第12話 蔦を操る化け物
(あの蔦はマディソン様――――ではないわ。マディソン様と同じような食人植物なの?―――)
ローレルは息をのみ空に向かって伸びる刺々しい蔦を見つめる
すると花の小人達が騒ぎ始めた
『吸血花だ!』
『捕まったら血を吸われるぞ!』
『どうしてここに!?』
『逃げろ!逃げろ!』
刺々しい蔦を吸血花と呼び、恐怖に怯え慌てふためいている
(――――花の小人達も想定外だったの?)
ローレルが眉をひそめていると、騎士隊長の声が響き渡った
「まずはあの化け物を何とかしろ!かかれ!」
指示を聞いた騎士数名が走り出し、吸血花に向け刃を振り落とそうとした
――――――しかし
ギュルギュルギュルギュル!
「ぐあっ!」
「があっ!」
刃が吸血花に届く前に騎士達はいとも簡単に捕まってしまう
屈強な騎士達が藻掻き蔦を引き千切ろうとするもびくともしない
そして次の瞬間
ドクッドクッドクッ……………
何かを吸い込む音が静かに響き渡った
すると同時に、騎士達の動きが止まったかと思うと、糸が切れた人形のようになり、手から剣が滑り落ちる
顔を見上げ囚われた騎士達を見ると、肌から見る見る血の気が引き皮膚が紫に変色し始めた
―――――――吸血花が騎士達の血を吸い上げているのだ
それを悟ったこの場にいた者達は言葉を失い、立ちすくむ
「ああ………!」
ローレルはこの惨状に思わず声を漏らした
そして血を吸いつくされた騎士達は、まるでゴミを捨てるかの様に放り投げられた
投げられたその死体は、同じセルニグルの騎士達の目の前に落ちる
「うっ……!」
あまりにも無惨な姿に、騎士と言えども思わず小さなうめき声が漏れた
絶望的な空気が流れる中、ローレルの耳にパールの小さな鳴き声が届いた
「ピッ!ピッ!」
今のうちに早く湖から出て逃げようと身振り手振りで伝えるパールに、ローレルは静かに頷いた
(そうだわ、この混乱している今がチャンス。兵士達からも吸血花からも逃げなきゃ……)
出来るだけ音を立てず立ち上がり湖から上がると、パールを肩に乗せ走ろうと試みた
しかし――――
バシン!
「やぁっ!」
微かな動きを吸血花に悟られ、ローレルの足にあの棘が刺さる
「ピーッ!」
パールが心配して声をかけるも、ローレルは痛みで起き上がれない
「痛っ………!」
チラリと右足を見ると、ふくらはぎに無数の穴が空き、血がどくどくと流れている
更に追い打ちをかけるように吸血花はそのままローレルに狙いを定め始めた
(もう駄目………)
そして刺々しい蔦がローレルを掴もうとしたその時だった
『キシャァァァァァァァ!!』
ふいに甲高い叫びが響き渡った
見るとそこには蔦で形成された狼のような動物が吸血花の蔦を噛みちぎっていた
―――――――マディソン様だ!
いつもと姿こそ違うが、ローレルは感覚的に直感した
そしてそれと同情に安堵と嬉しさが込み上げてきた
蔦の狼姿のマディソンはそのまま吸血花に向かって走る
『キイィィィィィィ!!』
吸血花が叫びを上げ蔦を鞭のように振ると、狼の頭に掠った
「マディソン様!」
ローレルが思わず声を上げるが、マディソンはそれに動じる事なく突っ切っていく
そして
ガブリッ!!
『ギィィィィィィィィィ!!!!』
吸血花の花の部分に齧り付くと、激しい金切り声をあげた
どうやらそこが急所のようだ
マディソンはそのまま喰らいつき、引きちぎり出した
ブチブチブチッ!!
『ギィァァァァァァァァァァッ!!!』
食い千切られた吸血花は断末魔を上げるとそのままクタリと動かなくなった
蔦の狼姿だったマディソンは形成を解きバラバラの蔦のままローレルのもとに近寄る
そしてローレルの側にたどり着くと蔦がローレルにまとわりつき始めた
まるで抱きしめるかの様に身体に絡まる蔦に加え、マディソンの手が形成され、ローレルの頬に触れた
「マディソン様………?」
そっと壊れ物を扱うかの様に触れたかと思うと、いつの間にかローレルの額がマディソンの額に寄せられていた
「ああ……良かった。ローレルの無事に勝るものは無い……」
ボソリと低く呟かれた言葉に、ローレルの胸が高鳴った
チラリと彼を見ると、安堵と愛おしさが混ざったような表情をしている
そして顔を離さないまま、ローレルが生きている事を何度も確かめ安心している様だった
その時マディソンの額から湿った何かが触れるのを感じた
そして鉄の匂いを感じ、マディソンが怪我を負った事をローレルは思い出した
「マディソン様お怪我を……お怪我を治しませんと」
そう言ってそっと引き剥がそうとするも、マディソンは離さない
「良い。私はそんなにヤワでは無い」
キッパリと断られ、ローレルは困り顔のままマディソンを受け入れる他なかった
――――――――――――――――――――――――
一方、そんな2人の様子を、遠くから見つめる集団がいた
―――セルニグルの騎士達だ
「部隊長。今が好機です。ローレル・フェルトンを始末しましょう」
騎士の1人がコソリと意見すると、部隊長は小さく頷いた
「よし。あの謎の男諸共始末するぞ」
そして部隊長が手で合図しようとしたその時
「―――――――ひいっ!」
『あるもの』を見た騎士達は小さな悲鳴を上げ、一斉に動きを止めた
―――――マディソンの後ろから伸びた蔦が、大蛇を形成し、騎士達を威嚇していたからだ
今にも襲ってきそうな様子に、騎士達は手も足も出ない
「蔦を操る化け物…………もしや…………!」
何かを思い出した部隊長は顔を強張らせながら蔦の大蛇を見つめる
そして静かに踵を返した
「――――皆、撤退だ。王都へ戻るぞ」
その言葉に、騎士達がざわついた
すると1人の騎士が口を開いた
「な、何もせず帰るのですか!?」
「相手が悪すぎる。今ローレル・フェルトンに寄り添っている男は、ハルマスの主だ」
「ハルマスの主………?」
眉をひそめ尋ねると部隊長が足を止めた
「…………幼い頃、村の言い伝えで聞いたことがある。ハルマスには蔦を自由自在に操る主がいると。その主が恐らくあの男だ。我々では勝てん……行くぞ」
部隊長が再び歩みを進めると、他の騎士達も静かにその後に続いた
こうして再び、ハルマスに静寂が訪れた




