第25話 失うて後に知る
ローレルとマディソンが去った後
会場の一角ではヒステリーを起こすレイラをなだめるデュークの姿があった
「何よ、ローレルのやつ!怪物と結婚したと聞いてさぞかし悲惨な事になっていると思っていたのに、嬉しそうにしちゃって!ああつまんない!あんなおじ様の何処がいいのかしら!」
「レ、レイラ落ち着け!先程の事もあるのだ。これ以上変な噂が流れぬよう、大人しくしなければ……」
先程マディソンからハッキリと『ローレルを手に掛けようとした首謀者』と言い切られ、異様な空気になっているこの会場の空気を察し、デュークはハラハラしていた
しかしそれとは裏腹に、レイラの怒りは収まらない
「………何よデューク。もしかしてちょっと小綺麗になったローレルに、鼻でも伸ばしてるんじゃないでしょうね!?」
「そ、そんな訳ないだろう!」
「ふん!どうだか!皆してローレルローレルって……あああああ!もう!!なんでこうなるのよ!!!」
癇癪を起こし始めたレイラをなだめながら、デュークは内心ため息を付いた
―――――――どうしてこうなってしまったのだろう
デュークは遠い昔にローレルと初めて会った時の事を思い出していた
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初めてローレルを目にした時、デュークは心底ガッカリしていた
デュークの好みの異性では全く無かったからだ
野暮ったい眼鏡、地味な雰囲気、そして浅黒い肌――――
もっと儚げで透明感のある異性が好みだったデュークは、真逆のローレルを好きになる事が出来なかった
ローレルは健気に婚約者として接してはくれたが―――好意のない者からの好意ほど、苦痛なものはなかったのだ
そんな時出会ったのが、当時シスターだったレイラだ
偶然にもレイラの父が、かつてデュークの教育係をしていたのもあり、仲が深まるのも遅くはなかった
そしてレイラから、ローレルにまつわる黒い噂を聞かされたのだ
外では聖女として清廉潔白のように振る舞っているが、実際は腹黒い悪女だと言う事
レイラはそんなローレルの鬱憤の捌け口として、虐げられている事
実は聖女の力が無いのにも関わらず、それを偽り聖女として振る舞っている事
そして、本来ならレイラが聖女に選ばれるはずだったのに、ローレルが神官達に根回しをし、聖女の座を手に入れた事―――――
涙ながらに話すレイラを見て、デュークは怒りに震えた
―――――今まで国で決められた事だと我慢していたが、そんな性根の腐っている奴だとは
そしてデュークはローレルに婚約破棄を言い渡し、聖女である事も取り消し、ハルマスに送り抹消しようとしたのだ
結局、命を奪う事は叶わなかったが―――それでも愛しのレイラと婚約を結び直し、自分の思い通りなった、はずだったのに――――
聖女がレイラに代わって以降、セルニグルの加護が弱まり、怪我や病気に見舞われる民達が多くなったのだ
最近では作物の不作に悩まされ、対策に追われている
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―――――まさかローレルの聖女の力は本物だったのか?
いつしか、そんな疑念が頭をよぎるようになってしまった
レイラにだって聖女の素質はあるはずなのに
今のレイラを見ていると、かつて涙ながらに語った、ローレルの非業そのもののような気がしてしまうのだ
そんな彼女を、デュークは黙って見つめていた
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その後
頭を冷やさせる為、レイラをどうにか控室に閉じ込め終えたデュークは会場横の庭園に来ていた
シンと静まりかえった庭園では、噴水の水音だけが響き渡っていた
フワリと夜風が吹くと、薔薇の高貴で優雅な香りが鼻をくすぐる
そんな静けさの中にある美しさに浸っていると、向かいの東屋から人の気配を感じた
そっと近付くと、そこにいたのはあのローレルだった
「ローレル…!」
思わず名を呟くと、ローレルは驚いたように振り向きデュークを見つめた
「デューク殿下……!」
眼鏡越しの金色の目を見開き、かつての婚約者の名を呟くローレルに、デュークの胸がトクンと高鳴った
――――ローレルはこんなにも美しい女だっただろうか
今まで好みではないという先入観で彼女をよく見ていなかったデュークだが、数カ月ぶりに見るローレルはまるで別人の様だった
上にまとめられ結われた長い金髪に、星の輝きの様な金色の瞳――――
そして何より目を引くのは、あの褐色の肌だった
浅黒く美しくないと思っていたあの肌が、月の光を受けると琥珀色のドレスも相まって、どこか神秘的でオリエンタルな美しさをまとっていた
「……………すまなかった」
気付けばデュークはローレルに謝罪の言葉を述べていた
見たこともないデュークの行動に、ローレルは目を見開き驚く
「ど、どうされたのです!?殿下らしくもない―――」
「偏った価値観に囚われ、お前と向き合う事をしなかった。そうすれば、お前の真の美しさにも気付けたのだろうか………」
デュークは自虐的に笑うと、ローレルの手を取った
その瞬間ローレルの身体がビクリと揺れた
「…………もう一度、やり直せないだろうか?………正妃には出来ないが、側妃なら可能だ。ローレルがいてくれるなら、父上も喜ぶ―――――――」
その時だった
ローレルの身体が勢いよく引き剥がされる
驚き見上げると、そこにはローレルを守るように抱き寄せ、デュークを睨みつけるハルマスの主の姿があった
「ハルマスの―――」
「私の宝に手を出すとは、余程命が惜しくないらしいな王太子よ」
低く投げかけられた言葉に殺意を感じ、デュークの背筋にゾクリと寒気が走る
「フン………今更ローレルの美しさに気付いたか愚か者め。ローレルを磨き上げたのは私だ。誰にも渡さぬ」
そう言われデュークは目を見開くと、後悔を滲ませ目を逸らした
すると
「デューク殿下」
かつての婚約者に名を呼ばれ、デュークは顔を上げる
そして優しい笑みを浮かべると彼女はこう述べた
「殿下のお気持ちは嬉しいのですが、そういった言葉はもっと早くお聞きしたかったです。私の心はもう既に、マディソン様にあるのです」
申し訳ございません、と頭を下げ謝罪を述べるとマディソンと共にその場を後にした
「…………ははっ。全てが遅かったと言う訳か」
乾いた笑いを出し、デュークは夜空を見上げた
空にはデュークの心とは裏腹に、幾千もの星が輝きを放っていた




