番外編 ハルマスの主、徹底調査
これはローレル達がハルマスへ帰る3日前に遡る―――
ある日の事、ローレルとマディソンは王宮の植物研究所を訪れていた
実験器具がキチリと整頓された研究室にて、低い不満げな声が響き渡った
『全く、何故私が再びこのような場所にいなければならんのだ』
ローレルの両手にスッポリ収まっている緑の塊は1つ目を細めた
「仕方ありませんよ。妖精姿のマディソン様の噂を聞きつけたアシュベリー様が、どうしても研究したいと仰ったそうです。それにこの前、大神殿を壊したお詫びでもあるんですから」
ローレルは眉を下げ宥めるが、マディソンの機嫌は直らないままだ
すると研究室の扉が叩かれ、アシュベリーとその助手数名が現れた
「お待たせいたしましたローレル様―――おお、こちらが噂の…………!本当にこのような姿になるのですね」
アシュベリーが興味深そうに小さな緑の塊を見つめていると、マディソンの目がピクリと動いた
『フン……人間風情が。私を調べようなど500年早いわ』
「もうマディソン様!………すみません。こんな事言ってますが、遠慮せずお調べください」
ローレルが困ったように促すと、アシュベリー達は戸惑いながらもマディソンに近付いた
こうして謎に包まれていた、ハルマスの主の生態を観察する事となった
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「―――――――成る程、やはり大体は植物の原理と同じような構造なのですね」
アシュベリーは器具を置くと、その結果をノートを記した
「では次に、生態について御本人様からお聞きしても宜しいでしょうか?」
『断る』
開始早々、出鼻をくじかれたアシュベリーが苦笑いを浮かべていると、ローレルが慌ててマディソンを叱った
「マディソン様!しっかり協力して下さい!」
マディソンはそっぽを向きつつ、ため息を付くと口を開いた
『…………何が聞きたい』
(奥様であるローレル様の言う事は聞くのだなぁ…………)
アシュベリーはローレルのいう事に従うマディソンに感心しつつ、話を進めた
「ではまずは――――主食についてお聞きしましょうか。確か噂では人肉を好むと伺っていますが、人が主食なのですか?」
『確かに人肉は好物だが、必ず必要な訳では無い。人肉でなくとも大型の獣の肉でも事足りる』
興味深い話に、アシュベリーは頷きながらノートに記す
「ほほお…………ですが今のそのお身体では、大きな食事は難しくはないのですか?」
『こちらの身体ではその様な食事はしない。するのはもう一つの身体の方だ』
"もう一つの身体"という表現に、アシュベリーは思わずペンを止めた
「"もう一つ"?そう言えば、ヒースフィールド辺境伯はあのハルマスの森全体が己自身なのだと伺いましたが」
『如何にも。あの森は私の内臓のような物だ。だから身体を維持する為に大きな餌が必要になる。以前は迷い込んだ人間を食べていたが―――ローレルが来てからは大型の獣を食べるようにしている』
「成る程。愛する奥様に、気を使われているのですね」
アシュベリーがにこやかに告げると、マディソンは少し照れたようにそっぽを向いた
そんなマディソンを、ローレルは可愛がるように頭を撫でる
するとアシュベリーは思い出したように声を上げた
「ああ、そう言えば、この前の大神殿の騒動で、ヒースフィールド辺境伯は深手を負ったのにも関わらず、その命が潰える事はありませんでした。それは何故でしょうか?」
『それは私の心臓とも呼べる"核"が2つあるからだ。1つはこの身体に、もう一つはハルマスの奥深くに埋め込まれている。仮にこの身体を刻んでも、核を2つ破壊しない事には、私は死ぬ事は無い。また新たに再生出来るのだ』
新たに開示された新事実に、アシュベリーは感嘆の声を上げた
「なんと………!そうだったのですね。ちなみにその核は何処に―――」
『教えるわけなかろう腑抜けめ』
「う……そこをなんとか――――」
『ほう。余程命が欲しくないと見える』
ふてぶてしい態度を取るマディソンを、ローレルは呆れながら見つめるのだった
――――――――――――――――
「――――ではこれにて観察を終了したいと思います。ローレル様、ヒースフィールド辺境伯、ありがとうございました」
アシュベリーは立ち上がると、深々と2人に頭を下げた
「いえ、でもマディソン様が失言ばかりしてしまい、申し訳ありませんでした」
「そんな、お気になさらずに!とても有益な発見ばかり出来ましたし!」
ローレルがアシュベリーに謝っていると、彼女の肩に掴まっているマディソンが口を開いた
『さっさと帰るぞローレル。他の男と楽しく会話をする妻の姿なぞ見たくもない』
「もう!ただのご挨拶ですよ!何も話せなくなるじゃないですか!」
ローレルが頬を膨らませながらマディソンに抗議をすると、アシュベリーに頭を下げ、2人は研究室を去って行った
「やっとお帰りになりましたね」
助手の1人がアシュベリーに声をかけると、彼は小さく息を付いた
「ふう、中々気難しい方で手こずったよ」
「ええ、機嫌を損ねると何をされるか分かりませんからね」
若干げんなりした様子の助手を見て、アシュベリーは軽く笑った
「ははは。でも、面白いものを知れて良かった。ヒースフィールド辺境伯の意外な一面も見ることが出来たしね」
そう言ってアシュベリーは窓の外を見つめた
その後、アシュベリーの研究書にハルマスの主のページが追加され、特殊な生態や脅威の生命力等が記載され、その最後には『気難しい性格の持ち主だが、妻ローレルには従順である』と記載された事を、あの二人は知らずにいた




