第14話 無実の聖女を捜索せよ
「ローレルに傷一つ付けることもなくノコノコ帰ってきただと!?お前達にセルニグルの誇りは無いのか、この恥知らず共め!」
ヴィノグラード城にて、命からがら帰還してきた騎士達を、デュークは早々に怒号を浴びせた
皆、下を向き押し黙る中、騎士隊長が恐る恐る口を開いた
「お、恐れながら、あの森には我々の想像を遥かに上回る化け物共が確かに存在しております………実際にこの目で見たのです!瞬く間に仲間の血を吸い尽くす化け物を!そしてローレル・フェルトンを守るように覆うハルマスの主を!」
「この期に及んで言い訳か!?そんなもの聞きたくもない!」
騎士隊長の訴えにも聞く耳を持たず、デュークは拳を握りしめ更に怒りを増幅させた
言い分一つ聞かない王太子に、騎士達は唇を噛みしめる
「ああもう!お前達のせいで段取りが全てめちゃくちゃだ!どうしてくれるのだ!」
デュークが頭を掻き喚いていると、低い声が室内に響いた
「――――――何が、全てめちゃくちゃなのだデューク?」
その声の主を察知したデュークは勢い良く振り返る
そしてその人物の姿を目にすると、サァっと血の気が引いた
「ち………父上………!」
そこにいたのはセルニグル王国国王、そしてデューク父であるアーノルドだった
「な、なんでもありません父上!大した事では――――」
「ほう。聖女ローレルとの婚約を独断で破棄し、しまいには命を奪おうと企んでいた事が『大した事ではない』と?」
父には内密にしていた計画が全てバレている事に、デュークは動揺し目が泳ぎ出す
「あ、え?な、なんで知って……?え?」
何とも間抜けな姿を晒す息子に、アーノルドは深いため息を付いた
「はぁ…………周りにバレるように指示を出していたのに何をいうか……………っこの大馬鹿者め!!」
「ひっ!」
父の大きな一喝に、デュークは縮み上がる
「国の要だったローレルを追放し、しかも手に掛けようとするとは………!なんてことをしてくれたのだ!ローレルがいなければ、セルニグルは衰退する一方だ!」
「し、しかし父上!ローレルの聖女の力は偽物です!奴は聖女と偽って皆を騙し、弱き者を虐げていたのです!本物の聖女はレイラなのです!」
食い下がるデュークに対し、アーノルドは更に青筋を立てた
「たわけ!そんな訳がなかろう!ローレルはこちらから噂を聞きつけ、わざわざ片田舎の孤児院に出向きセルニグル大神殿へ迎え入れたのだぞ!?何処で欺く真似が出来るというのだ!」
その言葉を聞いたデュークは顔をを青ざめさせ、ヘナヘナとその場に座り込む
「……しばらくお前は謹慎処分とする……デュークを自室に監禁しろ!暫く外から一歩も出られぬよう見張れ!」
そう指示すると、兵士達がデュークの腕を抱え連行していった
デュークは何かを喚いていたが、言い訳も虚しく部屋から消えていった
静かになった広間でアーノルドは再びため息を付いた
「……全く、ローレルが偽物の聖女などと、誰が吹き込んだのやら………」
少しばかり世間知らずなデュークはまだしも、ローレルの能力を知っていれば偽物と呼ぶなどあり得ない事である
――――― 一体誰の企みか
アーノルドは疑問に思いつつ、従者に目を向けた
「今すぐオルグレンをここに呼べ。そして、ローレル・フェルトン捜索を開始させるのだ」
国王は真っ直ぐに見つめ指示を出す
ローレルを巡るいざこざは、彼女の知らぬ所で、新たな展開を迎えるのだった
―――――――――――――――
その頃ハルマスの森の屋敷では、ローレルがベッドの上で寝かされていた
「―――風邪だねこれは。環境の変化が大き過ぎて疲れが出たんだろう」
ひまわりの頭の医師ルシアンは、中央の1つ目をギョロリと動かしマディソンに告げた
それを聞いた彼は、赤い顔をしてベッドに横たわるローレルの額にそっと触れる
あの騒動の後
最初は怪我以外は何ともなかったローレルだったが、次の日目が覚めると、謎の倦怠感と発熱に襲われていたのだ
当初はそれでも心配かけまいと元気に振る舞っていたのだが――――突如立ちくらみを起こし倒れ、そして今に至る
ローレルはぼーっとする頭で、ルシアンとマディソンを見つめていた
「人間は僕らと違って、脆いから気を付けろよマディソン。君は形だけは紳士的だが、強引に他人を引き込む所があるから」
「失礼な………そのくらいやっているルシアン。私にだって気遣いくらい出来る」
ルシアンに指摘されたマディソンは、あからさまにムッとした表情になる
(すぐむくれるんだから…………)
ルシアンは内心苦笑しつつ、鞄から薬を出した
「というわけで、暫く奥様は寝て休まれたほうが良い。食事は食べやすいような柔らかいものを。良く寝て、薬を飲んで、体力を回復させる事」
手に持っていた薬をサイドテーブルに置くと「それではお大事に」と言い頭を下げ、部屋から去っていった
扉が閉まると、ローレルはマディソンを見上げた
「申し訳ありませんマディソン様………この様な体たらくで………」
申し訳無さそうに眉を下げると、マディソンは穏やかな顔で首を横に振った
「なに、謝ることではない。思えば様々な事が起こり過ぎた。体調を崩すのも無理はない」
そう言いながらローレルの頭を撫でると、彼女は心地よさそうに目を細めた
「今日は1日寝ていると良い。食事の時間になったら起こそう」
「はい………」
マディソンは名残惜しそうにローレルから手を離すと、ゆっくり部屋を去っていく
ローレルはシンと静まりかえった部屋で1人目を閉じた




