第6話 ハルマスの植物達
その後―――
朝食を終えたローレルはマディソンと共にハルマスの森に来ていた
風に揺られ葉が擦れる音と鳥の囀りだけが響き渡る森を歩いていると、ある花がローレルの目に付いた
「まあ、綺麗な花――――――」
思わずしゃがみ込み覗き込んだ時だった
ギョロッ
「うわぁ!!」
いきなり花と――――いや、正確には花の中央に付いている眼球と目が合い、ローレルは驚き尻もちを付く
(び、びびびっくりした………)
ローレルはすぐさま落ち着かせるように深呼吸をした
「おっと、大丈夫かな?」
するとマディソンが腰を曲げ、ローレルに手を伸ばす
「あ、ありがとうございます……」
遠慮がちにマディソンの手を取り、ローレルは立ち上がる
「実に愉快だろう?ここは魔界寄りの区域故、個性的な動植物が多いのだ」
そう説明すると、マディソンはある植物を見つけ愉快そうに口を歪ませた
「おお!ローレル、これを見ると良い!」
マディソンに促され覗いてみると、そこには花弁の中に美しい女性の顔がくっついている植物を見つけた
「これは人面花だ。この様に若い女性の顔が付いている花なのだが、枯れていくにつれて顔も朽ちていき、最後には髑髏になる。あのどろどろに朽ちていく様が趣きがあって良いのだ」
嬉々として語るマディソンに、ローレルは顔を引きつらせる
「どうだ?良ければ摘んで部屋に生けるが」
「……いえ、いいです……なんか夢に出てきそうなので………」
丁重に断ると、マディソンは心無しかしょんぼりとした表情になる
その時、ふと木の上の方で何かが目に付いた
見上げると、女性の身体のような木の幹があった
よく見ると自身の力で動いている
「あ……あそこにいるのも植物生物なのですか?」
「女体樹か。あれもその一種だ。どちらかと言うと、私のようなものに近い存在だが」
マディソンの説明に頷くと、再び女体樹に目を向ける
すると目が合い、女体樹はにこやかな笑みを浮かべ、ローレルに手を振った
「わ……とても友好的なんですね」
「ああ、だが種によっては肉食獣や、私のような食人植物もいるから気を付けるといい―――あのようなものとかな」
マディソンの指差した方向を見ると、そこには鋭い牙を持った獅子のような肉食獣が姿を現した
すると目が合い、獅子がこちらに捕捉し始めたその時
バタリと音も無く獅子が倒れた
「え……?」
よく見ると肉食獣のいる地面が以前見た肉の地面へと変化しており、その周囲からは霧のようなものが出始めていた
ローレルは思わずマディソンに目を向けた
「マディソン様があの肉食獣を食べるのですか?」
「ああいった肉食獣は人間でなくとも脅威なのだ。だから数が増えぬよう定期的に捕食している」
マディソンの話を聞いているうちに消化酵素の霧に覆われた獅子の死骸は、強い酸に溶かされ見る見る消えていき、味わっている彼も何処か満足げな表情になっていた
――――ここにはマディソン以外にも危険な生物が多く生息している
それを身を持って知ったローレルは、ある事に疑問を持ち、マディソンに尋ねた
「マディソン様は何故敢えてこの森に住んでらっしゃるのですか?危機にも対応出来る強さがあるとは言え、命が脅かされる事もあると思うのですが」
マディソンに尋ねると、彼はこう返した
「そもそもこの森は私の森―――もとい、私の身体の一部なのだ。自分自身に恐れる事など無いさ」
「か、身体の一部なのですか?」
少し驚いたように聞き返すと、マディソンは頷く
「そうだとも。分かりやすいように身体の一部を擬人化し、人の姿になっているが―――木々や草花の1つ1つが、私自身なのだ。即ちここに居着いた植物生物や人外達は、いわば私の身体の中に寄生し暮らしている形になる」
そう言ってマディソンは目の前に生い茂る草木を見つめる
すると目の前に葉の耳の兎が姿を現した
しかし足を引きずっており、怪我をしている様子だ
「まあ、可哀想に」
ローレルが駆け寄りしゃがむと、兎の足に手をかざした
「――――――治癒」
すると光が放たれ兎の足がみるみる治っていく
元通りになった兎は嬉しそうにに跳ね、姿を消していった
その様子を見ていたマディソンは目を細める
「………前よりも強い力を使いこなせるのだな」
ボソリと呟かれた言葉に、ローレルは振り返る
「え?」
「いや、なんでもない。随分と便利な力だと思ってね」
「私、元聖女ですから。あ、そうだ!」
ローレルは思いついたように声を上げだ
「わたしもこの森を守っても良いでしょうか?」
「ここを?ローレルが?」
「はい。私の力を使えば、森がもっと豊かになると思います」
自信ありげに言い切るローレルに、マディソンはゆっくり頷いた
「なら、ローレルにそれを任せよう。ただしあまり危険な事はしないように」
「はい!」
こうしてローレルはハルマスの守りを任されたのだった




