を教えると言って、完全に休ませないあたり、ノイルさんもややスパルタな感じもするし。


「ディアラ、お前は直線的な動きが多すぎる。あとは左方からの挙動に弱い。意識しておけよ」

「は、はい! 承知しました師匠!」

「もう……ディアラちゃん嬉しそうに……無理してない? 大丈夫?」


 師匠と呼ばれ、俺は若干心の中でにやけつつ、医務室から出る。

 南門にあたる大前門には、こういった施設がいくつかあった。

 

 こんな魔物だらけの城で一体誰が怪我するのか。

 

 聞いてみれば、案外利用者は多いらしい。

 こんな誰も攻めてこない魔王の根城なのに、だ。

 平和であっても戦時中であっても、魔物は血の気が盛んなのがほとんどだ。

 そんな性格なもんだから喧嘩も多いし、相性の悪い魔物たちもいる。


 魔王を頂点としているだけで、食物連鎖で捕食関係のやつらもいるのだ。

 城内はそこまででも、城壁のすぐ外ではそんなことは日常茶飯事。

 と、いうことらしい。


「鎧を食べる奴なんていないよな……」


 いないと信じたい。

 というか居たら困る。

 でも居てもおかしくない。


 俺のモンスター知識ではとてもカバーできないほど、種族が多すぎるのだ。

 スライムとかゾンビ、ゴースト、ゴブリン、オーク、ヴァンパイアぐらいならまだわかる。


 モーラとか、バーとか。ブロッブとか聞いたことすらないヤツまでゴロゴロいるのだ。

 ハイオークとオーク、ホブゴブリンとゴブリンの違いさえわからない。


 そんな俺からしたら俺の天敵がいてもおかしくないのだ。

 ということに、俺はたった今気づいたのだ。


 俺がディアラをしごいているように、逆の立場になっちまうことになりかねない。

 今のうちに情報偵察がてら、森を探索するのも悪くないかもしれない。

 ショゴスの餌もいるしな。


 普段から知っている森ではあるが、行ったことがない部分がほとんどなのだ。

 ディアラの修練の下見みしておくか。

 と、俺は歩みを進めていくことにした。




   ★




 夜も更けてきた頃、俺は森の中を縦横無尽に歩き回っていた。

 鎧を溶かしてきそうなやつはいたが、案外と気の良いやつそうなので安心した。


 というか、ここらへんの魔物は魔王様直轄であるらしく、

 エルジェイドの護衛である俺のことを知っているやつは多かった。


 やはり知っているのと知らないのでは、同じ魔物でも違うらしい。

 ディアラを知らないショゴスはすぐに捕食しようとしたしな。

 

 俺にとって相性が悪く、やられそうなヤツでも、大抵が知能を持っており、

 魔王様に忠誠を誓っている。

 そういうやつらは大丈夫だ。


 それがわかっただけでも収穫だが。

 俺の興味は森の外、闇の洞窟へと向かっていた。


「城から南西方向、ってこっちか。ああ、あれだな」


 森を囲む岩壁に到達した。 

 その一転、よく見ないと分からないほどの隙間から風を感じる。

 奥に空洞があるのだ。

 これがおそらくは洞窟。

 突破不可能の闇の洞窟ということになる。


「これ開けていいかなぁ。まぁいいか」


 魔物たちはどうやって洞窟と行き来しているんだろうか。

 ここ最近開かれた形跡がないのだ。

 やたら重い石板をどかし、洞窟の中に入る。


 真っ暗だ。

 闇の洞窟だけある、というか洞窟というのは大抵こんな感じなような気がする。

 どことなく魔力というか、変なオーラはここだけだろうが。


 俺は光がなくとも問題ない。

 光がなくて見えないのは、網膜をつかって周囲を認識する種族だけだ。

 俺には筋肉もなければ眼球もない

 鎧だけだ。

 どういう仕組みなのか、自身のことなのにさっぱりわからない。


 狭い穴を這って進み、十分ほどで大空洞へと出た。

 ここが森への最後の関門となるわけだが。

 何もいないな。

 誰か配置されてると思ったんだけどな。


 ……ほとんど誰も来ねえからサボってんのか?

 

 ありえる。

 サンドリラス城の門番さえ居眠りしているくらいだしな。

 城内にはさすがにいないが。


「ま、いいか」


 それから歩き回ること小一時間。

 時刻の感覚がなくなってきたころだった。

 

 ぐるぐる歩くことで大体の構造がわかってきた。

 蜘蛛の巣だ。

 蜘蛛の巣状になっている。

 出口はかなり分かりづらいところにあり、中心に下の階層へ続く道があった。


 多少の魔物とは出会ったが、どいつこいつも喋れない。

 俺の雰囲気からか襲ってこないが、それでも奇妙な感じだ。


 戦闘能力だけは十分にあると思うが、知能が低い。

 まるで、そう、ダンジョンだ。

 RPGによくある洞窟ダンジョン。

 

 何階層も続いているアレだ。

 モンスターを倒して宝箱を見つける。

 経験値を稼いだり、モンスターからアイテムをはぎ取る。


「冒険者……いる、のか……」


 もし、俺が鎧でなく、人間だったとして。

 人間のままこの世界に来ていたのなら。

 こうやって最深部から逆ルートから来ることもなく、

 入口から冒険者として入っていたのかもしれない。

 そう思うと、複雑な心境になった。


 そんな冒険者からすれば、俺は敵なのだ。

 仲良くダンジョンを攻略することを想像していたのに。

 敵なのだ。

 それでも。


「考えても意味ないな」


 俺は俺なのだ。

 鎧であって人間ではない。

 そもそも人間であっても、仲良くやれていたとは思わない。

 

 そう、前世でも俺は社会不適合者で、鼻つまみ者なのだから。

 鎧であった方良いかもしれない。


 そう考えて、俺は入口へと歩みを進めた。

 確認するかのように、階層を下りていった。




   ★




 もう、二十以上の階層を下った。

 どこまでも続いているかのような感覚に襲われる。


 しかし、下りていくごとに、俺は薄々と気配を感じ始めていた。

 装備の擦れる音、剣戟と魔物たちの鳴き声、そして人の息遣い。


 闇に包まれた洞窟で、ほんのり光源が近くにあることがわかる。

 

「松明か……」


 今まで松明なんて置いてなかった。

 明らかに人が造ったものだ。

 

 サンドリラス城ではないのだ。

 ここの魔物たちは知能が低いし、なにより明かりを必要としない。


 がしゃん。


 聴覚をとぎ澄ます。

 装備の入った袋を地面におろす音だった。

 気配と、息遣い。

 そして、小さな話し声。



『ふぅ、ここいらで休憩するか』

『そうね』

『つかれたかも』

『賛成です。休憩するならこの階層がいいでしょう』


 

 一人目が男が、二人目と三人目が女、最後が男。

 四人ほどの声がする。


 しかもそう遠くない位置に、十数人ぐらいの気配も感じる。

 そっちは壁を挟んでいるためか、分かりづらい。



『どうするよ、進むか?』

『派遣部隊がまだ制圧していないのに?』

『だるいかも』

『ここでレベルを上げるべきでは? リスクが大きすぎます』



 一人目の男と二人目の女は戦士、三人目の女は魔法使い、四人目は神官。

 俺の乏しいRPG知識からいえば、そういう風に見える。


 ……レベル? レベルなんて概念あったのか?



『制圧だって三年も進んでねーじゃねえか』

『仕方ないでしょ。デラプトスの方に力入れてんだから』

『そうかも』

『比較的魔物被害が少なくて、人も少ない洞窟を選んだのはあなたですよ? レックス』


 

 一人目の男、レックス。

 近づいて、顔を見れば三十代前半ぐらいだとわかる。

 

 ――ちっ、羽虫が鬱陶しいな。松明なんかかけとくなよな。


 松明の光に誘われて、虫たちが俺の顔面近くをうろちょろしやがる。

 苛立ってしまって、つい松明を取ってしまう。

 よく見てみると、よくできている。

 ただの松明じゃなさそうだ。魔術がかけられている。



『……ん?』

『どうかしたのレックス?』

『……何かいるかも』

『ええ、いますね。盗み聞きはよくないですよ。そこに居るのは誰ですか?』



 ……しまった。近づきすぎたか。

 いや、松明を取ったせいで、光源が揺れてしまったのか。

 冒険者の察知能力はこの程度か。

 これが普通なのかね。



『おいおいギークス、何に質問してんだよ』

『え? モンスターなの?』

『…………』

『私にはわかりませんが、レックスがそう言うのならそうなのでしょう』

 


 気づかれたのなら仕方ない。

 ここで逃げ帰るのも癪だ。



『レッドスパンキーか?』

『この階層で出ないんじゃないの?』

『強いかも……』

『皆さん戦闘準備を。話は終わった後にしましょう』



 俺のことを好き勝手言いやがって。

 やっぱりオーラで魔物だって分かるのか。

 気配はそこまで出しているつもりはないんだがな。

 俺は彼らの近くにある松明の横に出た。

 距離は一メートル。

 俺の右側を煌々と松明が照らす。


「この松明を掛けてるのはお前らか?」


 羽虫が鬱陶しくてしょうがない。

 そもそもこの洞窟は魔王様のものだろう。

 勝手にこういうのを置くのはだめだろ。


『おい……』

動鎧(リビング・アーマー)ね……』

『……やばいかも』

『邪悪な気配です……』


 まるで俺の質問を聞いていない。

 ぐしゃっと手に持った方の松明を握りつぶし、

 気を取り直す。


「この松明、お前らのかって聞いてるだろ?」


 先頭の男が右手を剣に添えるのが見える。

 しかし目線は俺から外していない。


『いいやちげえぜ! しっかし、珍しいモンスターもいるもんだな。言葉を喋れるなんてよ!』

『レックス……』

『逃げた方がいいかも……』

『このような邪悪なモンスターを野放しにはできません……そうしては神官失格です!』


 意外にも、最初に仕掛けきたのは四人目の男だった。

 ギークスと呼ばれていた神官だった。

 神官服に身を包み、男は詠唱をはじめる。

 

『美麗解結の轍、殉教背教のマーターズ。貫け! <白魂魄の刺突/ホワイト・コーン>!』


 神官の押し出した腕から白い光が渦を巻き、鋭さを帯びながらこちらへ来る。

 ヒュンと一撃、俺の腹部に直撃する。

 避けることはできた。

 それでも俺は油断していたのだ。

 これまで全くと言っていいほど攻撃が通らなかったのだから。


「――ッ! うぐぐうぅうう!!」


 皮膚が焼けるような痛みが俺を襲う。

 ジュウジュウ、と腹が焼けている感覚。

 ひりひりと痛む周辺部位。

 腹部からじんわりと広がっていこうとしている。


「クソガァ!」

 

 801本目のジャベリンを造りだす。

 そしてその一瞬で投擲した。

 神官の心臓めがけて、一直線に飛び、突き刺さる。

 後ろに倒れ、ドバドバと血を流す神官。


 しかし痛みは治まらない。

 

 ――グガガガガァ!! 痛い! 痛い痛い! 痛すぎるぞこのクソ野郎!!!!


「殺すぞてめぇら!!!」


 俺の両手に、俺の意思に沿ってロングソードが生み出される。 

 鬱陶しい松明を切り裂きながら、冒険者の三人に襲い掛かる。

 

 その邪悪なオーラと増すごとに、

 顔の左側に刻まれた龍の刻印が赤く光り始めていた。


「クソ鎧が! よくもギークスをッ!!」

「ダメよレックス! こいつ強すぎるわ!」

「……龍の刻印……やばいかも……」


 俺の前にまんまと飛び出してきた得物が一匹。

 すぐさま俺はレックスという男の首をはねあげる。

 その血の乾かぬままに、二撃目。


 怒りに我を忘れた攻撃は、女戦士の楯を粉砕し、はるか後方へと女を吹き飛ばす。

 洞窟の壁に激突する音が反響する。


 複数の気配がこっちに来ようとしている。

 騒ぎにかけつけてきたか人間どもめ!!



『ルーノくん! こっちこっち! 何か黒いのいるわよ!』

『ちょっと待ってくださいよぉ~』



 まるで盗賊みたいな露出の多い女を先頭に、数人が駆けつけてくる。

 まだ殺し切れていないのに囲まれたか……。


 ……俺はなんで人間を殺さなきゃならないんだ……?


 痛みはもう治まっているのだ。

 傷ももう治っている。

 ならもう別にいいだろう。

 俺に攻撃を与えた神官は死んだのだし。


 いや、しかし……。


『アニカ! こいつは何てモンスターだ?』

『ルーノ……逃げた方がいい……こいつ、勝てないわ』

『え? なんでなんだ?』

『いかにあんたが勇者の素質があるっていっても、不死スキルを持つ100レベルは倒せないでしょ……』

『よし、逃げよう!』



 十代半ばといったほどの、ルーノという少年。

 女に囲まれてイチャイチャと……。


 ――羨ましい……。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

クラディウス

愛称:クロード

種族:動鎧(リビング・メイル)

属性:虚無

装備:なし

特性:完全魔術耐性

スキル:ダメージ経験値獲得

属性相性:風(無効:邪龍特性)、物理(耐性)、光(弱)

後天性:不死(邪龍特性)


 

下部の評価ボタンで点数を付けていただくと嬉しいです。。。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ