第34話 約束
突如出現した無数の蔦に、アッカーソン侯爵とレイラは驚きを隠せずにいた
「こ…………これは一体なんだ!?何が起きたのだ!?」
「化け物………!?でもどうして王都にこんな物が!?」
2人が混乱する中、ローレルだけがその正体を分かっていた
「マディソン様…………!」
思わず名を呟くと、シュルシュルと蔦が集まりローレルの側に集まると、人型を形成しマディソンになった
「…………私の妻に手を出すとは、覚悟は出来ているのだろうな貴族よ」
ローレルを抱き寄せ、マディソンは冷たくアッカーソン侯爵を見下ろした
「ヒ………ヒースフィールド辺境伯………!?何故貴様がここに!?」
「私には分かるのだ。妻の危機が。どのような場所にいようとも、必ず感じ取れる」
そう言うとマディソンは長くしなる蔦を振り上げた
「マディソン様!待っ――――」
ローレルが言い切る前に、マディソンはアッカーソン侯爵を勢い良く薙ぎ払った
「ぐあっ!!」
アッカーソン侯爵は吹っ飛び、硬い石造りの壁に身体を打ちつけると、気を失った
「お、お父様!!―――ちょっと!いくらなんでもあそこまでやる必要無いじゃない!」
レイラが抗議すると、マディソンは気怠そうに答えた
「殺してはいない。少々眠って貰っただけだ。人間社会では勝手に殺してはいけないのだろう?」
マディソンが確認するようにローレルに顔を向け、ローレルは目を見開いた
「マディソン様……私との約束を守って下さったのですか?」
「フン………人間などローレル以外どうでもいいが、妻の願いだ………聞かない訳にはいかないだろう」
そう言うとマディソンはローレルの手錠を叩き切った
ローレルが嬉しそうに笑みを向けると、少し照れたようにそっぽを向いた
「……にしても、どうしてここにいると分かったのです?この聖務牢は限られた者しか知らない場所ですのに………」
「昔、ローレルに送った首飾りがあるだろう?」
「この首飾りの事ですか?」
ローレルが首に下げた首飾りを摘むと、マディソンは頷いた
「ああ。その琥珀色の石は、実は私の心臓ともいえる核の一部を削り取ったものなのだ。だからローレルに何かあったらすぐに分かるのだ」
「そんな大切なものを私に…………!」
思いがけず明かされた事実に、ローレルは首飾りの石をまじまじと見つめる
すると突如、甲高い声が牢獄に響き渡った
「……………ちょっと!2人の世界に入ってないで、私の手錠も外しなさいよ!!」
蚊帳の外にされたレイラが不満を爆発させると、マディソンが舌打ちしながらも手錠を叩き切る
そして息を付いたマディソンは口を開いた
「――さて、さっさとここを出るぞローレル。すぐにあの宰相に報告を――――」
ドスッ
鈍い音が響くと同時にマディソンの言葉が止まった
見ると短剣を持ったアッカーソン侯爵がマディソンの背中を刺していたのだ
刃が引き抜かれ、マディソンは膝から崩れ落ちた
「マディソン様!!」
ローレルが叫びマディソンのもとへ駆け寄る
「お父様………!正気ですか!?なんて血迷った事を!」
レイラが信じられないような声を上げると、アッカーソン侯爵は咳を切ったように笑い声を上げた
「ふっ………ははっ………!今更それを言うかレイラ!私は当の昔から正気を失っているのだ!」
ゲラゲラと笑うアッカーソン侯爵を、レイラは引きつった顔で見つめていた
「もうなりふり構ってられるか………!貴様ら全員抹殺してやる!」
そう言い放つと、アッカーソン侯爵は息を吸い首に下げていた笛を力の限り吹いた
ピィィィィィィ!
仄暗い牢獄に、つんざくような鋭い笛の音が響き渡ると、遠くから大勢の足音が近付いてくる気配をローレルは感じた
「―――!マディソン様!聖衛騎士団がここにやってきます!急いで手当を―――――」
言いかけたその時、それを遮るようにマディソンがローレルの手を取った
「マディソン様………?」
「案ずるなローレル………これくらいなんともない……」
荒い息を上げながら、マディソンはゆらりと立ち上がる
「ですが――――」
「………大丈夫だ。必ず戻る―――」
そう言うと、マディソンはローレルの唇に口付けた
「―――約束だ」
「マディソン様?―――えっ!?」
すると地面からボコボコと蔦が飛び出しローレルとレイラを包み込み始めた
「マディソン様―――――」
ローレルは手を伸ばすも、蔦の中へと閉じ込められた
そしてその蔦の繭は天井を崩しながら地上へと上がっていく
「………ハッ!化け物が愛しい女を助けるか。随分と泣ける話じゃないか」
それを見ていたアッカーソンは皮肉るように吐き捨てる
周りには彼が呼んだ聖衛騎士団がマディソンを取り囲んでいる
「そうだとも。私はローレルの為にここにいるのだから」
マディソンはゆっくり振り向くと、聖衛騎士団を舐めるように眺めた
何処か人間味のない動きに、騎士達は少し怯む
「――――では教えてやろう。お前達にこのハルマスの主を抑え込むなど出来ぬと言う事を。身を持って知るがいい」




