第36話 託す
あの騒動から1週間後
セルニグル大神殿の大聖堂では、新聖女ヘレナの聖女叙任式が行われていた
燭台には炎が灯され、大きな窓からは柔らかな陽の光が差し込んでいる
その奥の祭壇には純白の聖衣を身にまとったヘレナが静かに佇んでいた
その周りには神官達が並び、更には多くの民衆達も新聖女誕生を見届けに来ていた
すると大神官リドリーが前に出て、ヘレナと向かい合うと手をかざし始めた
同時にヘレナは指を組み目を閉じる
「ヘレナよ。これより汝はセルニグルの聖女として、この国に使える事を命じる。神ルナリアに祈りを捧げ、人々の苦しみに耳を傾けよ」
リドリーが任命の言葉を述べると、ヘレナは静かに口を開いた
「―――はい。謹んでお受け致します」
そしてリドリーから聖女の証である聖女のロザリオがかけられると、大聖堂に歓声が湧いた
「聖女ヘレナ様!」
「聖女ヘレナ様万歳!」
あちこちでそんなかけ声が上がるのを、ローレルは嬉しそうに見つめるのだった
――――――――――――――――――
聖女叙任式終了後
外へ向うローレルを呼び止める声が響き渡った
「ローレル様!」
振り返ると、ヘレナがローレルのもとに駆け寄ってきた
「ヘレナ……!どうしたの?」
「今日でもうハルマスへお帰りになると聞いたので、ご挨拶をと思って」
息を切らしながら話すヘレナに、ローレルは微笑む
「まあ、そうだったの。わざわざありがとう」
するとヘレナの表情が神妙な顔になった
「ローレル様……私、大丈夫でしょうか?聖女としてやっていけるか不安で」
自信なさげに話すヘレナに、ローレルは優しく肩に触れた
「大丈夫。ヘレナには人々を思いやる心がある。だから私は、貴女を聖女に推したのよ」
そう言うと、ヘレナははにかんだ笑顔を見せた
そして「あ!」と何かを思い出したように声を上げる
「そう言えば、レイラ様から伝言を言付かっていました」
「レイラ様から?」
「はい。『あの化け物とお幸せに。私は新天地でデュークと幸せに暮らします』との事です」
それを聞いたローレルはクスリと笑った
レイラとデュークはというと
その後、ローレル辺境送り及び暗殺計画に加担したとして、レイラは社交界の一時参加停止処分、そして父オズワルドの罪もあり、アッカーソン家は爵位を返還するという処分に、デュークは王位継承権を剥奪され、王家追放と同時に王都の外れにある小さな村の領地統治を任させる事になった
しかしアッカーソン侯爵に利用されていたということもあり、その温情からか2人の婚約は解消されず、このまま結婚する事になったそうだ
身分を失い、以前より贅沢は出来ない生活にはなるが―――逞しいレイラなら、きっと大丈夫だろう
ローレルはそう確信していた
「では、もう行きますね。ヘレナ」
「はい、ローレル様もお元気で」
そうしてローレルは王都を後にした
自分の居場所であるハルマスに戻る為に




