第四話∶生まれた理由
数日して、桃太郎は犬と村の鍛冶屋に呼び出されました。
村を襲った鬼が持っていた金棒と刀を材料に、大きな刀を拵えたというのです。
それは金棒の様に大きく重く、しかし先端は鋭く輝き、それでいて花が舞う美しい装飾がされていました。
それを構えた桃太郎の姿はとても凛々しいものでした。
すると見とれていたお爺さんとお婆さんの後ろから声がしたのです。
「差し出せないものはない、でしたっけ。」
その静かで美しい声を聞いて、お爺さんとお婆さんの心は壊れてしまいました。
二人はついに口にしてしまったのです。
「鬼が憎い。鬼を根絶やしにして欲しい。あいつらが存在している限り、新しい幸せを見つけても、その度にこうして暗い苦しみが蘇る。きっとこれからもずっと。耐えられない。」
「承知しました。私はその為に生まれたのです。鬼を根絶やしにしてみせましょう。」
「ごめんなさい。お前にそんなことをさせたくない。危ないこともして欲しくない。でも、どうしても無かったことにできないの。」
お爺さんとお婆さんは我に返ると、首を振り
「違う、やめて。」
と泣き崩れました。
桃太郎はお爺さんとお婆さんを優しく抱きしめて
「大丈夫。」
と微笑みました。
出立の準備を進める桃太郎を見て、犬猿雉は揺れていました。
自分が仕える桃太郎が鬼退治に行く。
当然、自分はお供しなくてはならないのに、よりにもよって、相手は鬼だなんて。
憎くて仕方ない、でも関われば間違いなく殺されてしまう、もう二度と関わりたくない「あの」鬼です。
犬は、桃太郎に「供をしろ」と言って欲しかったのですが、桃太郎は何も言いませんでした。
猿は、桃太郎が鬼に怒りを向ける姿を確認したかったのですが、桃太郎はいつも通り涼やかでした。
雉は、桃太郎に共に行く未来を示して欲しかったのですが、桃太郎は何も語りませんでした。
ただ、桃太郎は化粧をしました。
髑髏のように顔を白く塗り、口と頬の上には大きく裂けた笑顔を描きました。
いつだったか、同じ様にお爺さんとお婆さんが不安定になった夜、桃太郎は自分が生を受けるに至った不思議な経緯を聞かされていました。
「私は鬼にとっての鬼になろう。」
化粧を終えた桃太郎は大きな刀を構え、大きく息を吸い込み、振り抜きました。
パァン!
刃物を振る音とはかけ離れた音がして、遅れて風が巻き起こり、桃太郎の長く美しい桃色の髪が舞いました。
それを見た犬猿雉は互いを確認することもなく桃太郎の後ろに座し、両手を地面につきました。
桃太郎は振り返り、深く頭を下げました。




