第三話∶出会い
次の日、美しい具足と刀を持って大勢の村人が桃太郎の家にやって来ました。
具足と刀は鬼が都から奪ってきたものです。
「これを使って欲しいんだ。桃太郎なら鬼と戦うことができる。この数年、鬼が現れるようになって沢山の人が殺された。お爺さんとお婆さんは俺達が必ず面倒を見るから、鬼から村を守ってもらえないか。」
お爺さんとお婆さんはとんでもないと断りました。
しかし村人たちも退かず、桃太郎に意見を問いました。
ところが桃太郎はどちらとも決めることができなかったのです。
お爺さんとお婆さんは、もうあんな危ないことはやめてくれと言います。
でも放っておけば、また誰かが鬼に殺されてしまうでしょう。
それがお爺さんかお婆さんになるかも知れない。
結局、桃太郎は日に一度村の周りを見回りすることになりました。
鬼を見つけても戦わなくて良い、鬼の接近を報せるまでの約束です。
ある日、桃太郎は村の外で取っ組み合いをする少年達に出会いました。
一つしかない握り飯を奪い合っている様です。
その横で美しい顔立ちの娘が無気力に空を眺めていました。
桃太郎は自分の食べ物を差し出すから争いを止め、三人で分けるよう言いました。
話を聞くと、彼らは鬼に襲われた孤児達で実の兄妹だと言います。
ただ、不思議なことに名前だけは決して教えようとしませんでした。
どうしても名乗らない彼らに桃太郎は仕方なく、上から順に犬、猿、雉と名付けました。
三人は互いの怪訝な顔を見合わせながら、腹を鳴らしました。
食べ物を受け取った三人があっという間にそれを平らげた後、犬と名付けられた少年が桃太郎に問いました。
「私達は少ない食べ物を奪い合っていました。なぜあなたは食べ物を分け与えてくださったのですか?」
「私は村の人から釣りを教えてもらった。石を投げて狩りもできる。先日は弓矢も教えてもらった。そうでなかったら私も差し出すことはしなかったかも知れない。」
「私達にも釣りや狩りのやり方を教えていただけないでしょうか。生きる方法を教えてくださるのなら私達はあなたに仕えましょう。」
仕える仕えないはさておき、桃太郎は兄妹を村に連れ帰ることにしました。
桃太郎から話を聞いたお爺さんは三人が横になる藁を敷き、お婆さんは茶碗を三つ用意しました。
村の中央には鬼の首が飾られていました。
腐りかけたそれを見て兄妹は嘔吐しました。
「少し残酷に感じてしまった」と犬は言います。
桃太郎はそれを不思議に思いました。
「北の国では熊を狩ると、それを神に捧げ感謝するという。熊か、鬼かの違いだけではないか。」
そう問うと、犬は
「偉業への敬意が足りず、申し訳ありませんでした。」
と、頭を下げました。
次の日、犬と雉はお爺さんとお婆さんの手伝いをすることになり、桃太郎は猿と釣りに出かけました。
桃太郎は自分が村の人から教えてもらったのと同じように、魚が隠れていそうな場所の特徴を説明し、仕掛けを作って見せました。
猿は興奮してそれを真似ました。
川に糸を垂らし魚を待つ間、猿は鬼の非道さを熱く語りました。
「鬼は人を生きたまま食べる。意味もなく命を奪うことも珍しくない。村にある鬼の首を見たとき、強い衝撃を受けはしましたが、同時に胸がすく思いでした。」
「あなたは今、生きたミミズに針を刺して水に沈めている。魚が釣れたらその腹を裂き腑を取り出して血抜きをする。以前に私が鬼と戦いその腑を引きずり出した際は英雄として皆に褒め称えられた。私達は良くて鬼は許されないというのは何故だろう。」
猿は少し黙った後
「そんなの全然違いますよ。」
と呟きました。
パン!
「ここ蚊が多いですね。」
猿は舌打ちしました。
また次の日、雉は桃太郎に初めて会った日の犬と猿の争いを止めてくれたことのお礼を言いました。
「望みを持つことで人は争うのですから、望みなど持たない方が良いと思うのです。」
雉はそう続け、空を見上げました。
「私は生まれてまだ間もなく、知らないことが多すぎる。だけど、あなたの言葉に違和感を覚えました。ただ、それを上手く説明できる言葉を持てていない。今言えることは、私は知りたいと欲していて、それが私にとっては生きる価値だと思えていることだけです。」
「難しすぎますよ。」
雉は遠くの空を見つめて呟きました。




