第六話∶鬼ヶ島
肉と魚とお婆さんの持たせてくれた団子を囲み、桃太郎達は襲撃前の確認をしました。
犬猿雉が事前によく調べてくれていたので、島の反対側に小さな浅瀬があること、そこから縄梯子をかければ一気に鬼の砦の奥まで行けることがわかっていました。
鬼の数は全部で二十匹ほど。
桃太郎なら二匹程度まで同時に相手にできるでしょう。
しかし、それ以上に囲まれてしまえば厳しいでしょうし、犬猿雉だけでは三人がかりでも鬼一匹に勝てそうもありません。
できるだけ寝込みを襲い、戦いが始まったら三人は後ろから桃太郎の援護をすることにしました。
犬は鉄の盾を背負い、猿は鉤縄と小刀を用意し、雉は矢に毒を塗りました。
やがて日が落ち、鬼が寝静まった頃を見計らって桃太郎達は砦に潜入しました。
酷い酒の臭いが漂って、いびき声があちらこちらから聞こえてきます。
手筈通り寝ている鬼を静かに囲み、丁寧に息を合わせ鬼の顔に布を押し付けると同時に顎下から小刀を力一杯刺し込みました。
一匹、また一匹と仕留める度に犬猿雉は自分の手筈と道具を確認して次へ向かいます。
このまま全ての鬼を起こさず討ち取れるのではないかと思った矢先、背後から物音がして振り返ると怪我だらけで痩せ細り首輪をつけられた男が立っていました。
全員が固まって少しした後、最初に声を出したのは犬でした。
「あ⋯⋯お⋯?お父さ」
男はそれを遮って
「キサマラァァアアアアアアアアア!!」
と、おぞましい大声をあげ、犬猿雉に向かって襲いかかりました。
犬猿雉は身動きできず、桃太郎も予想外の展開に思わず様子を見てしまっていました。
男は一番近くにいた猿に体当たりして押し倒しました。
「貴様らが逃げたせいで俺は今まで⋯⋯!!でもまぁ、許してやるよ。やり直そうじゃないか。」
男は小刀を拾って猿に馬乗りになりながら、鬼の亡骸をちらりと見ました。
「へっ、鬼になったところでダメなやつはダメなんだよ。人を奴隷扱いしやがって、いい気で酒食らって殺られてちゃざまぁねぇぜ。とにかく!これで俺もやっと!!」
男が歓喜に満ちた表情で猿に刃を振り下ろそうとしたその時、雉の放った矢が男の首を貫きました。
犬猿雉は口から血を吹き倒れる男の顔と互いの顔を交互に見つめながら荒い息を整えようとしていると、あちこちで目を覚ました鬼達が騒ぎ始めました。
鬼があっという間に集まって来る気配を感じた犬は撤退を提案し、全員が頷きました。
「すいません、後でお話しします。」
走りながら犬は桃太郎に頭を下げました。
必死に走る雉、その手を引いて走る猿、周りへの警戒を怠らない犬、走りながら桃太郎は四人で村へ帰りたいと願いました。
あちこちから鬼の怒号が迫ってくるのを聞きながら桃太郎は静かに足を止めます。
「先に行って。殿は私が。」
桃太郎は腰を落として大きな刀を上段に構え、大きく息を吸い込みました。
その姿は犬猿雉が桃太郎の申し出を拒否する余地を残さない、一寸の隙もないものでした。




