<第12話> ごめんなさいと言いなさいっ
「お二方! 悪ふざけにもほどがありますっ!」
まさか気絶してしまうとは思ってなかった。
ちょっと脅かして、怖いイメージをつけてやろうか、という軽い気持ちだったのだ。
ちょうど出迎えに来たノイルさんは、ディアラを背負っている。
「ガハハ! さすがにあれは嬢ちゃんにはキツすぎたぜクラディウス!」
「おいゴンズ! お前が言い出したことだろうが!」
「はいはい喧嘩しないでください二人とも! ポッフィムさんはそちらの方の面倒を見てください!」
「オデか~?」
デラドとポッフィムに、男のワーウルフの介抱を任せることにする。
こちらも俺が吹っ飛ばした勢いで、意識を失ってしまっている。
演技に火がついてしまったせいで、加減をするのを忘れていた。
「あとでお説教ですからね!」
タッタッタ、とディアラの重さを感じさせない足取りで、ノイルさんが城の方へと駆けていく。
ノイルさんに背負われたディアラの背中が小さくなっていく。
銀髪のワーウルフ。
ゼラスの獣率が40%なら、ディアラは60%くらいだろうか。
ゼラスは手足と耳が獣だったが、ディアラは人型をしているものの、全身が獣だ。
いや、顔だちは凛としていて、可愛らしいが……。
正直言って、ああいう女の子に教えることができるのか不安だ。
何よりファーストコンタクトが最悪になってしまった。
俺の予定では剣を奪って、「奪い返してみよ」と言うつもりだったんだが……。
「で、どうだったよクラディウス」
「何がだ」
「可愛かっただろう?」
「毛むくじゃらだったぞ」
「それがいいんじゃねえか」
「まあ……悪くはない」
新たな何かに目覚めそうだ。
ノイルさんほど大人ではなく、エルジェイドほど子供でもない。
そう、思春期真っ盛りの少女だ。
そして、ケモノだ。
★
恐怖がわたしの目の前にあった。
生まれてから一度も体験したことないほどの、恐怖だった。
巨大な全身鎧に背後を取られ、自分と強い兄弟子を一撃でねじ伏せた。
魔王様の四天王であり、極龍を殺したゼラス姉様と同等の力を持つ相手だった。
剣を奪われ、魔法を封じられ、わたしは何もできなかった。
圧倒的実力差。
ゼラス姉様ほど強く、ゼラス姉様ほどやさしくない。
わたしを本気殺しにかかってきている。
ゼラス姉様の言葉は本当だったのだ。
「――ん……」
「あ、ディアラちゃん!」
わたしの名前を呼ぶ声が聞こえる。
懐かしい声だ。
「……ノイルさん……?」
目を覚まし、わたしは自分がベッドで寝かされていることに気づく。
ハッとして、全身の感覚を確かめる。
大丈夫だ。四肢も耳もある。
シーツをめくって、銀色の毛並みを見て安心する。
「あ、服は今洗っていますよ。それは私の寝間着。嫌だった?」
「い、いえ……ありがとうございます」
「ふふ、ディアラちゃんすっかり大きくなっちゃって。久しぶりね。五年ぶりくらいかしら?」
「あ、は、はい。五年になります!」
「そんなに畏まらないでいいですよ? ふふふ」
「は、はい……」
相変わらずノイルさんは優しくて、とても綺麗な大人の女性だった。
強さでいえばゼラス姉様に憧れていたけれど、女性の部分では母様やノイルさんみたいになりたかった。
でも……わたしは全然だめだ……。
剣も奪われ、それに、あんな失態を……!
「ノイルさん……わたし、どうすればいいんでしょうか……」
「どうすればいいって?」
「わたし、村に帰った方がいいのでは……」
「どうしてそう思うの?」
「村を出るとき、ほとんどの人に反対されました。皆の意見が正しかったのではないかと……わたしにはまだ早過ぎたと思うんです……」
「――だ、そうですよ?」
――えっ?
ノイルさんが背後を振り返って、話を誰かに振る。
完全に気を抜いていた。
「ヒッ――!」
思わず悲鳴が出て、後ろにのけ反ってしまう。
「クラディウスさん、ここでディアラちゃんに帰られたらお嬢様の立場はどうなりますかね?」
「…………」
部屋の隅に、あの死黒色の鎧が壁に寄りかかっていた。
わたしの剣でポンポン肩をたたいている。
あまり雑に扱ってほしくない……。
「帰る必要はないぞ、ディアラ」
「クラディウスさん!」
クラディウスという名前なんだ……。
一度ノイルさんの方を見てから、わたしをまっすぐ見てくる。
「すまなかったな。だが、剣は返してやらんぞ」
「クラディウスっ!!」
段々とノイルさんの口調が激しくなっていく。
そのたびに、どうしてだろう。今まで恐ろしかったあの人が小さく見えてくる。
「ごめんなさい……悪ふざけが過ぎました」
その邪悪な見た目とは裏腹に、その言葉はとても優しく見えて。
つい、わたしはポカンとして、それからなぜか笑ってしまった。
「ふふ、合格ですよクラディウスさん」
小さく笑ったあと。
そのノイルさんの優しい声に、わたしは少し泣きそうになった。




