第22話 荒れた王都、愛される聖女
ある日の王都にあるセルニグル大神殿にて
正門前では、国民が押しかけ様々な声が飛び交っていた
「お願いです!聖女様に会わせて下さい!子供の熱が下がらないのです!」
「うちのせがれの大怪我を、聖女様に治してもらったはずなのにちっとも良くならねぇ!どうなってるんだ!」
「農園で育てている野菜が上手く育ちません!このままでは出荷出来ない!」
悲痛な声を上げる国民たち
それを神殿の司祭や助祭達が、中に入らないよう押さえていた
「皆様落ち着いて!落ち着いて下さい!聖女様は気分が優れないのです。持ち直すまで暫くお待ちください!」
司祭の1人が市民達をなだめようとする
しかし
「嘘だ!この前街で呑気に歩いてるのを見かけたぞ!あれの何処が調子悪いんだ!」
「それに、この街がおかしくなったのは、聖女様が新しく代わってからだわ!」
「あの女は本当に聖女の力を持っているのか!?」
市民の不満は収まるどころか大爆発寸前にまでなっていた
司祭達はこの状況を、必死で抑え込む他なかった
――――――――――――――――――――――
同じ頃神殿の一室では、聖女となったレイラが窓の外からその様子を見ていた
怒号飛び交うその状況を、口を歪ませ見つめている
すると扉が叩かれる音が聞こえた
「レイラ様!どうか部屋から出てきて下さい!せめて祈りの儀だけでも行って下さい!」
そう必死に呼びかけるのは次期聖女候補の1人、ヘレナだった
するとレイラは扉に向かって神具を投げた
ガシャンという音と共に、レイラは声を荒げる
「うるっさいわね!どうせ祈ったって何も変わりはしないのだから良いじゃない!」
レイラは八つ当たりのように扉の向こうにいるヘレナに当たり散らす
しかし幼い次期聖女候補は食い下がった
「で……ですが、もう4日も祈りの儀を行なっていません……聖女の祈りがなければ、民達の暮らしが更に苦しくなってしまいます!」
「だから!祈った所で良くはならないじゃない!意味の無い事はもうやらないわ!そんなに祈りが欲しいなら、あんたが祈ってやれば良いじゃないの!」
叫ぶように反論すると、ヘレナはやっと諦めたのか足音が遠ざかる音が聞こえてきた
レイラは乱暴に椅子に座り爪を噛み始めた
(どうして!?なんであの女のようにうまくいかないの!?)
苛立ちが収まらず、爪を噛む力だけが強くなる
レイラの家系―――アッカーソン家は神力を持つ者が多く、代々神職に就く者が多かった
勿論レイラもその1人で、ゆくゆくは聖女になるはず―――だったのだが
ローレルが現れた事により、聖女の道は絶たれてしまったのだ
平民の、しかも孤児の少女が、聖女に選ばれた事をレイラはずっと気に食わなかった
父も同じように納得せず憤慨していたのもあり、レイラは王太子であるデュークに近付き、彼女からデュークを奪い取ったのだ
そして念願の聖女になった―――はずなのだが、彼女を待っていたのは、この有り様だった
――――――――ローレルの方が力が上だとでも言うの!?
その事実を受け入れ慣れないレイラは爪を噛み砕く
ドス黒い嫉妬が落ちるかのように、レイラの指から血が滴り落ちるのだった
――――――――――――――――――――――――
一方その頃
ハルマスの森の屋敷では、ローレルがミニマンドラゴラ達によって動きを抑えられていた
「あのぅ………マディソン様、これは一体………」
ローレルがおずおずと尋ねると、離れた所でソファに座るマディソンが口を開いた
「この前言ったであろう。ローレルを美しく着飾ってやると。社交界にいくならドレスが必要なのだろう?だから今からそれを作るのだ」
そう言われローレルはまとわりついているミニマンドラゴラ達を見つめる
「ピッ!ピピッ!」
ミニマンドラゴラ達はローレルの肩や胸囲、腰回り等を丁寧に測っている
そして少し離れた所では、リビーとパールが何かを熱心に見ていた
「リビー達は何をしているの?」
「ドレスのデザインや色を決めているのですよ。ローレル様に似合うものを選びますね」
「ピッ!」
パールが手を挙げ、任せて!と言いたげにローレルに向かって鳴き声を上げる
「でも生地は何処で手に入れるの?それに誰が仕立てを?」
「生地は昆虫族で作っている者がいるので、そこで調達するのです。調達出来たら我々が仕立てるのですよ」
リビーとミニマンドラゴラ達が仕上げると知ったローレルは思わず身を乗り出した
「えぇっ!?リビー達が!?大変ではないの?」
「そりゃもう。徹夜して仕立てます」
リビーが遠い目をして答えていると、ローレルの採寸をしていたミニマンドラゴラの1匹が鳴き声を上げた
「ピッ!ピピッ!ピッ!」
どうやら動かないでくれとローレルに注意しているようだ
「ああ、ごめんなさいね」
優しく謝るローレル
その時、座っていたマディソンが立ち上がり、ローレルの元へ来る
「マディソン様?どうされましたか?」
「……いや、ローレルのドレスは琥珀色にしたいと思ってな」
そう言うと、マディソンはローレルの顎に手を添えた
「きっと小麦色の肌に溶け込んでよく似合う。甘い蜜が溶けるようにな」
マディソンの妖艶な笑みに、ローレルは顔を赤らめる
すると
「ピーッ!ピピーッ!!」
2人の間に割って入るようにミニマンドラゴラがマディソンの腕に乗り「仕事の邪魔をするな!」と言わんばかりに抗議している
マディソンは眉をひそめながらミニマンドラゴラをつまんだ
「こら。この口うるさい生き物め。茹でてサラダにしてしまうぞ」
「ピャーッ!」
マディソンの脅しにミニマンドラゴラは叫び声を上げ暴れた
その様子に、ローレルは思わず笑うのだった




