第8話 噂の花嫁
ローレルが去ってから1週間以上経過した王都にて
王都にあるヴィノグラード城では王太子デュークが苛立ちをあらわにしていた
「ローレルを任せた憲兵が行方を眩ませたとはどういう事だ!何故帰ってこない!」
すると従者が恐る恐る答えた
「それが………ハルマスで馬車を乗り捨てたまま姿を消したようで……」
「裏切ってローレルと逃亡したとでもいうのか!?」
「そこまでは…………ですがあの死の森ですし、生きてはいないかもしれません」
すると、デュークは鼻で笑う
「ハッ、そんなもの、多少危険なだけで大げさな」
「ですが、恐ろしい森の主が住み着いているとの噂もありますし……」
「くだらん!本当かどうかも分からん話を信用するな!………だが、万が一ローレルが生きていてはマズい。陰気臭い奴だったが、支持する者は多かった。新聖女となったレイラに異議を唱えられても困る」
ローレルを辺境送りにして間もなく、デュークはレイラを新聖女として教会側に申し付け、王太子の権限を使い、半ば強引に彼女を新聖女に任命させ、同時に婚約を結んだのだ
―――――――せっかく事が上手く運んだのにケチが付けられては困る
そう考えたデュークは従者に指示を出した
「騎士団をハルマスに向かわせろ。そしてローレルの死体を見つけ出せ。万が一生きていたら殺せ」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
その頃ローレルはハルマスの森にて、傷付いた植物生物の治療をしていた
目の前にいる小さなキノコの生き物に手をかざし念じる
「―――回復」
眩い光に包まれると、小さなキノコに付いていた傷が見る見る塞がっていく
「ーーーーーと、これでよし。もう大丈夫よ」
そう言うと、キノコは深々とお辞儀をし去っていった
その様子をローレルは微笑ましそうに見つめていた
(この森は本当に居心地の良い森だわ。何も起こらなければ危険な場所だとは思えないくらい)
そう思いながらローレルは上を見上げる
のどかな雰囲気に浸っていると、彼女の耳に笑い声が入ってきた
『『『『クスクスクス…………』』』』
振り返るとそこには、赤、黃、青、紫の小さな花に顔が付いた小人のような者達がローレルを見て笑っていた
小人達がローレルの視線に気が付くと、ローレルを囲み始めた
『人間だ』
『人間よ』
『この森の主の番だ』
『番!人間の番!』
次々と言葉を投げかけられ、ローレルは戸惑う
「貴女達は一体……」
そう尋ねるも、小人達からは無視される
『お怒りだ』
『フレイ様がお怒りよ』
『主を横取りされて怒ってる』
『大変だ!大変だ!』
そう言うと、小人達は足早に去っていってしまった
「あ……!行っちゃった……」
ローレルは呆然としながら小人達を見送るのだった
―――――――――――――――
その後、屋敷に帰ってきたローレルは、リビーに花の小人達に会った話をしていた
「――――ああ、フレイ様というのは蘭の植物人外ですよ。危うさの中にある美しさが魅力的な方です」
その話を聞いたローレルは、言いづらそうに、尋ねた
「つかぬ事を聞くのだけれど、そのフレイ様という方とマディソン様は男女の仲だったりしたのかしら………?」
「んー……その様な話は聞いたことがないですけど……でも、もしマディソン様が番うとしたらフレイ様しか考えられない、というのは皆口にしてましたね」
リビーがそう述べた時、タイミング良く後ろから低い声が響いた
「フレイと番う………?私は一瞬たりとも奴と番いたいなどと思ったことなど無い」
驚いて振り返ると、マディソンが眉をひそめ不快そうな表情を浮かべている
ローレルは思わず声を上げた
「そうなのですか………?でも、あの花の小人達が、私がマディソン様を横取りしたと、口々に言っていたので、てっきり恋仲だったのかと…………」
以外そうに答えると、マディソンは強く否定する
「おそらく勝手に思い込んでいただけであろう。全く、変な噂ばかり流れる」
忌々しそうに呟くマディソンを見て、ローレルは嘘ではないと確信した
―――しかし肝心のフレイはどう思っているのか
ローレルはそこだけが気がかりだった
―――――――――――――――――――
次の日
ローレルは女体樹の様子を見ていた
そして実りの時期に沢山実をつけるよう願いを込める
「ーーーーこれで沢山実がなるわ。楽しみね」
そう言って優しく撫でると、女体樹は嬉しそうに葉を揺らした
「ふふっ。こうしてコミュニケーションも取れるのね」
ローレルは感心したようにその様子を見つめる
その時だった
『『『『クスクスクスクス…………』』』』
またあの笑い声が聞こえてきたのだ
振り返ると、昨日の花の小人がいた
『人間が何かやっている』
『何をしているの?』
『きっと森を荒らそうとしているんだ』
『危ない!人間怖い!』
誤解されたローレルは慌てて弁明する
「ち、違うわ!ここの森を良いようにしていただけで―――ー―」
『きっとフレイ様が怒るよ』
『そうね』
『怒る怒る』
『痛い目見ればいいんだ!』
しかし花の小人は聞く耳を持たない
すると
「―――あら、そんな所で何をしているの?」
女の声がして、ローレルはその方向を見る
そこには緑の肌をした人外の女性が立っていた
髪の代わりのように蘭の花が咲き誇り、気高く上品な香りを纏っているのと相まり、身体の線を強調したドレスがとても色っぽい女性だ
『『『『『フレイ様!』』』』
花の小人達はそういってその人外―――フレイに近寄る
ローレルは噂のフレイに出会い、彼女を見つめていた




