第13話 黒幕の最期
その頃
ローレルは未だマディソンに引っ付かれ困惑していた
「マ、マディソン様……そろそろ離れてください……」
「断る」
「ですが――――痛っ!」
なんとか引き剥がそうと身をよじった時、足に痛みが走りローレルは顔を顰めた
同時にマディソンも異変に気付きやっと顔を離す
「足をやられたか」
赤く染みたスカートの裾に目をやると、マディソンはローレルを抱きかかえた
「マディソン様?」
首を傾げるローレルをよそに、マディソンは彼女を切株の上に座らせるとスカートの裾をそっとめくった
「吸血花の棘に刺さると血が止まりにくくなる。すぐに止血せねば」
そう言うと、突然右足のふくらはぎを舐め始めた
「!?!?!?マッ!?マディソン様!?」
突然の行動に思わず名を叫ぶと、マディソンはキョトンとした表情で顔を上げた
「どうしたのだ?」
「なっなななななんで足っ……!舐め……っ!」
口をぱくぱくさせながら尋ねると、「ああ」と思い出したかの様に説明しだした
「私の体液には血を止める作用があるのだ。そうはいっても応急措置程度だが―――何もしないよりはマシだ」
言い終えるとマディソンは再びローレルのふくらはぎを舐め始めた
(そ、そう入っても……これは―――)
鼓動が早くなるのを抑えながら、ローレルはマディソンの方に視線を向けた
彼は至って真面目に手当てをしている
しかしその光景は何処か艶っぽくローレルには映る
「――――――――――っ!」
ローレルは目を背け、この状況を耐えた
すると
「ピッ!ピッ!」
突然パールの鳴き声が近くで聞こえ、ローレルは意識をそちらに向ける
「どうしたのパール?」
「ピッ!」
パールが指差す方向には、花の小人達が美桃を運びながらコソコソと立ち去ろうとしている姿が見えた
「あ!あの子達―――」
ローレルが声を上げた瞬間、物凄い速さでマディソンの蔦が伸び小人達を捕まえた
『『『『うわぁ―――――!!』』』』
囚われ叫ぶ小人達は乱暴にマディソンのもとへ引き寄せられた
「……さて、どういう事か説明願おうではないか。小人風情がいい度胸だ」
マディソンは黒い殺意を飛ばしながら花の小人達の前に出た
「ただの些細な嫌がらせと、みくびっていた私が悪かったようだ。それ相応の報いは受けてもらおう」
マディソンが淡々と告げると、小人達は身体を震わせた
『ごめんなさい』
『こんなはずじゃなかったの』
『ちょっと驚かせたかっただけだったんだ』
『どうかお慈悲を』
許しをこう小人達
しかしマディソンは態度を変えない
「言い訳は無用だ――――」
「ま……待って!」
その時、ローレルが咄嗟に声を上げマディソンのジャケットの裾を引っ張る
「ローレル?」
「確かに小人さん達は私にいたずらを企んでいたけど、私を殺そうとした訳では無いと思うわ。…………そうなんでしょう?貴方達」
ローレルが優しく尋ねると、小人達は頷いた
『……フレイ様が言ったの』
『人間に湖にある美桃の実のなる木で実を取らせろって』
『そうしたら面白いものが見れるって』
『これで人間もマディソン様から離れるって』
小人達の話を聞いたマディソンは一切の感情を無くした
彼の顔から感情が消え、瞳の奥の冷たさだけが感じられた
「ほう………そういう事か」
ぽつりと声を零し、マディソンは小人達を蔦から解放するとくるりと背を向けた
「…………ローレル、屋敷に戻ろう。濡れた衣服を替えなければ。それに怪我の手当も」
マディソンはローレルを抱きかかえると、ゆっくり歩きはじめた
「は……はい」
返事を返すと、ローレルはマディソンの顔を見上げる
見る分にはそこまで表情に変化はないが―――何処か黒い感情が渦巻いているような感覚に、ローレルは密かに不安を募らせた
――――――――――――――――――
その日の夜
ハルマスの森ではフレイが花の小人達から貰った美桃の実を1人見つめていた
するとその時、強い風と共に明確な殺意が背筋に伝った
「――――――――!」
慌てて振り返った瞬間、フレイは勢い良く首を掴まれる
美桃の実が地面に落ち、ぐしゃりと潰れた
「――――ぐっ!……やはり、来たわね………」
乾いた笑い声を上げ視線を向けた先には、マディソンが冷たい表情でこちらを見ていた
「……超えてはならない一線を越えたなフレイ。自分の取り巻きを使い、直接手を下さなければ欺けるとでも思ったか?」
低く冷たい言葉が、フレイに刺さる
「ふ……ふふ………やはり貴方を欺くことは出来なかったのね」
薄ら笑いを浮かべながら、フレイは観念したように自らの罪を認めた
マディソンの手に力がこもる
「そんなにも気に食わぬか、ローレルが」
「ええ………!気に食わないわ!貴方があの小娘を拾って来なければ、こんな事にはならなかったのに………!私はいつまでも、貴方と共に生きていけたのに………!」
フレイはローレルを思い浮かべながら怒りを滲ませる
次の瞬間
ザクリ…………
「う………あ…………」
マディソンの蔦が束をなし鋭利な槍となり、フレイの腹部を貫通した
「お前は相当な思い違いをしている」
マディソンがそう言ってフレイの首から手を離すと、続けてこう述べた
「仮にローレルと出会わなくとも、私がお前と共にいる未来など、絶対に起こりはしない」
フレイを貫いていた蔦を引き抜くと、フレイは力無く地面に倒れ込む
「私が愛するのは、後にも先にもローレルただ1人だ」
そう告げると、マディソンはその場を立ち去った
フレイは薄れゆく意識の中、彼の後ろ姿を見つめる
「ふふ……は……端から私に勝ち目などなかったというわけか……」
フレイは微かに笑うと、そのまま孤独に命を散らせた




