第21話 オルグレンからの依頼
ある日のヒースフィールド邸にて
広間では思いがけない訪問者が現れていた
「まさかまたここを訪れて下さるなんて、一体どうされたのですか?オルグレン宰相閣下」
ローレルは向かいに座るセルニグル王国の宰相、オルグレンに尋ねた
オルグレンは出されたお茶を一口飲むと、静かに口を開いた
「実は幾つかお願いがありましてね。こうしてはせ参じたわけです」
オルグレンがローレルに向け笑みを送ると、彼女の隣に座るマディソンの眉がピクリと動く
「この期に及んで、やはりローレルを返せと言うわけでは無かろうな?」
「まさか!ハルマスの主と争うなどという無謀な事を、するわけがありません」
オルグレンは軽く笑い飛ばすと、こう切り出した
「実は、ハルマスの主―――ヒースフィールド様に爵位を授けようと思いまして」
その意外な申し出に、ローレルが目を瞬かせた
「マディソン様に、爵位を……?何故です?」
「ヒースフィールド様に、この森の統治を、正式に任せたいのです」
「この森の統治……ですか?」
ローレルの問いにオルグレンは小さく頷く
「ええ。この森には希少な植物が多く生息しています。物によっては薬やポーションの原料となるような植物もある。しかし、生身の人間が気軽に足を踏み入れられる場所ではない。そこでハルマスの主であるヒースフィールド様に爵位を与え、森の統治をしていただき、植物の一部を王都に献上してほしいのです」
話を聞いたローレルは感心したように何度も頷いた
一方、その横でマディソンは眉をひそめる
「爵位などいらん。そんなにここの植物が欲しいのなら勝手に取っていけば良いではないか」
「そういう訳には参りません。我々はハルマス一帯を正式にセルニグル王国の領地として認めたいのです。それと同時に、王家への報告も定期的に行ってほしいのですよ」
にこやかに答えるオルグレンに、マディソンは舌打ちした
(成る程……絶大的な力を持つマディソン様を、王家の支配下に置いて、良からぬことをしでかさないようにしたいのね)
ローレルはチラリと2人を見ながら納得する
するとオルグレンが更に話を続けた
「それに伴い、ローレル様とヒースフィールド様に王都にお越しいただきたいのです」
「お、王都にですか!?」
驚いて思わず聞き返すと、オルグレンは頷く
「はい。爵位を授けるにあたって、一度国王陛下との謁見が必要になりますから」
するとマディソンの不機嫌そうな声が飛んできた
「国王などには会わん。そんなに私に爵位を与えたいなら勝手に与え放っておけば良いだろう?」
「王太子の元婚約者である聖女と婚姻を結んだのですから、いい加減な事は出来ませんよ。それに、王都にお越しいただきたいのには、もう一つ理由があるのです」
少し含みのある発言に、ローレルは瞬時に察した
「もしかして………新聖女のレイラ様の事ですか?」
その問いに、オルグレンはそれを肯定するように頷いた
「はい。ローレル様からレイラ様に変わって以降、国民達の怪我や病気が増え、作物の不作に悩まされています」
「やはり………」
恐れていた事が現実になりローレルは目を伏せる
レイラには神力が全くない訳では無かったが、それがセルニグル王国の民達全員を守る程強大な力では無い事が、ローレルには分かっていたからだ
「ローレル様に頼れない以上、新たな聖女を探し出さなければなりません。その事で神官達と話し合ってほしいのです」
ローレルは自らの問題に向き合う時が来たのだった
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オルグレンが去っていった後
広間に残された2人は来客の対応を終え、一息ついていた
「全く、面倒な事を押し付けて来るのだな王家側の人間というのは」
うんざりした様子のマディソンを、ローレルは苦笑して見つめる
「恐らく私を気にかけているのです。オルグレン閣下はお優しい方ですから」
その言葉を聞いたマディソンは若干複雑そうな顔をする
しかしその後笑みを浮かべた
「だが、社交界なるものは興味深い。ローレルの着飾った姿が見られるのだろう」
そう言ってまるで着飾ったローレルを想像するように彼女を見つめる
オルグレンからの話の中で、国王陛下との謁見の後、王家主催の夜会に出てほしいとの申し出もされたのだ
興味深そうにしているマディソンとは対象的に、ローレルは苦笑いを浮かべた
「うう………私、社交界は苦手なのです」
「何故だ?」
「私の肌は色黒なので………一緒にいると恥ずかしいと、昔殿下に言われまして………」
ローレルは肌の色を隠すように腕を押さえた
数年前、デュークの婚約者として出た社交パーティにて「お前のような浅黒い女と一緒に並ぶなど恥だから離れていろ」と言われ、ローレルはデュークの数メートル後ろを付いているだけで終わったのだ
そしてデュークの隣には、変わりにレイラが並んでいた
そんな苦い思い出しか無い社交界に、ローレルは苦手意識があったのだ
「ローレル」
ふいにマディソンに呼ばれ振り向くと、マディソンはローレルの顎に手を置いた
「ローレルのその肌は、まるで木々の幹のようで温かみがある」
「え………?」
ローレルが小首を傾げていると、マディソンは更に続けた
「そして、この金色の髪は樹液のように輝き、甘い香りで私を惑わすのだ」
そう言ってローレルの髪を少し手で取ると、マディソンはローレルの髪に口づけを落とした
ローレルは思わず顔を赤らめる
「マディソン様……」
「価値の分からぬ者には言わせておけば良いのだ。ローレルの為に、私が美しく着飾らせてやろう。そして後悔させてやるのだ」
恥ずかしさもありながらも、ローレルはマディソンの言葉に救われるのだった




