↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リアルディープダンジョン―ある新興ギルドの一年―  作者: 大福


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/28

第6話 引退

 六月二十三日。



     ◇



 この日。



 潜航業界に。



 激震が走った。



     ◇



「本日をもちまして。」



「ギルドマスターを。」



「退任いたします。」



     ◇



 午前十時。



     ◇



 潜航ギルド。



 《アイアン・ホーク》。



     ◇



 創業。



 四十一年。



     ◇



 所属。



 九十六名。



     ◇



 最高到達階層。



 第十八層。



     ◇



 四十年以上。



 地下へ。



 人を送り続けてきた。



     ◇



 老舗。



 潜航ギルドである。



     ◇



 ギルドマスター。



 グレイ・ハワード。



 六十三歳。



     ◇



 潜航者として。



 二十七年。



     ◇



 ギルドマスターとして。



 十六年。



     ◇



 本来。



 その任期は。



 今年いっぱいまで。



     ◇



 だった。



     ◇



「質問を。」



「どうぞ。」



     ◇



「退任は。」



「年末の予定だったと。」



「はい。」



     ◇



「今回の敗走を受けて。」



「前倒しされた。」



「そういう理解で?」



     ◇



「……。」



     ◇



「そうです。」



     ◇



 三日前。



     ◇



 六月二十日。



     ◇



 《アイアン・ホーク》は。



 これまで。



 本格的な調査を行っていなかった。



 第十九層へ。



 向かった。



     ◇



 参加。



 三十五名。



     ◇



 死亡。



 一名。



     ◇



 重傷。



 三名。



     ◇



 軽傷。



 七名。



     ◇



 装備。



 多数放棄。



     ◇



 第十九層調査。



 中止。



     ◇



 撤退。



     ◇



 そして。



     ◇



 敗走。



     ◇



「今回の潜航について。」



「無謀だったとの認識は?」



「ありません。」



     ◇



 即答だった。



     ◇



「判断ミスがあったと?」



「現時点では。」



「そう考えていません。」



     ◇



 会場が。



 ざわつく。



     ◇



「計画に問題はなかった。」



「判断にも問題はなかった。」



「それでも。」



「一名が亡くなっています。」



     ◇



「はい。」



     ◇



「矛盾していませんか?」



「していません。」



     ◇



 グレイは。



 記者を見る。



     ◇



「正しい計画を立てれば。」



「誰も死なないのなら。」



     ◇



「この仕事は。」



「もっと簡単です。」



     ◇



 会場が。



 静かになる。



     ◇



「規定に違反した者は。」



「いません。」



     ◇



「装備にも。」



「現時点で。」



「重大な不備は確認されていない。」



     ◇



「撤退判断も。」



「遅かったとは。」



「考えていません。」



     ◇



「それでも。」



     ◇



 少し。



 間。



     ◇



「一人。」



「帰せなかった。」



     ◇



 潜航ギルドが。



 撤退することは。



 珍しくない。



     ◇



 怪我人が。



 出ることもある。



     ◇



 死亡事故も。



 この業界から。



 なくなったことはない。



     ◇



 今回。



 業界が驚いた理由は。



     ◇



 敗走したからではない。



     ◇



 敗走したのが。



 《アイアン・ホーク》だったからだ。



     ◇



 四十一年。



     ◇



 積み重ねた。



 潜航記録。



     ◇



 経験。



     ◇



 装備。



     ◇



 人員。



     ◇



 そして。



 実績。



     ◇



 その老舗が。



 第十九層から。



 逃げ帰った。



     ◇



「退任は。」



「亡くなられた方への。」



「責任を取るためでしょうか。」



     ◇



「それだけなら。」



「辞めません。」



     ◇



 記者達の。



 ペンが。



 止まった。



     ◇



「……どういう意味でしょう。」



「辞めたからといって。」



「一人が戻ってくるわけじゃない。」



     ◇



「俺が。」



「責任を取ったことにも。」



「ならない。」



     ◇



「では。」



「なぜ今?」



     ◇



「元々。」



「今年いっぱいで。」



「辞める予定でした。」



     ◇



「半年ほど。」



「早くなっただけです。」



     ◇



「その半年を。」



「なぜ?」



     ◇



 グレイが。



 背もたれへ。



 身体を預ける。



     ◇



「今なら。」



     ◇



「俺が辞めることに。」



「価値があるからです。」



     ◇



 敗走から。



 三日。



     ◇



 《アイアン・ホーク》には。



 すでに。



 その影響が。



 出始めていた。



     ◇



 保険。



     ◇



「次回更新につきましては。」



「今回の潜航実績を含め。」



「再査定となります。」



     ◇



 ポーター。



     ◇



「十九層ですか。」



「……。」



「人は出せます。」



     ◇



「ただ。」



「危険手当については。」



「見直しをお願いします。」



     ◇



 スポンサー。



     ◇



「契約解除ではありません。」



     ◇



「ですが。」



「次回遠征への。」



「追加出資については。」



     ◇



「一旦。」



「保留とさせてください。」



     ◇



 一名の死亡。



     ◇



 十名の負傷。



     ◇



 それは。



 地上へ戻った瞬間。



 数字に変わる。



     ◇



 保険料。



     ◇



 危険手当。



     ◇



 資金。



     ◇



 採用。



     ◇



 そして。



     ◇



 信用。



     ◇



 敗走は。



 地上へ戻れば。



 終わるわけではない。



     ◇



 会社である以上。



 その後も。



 続いていく。



     ◇



「保険会社も。」



「商会も。」



「ポーターも。」



     ◇



「次を見る。」



     ◇



 グレイが。



 会場を。



 見渡す。



     ◇



「だったら。」



「新しい顔を。」



「見せた方がいい。」



     ◇



「今回の退任は。」



「経営判断でもある?」



     ◇



「ギルドマスターですから。」



     ◇



 この日。



 初めて。



     ◇



 グレイが。



 少しだけ。



 笑った。



     ◇



「最後まで。」



「それくらいは。」



「しますよ。」



     ◇



「後任について。」



「お聞かせください。」



     ◇



「決まっています。」



     ◇



「どなたでしょう。」



     ◇



「娘です。」



     ◇



 ざわ。



     ◇



 会場が。



 揺れた。



     ◇



「ご息女を?」



「はい。」



     ◇



「おいくつですか?」



「二十七。」



     ◇



 今度は。



 はっきりと。



 声が上がった。



     ◇



「二十七歳?」



「はい。」



     ◇



「九十六名を抱える。」



「老舗ギルドの長として。」



「若すぎるとの声も。」



「出るのでは?」



     ◇



「でしょうね。」



     ◇



 グレイは。



 否定しなかった。



     ◇



「今回の件を受けて。」



「急遽決めた人事ですか?」



「違います。」



     ◇



「元々。」



「年末に。」



「継がせる予定でした。」



     ◇



「つまり。」



「半年早まっただけ?」



「はい。」



     ◇



「それでも。」



「二十七歳です。」



     ◇



「年齢で。」



「決めてませんから。」



     ◇



 午前十時三十六分。



     ◇



 一人の女性が。



 壇上へ。



 上がった。



     ◇



 リディア・ハワード。



     ◇



 二十七歳。



     ◇



 《アイアン・ホーク》。



 副ギルドマスター。



     ◇



 そして。



     ◇



 今日から。



     ◇



 三代目。



 ギルドマスター。



     ◇



「リディア・ハワードです。」



     ◇



 声は。



 少し。



 硬かった。



     ◇



「本日より。」



「《アイアン・ホーク》の。」



「ギルドマスターを務めます。」



     ◇



「よろしくお願いいたします。」



     ◇



 頭を下げる。



     ◇



 フラッシュ。



     ◇



 フラッシュ。



     ◇



 フラッシュ。



     ◇



「質問よろしいでしょうか。」



「はい。」



     ◇



「二十七歳で。」



「九十六名の社員を。」



「率いることになります。」



     ◇



「不安は?」



     ◇



「あります。」



     ◇



 即答。



     ◇



「九十六人の。」



「生活と。」



     ◇



「潜航者の。」



「命に。」



     ◇



「関わる仕事です。」



     ◇



「不安がない方が。」



「私は。」



「怖いです。」



     ◇



「第十九層について。」



     ◇



「再挑戦する予定は?」



     ◇



「今は。」



「答えません。」



     ◇



「撤退も。」



「選択肢に?」



     ◇



「それも。」



「今は答えません。」



     ◇



「なぜでしょう。」



     ◇



 リディアが。



 少し。



 考える。



     ◇



「私は。」



「三日前。」



     ◇



「十九層に。」



「いました。」



     ◇



 会場が。



 静かになった。



     ◇



「では。」



「現場をご存じなのでは?」



「はい。」



     ◇



「何が起きたのかも?」



「知っています。」



     ◇



「それでも。」



「判断できない?」



     ◇



「違います。」



     ◇



 リディアが。



 記者を見る。



     ◇



「私が見た。」



「十九層と。」



     ◇



「他の三十四人が見た。」



「十九層が。」



     ◇



「同じとは。」



「限りません。」



     ◇



「全員の記録を。」



「確認します。」



     ◇



「それから。」



     ◇



「ギルドマスターとして。」



「判断します。」



     ◇



 後ろで。



 グレイが。



 娘を見る。



     ◇



 何も。



 言わない。



     ◇



 午前十一時十二分。



     ◇



 会見。



 終了。



     ◇



 我々は。



 そのまま。



 《アイアン・ホーク》の。



 本部へ向かった。



     ◇



「第六隊。」



「帰還予定、十五時。」



「了解。」



     ◇



「第三倉庫。」



「治療薬、二十追加。」



「在庫は?」



「問題ありません。」



     ◇



「ポーター第二班。」



「明日の五層便へ。」



「はい。」



     ◇



 人が。



 動いている。



     ◇



 次々と。



 仕事が。



 流れていく。



     ◇



 新しい。



 ギルドマスターは。



     ◇



 まだ。



 一つも。



 指示を出していない。



     ◇



 それでも。



     ◇



 会社は。



 動いている。



     ◇



 創業。



 四十一年。



     ◇



 医務室。



     ◇



 治療師。



 四名。



     ◇



 装備工房。



     ◇



 鍛冶師。



 六名。



     ◇



 倉庫。



     ◇



 剣。



     ◇



 盾。



     ◇



 防具。



     ◇



 ロープ。



     ◇



 治療薬。



     ◇



 保存食。



     ◇



 緊急石。



     ◇



 そして。



     ◇



「お疲れさまです。」



「お疲れ。」



     ◇



 大きな荷を。



 背負った男達が。



 通り過ぎる。



     ◇



 ――彼らは?



「ポーターです。」



     ◇



 ――自社の?



「はい。」



     ◇



 前日。



     ◇



 《リレントレス・ウルフ》では。



 新人事務員のエマが。



     ◇



 外部ポーターを。



 探していた。



     ◇



 七社。



     ◇



 確保。



 ゼロ。



     ◇



 ここでは。



     ◇



 彼らが。



 社員として。



 廊下を歩いている。



     ◇



 四十一年。



     ◇



 その差は。



 設備だけではない。



     ◇



「こちらです。」



     ◇



 扉が。



 開く。



     ◇



「……。」



     ◇



 棚。



     ◇



 棚。



     ◇



 棚。



     ◇



 部屋の奥まで。



 紙束が。



 並ぶ。



     ◇



 ――これは?



「潜航記録です。」



     ◇



 ――全部?



「はい。」



     ◇



 ――いつから?



「創業から。」



     ◇



 魔物。



     ◇



 地形。



     ◇



 気候。



     ◇



 水場。



     ◇



 採取物。



     ◇



 負傷。



     ◇



 死亡。



     ◇



 撤退。



     ◇



 成功。



     ◇



 失敗。



     ◇



 四十一年間。



     ◇



 何百人もの。



 潜航者が。



     ◇



 地下から。



 持ち帰った。



     ◇



 経験。



     ◇



 午後一時十五分。



     ◇



 我々は。



 《リレントレス・ウルフ》。



 ギルドマスター。



     ◇



 ダリル・ウルフにも。



 話を聞いた。



     ◇



 ――《アイアン・ホーク》を。



 ――どう見ていますか?



「強いですよ。」



     ◇



 ――設備?



「それも。」



     ◇



 ――人数?



「それも。」



     ◇



 ――一番の違いは?



     ◇



「……。」



     ◇



 ダリルが。



 少し。



 考える。



     ◇



「失敗の数。」



     ◇



 ――失敗?



「俺達が。」



「これからする失敗を。」



     ◇



「あそこは。」



「もう誰かがしてる。」



     ◇



 再び。



 資料室。



     ◇



 四十一年分の。



 記録。



     ◇



 金を出しても。



 買えない。



     ◇



 時間。



     ◇



 その中に。



     ◇



 新しい記録が。



 一冊。



 加わった。



     ◇



 六月二十日。



     ◇



 第十九層。



     ◇



 死亡。



 一名。



     ◇



 午後二時四十三分。



     ◇



 廊下。



     ◇



「ご就任。」



「おめでとうございます。」



「ありがとう。」



     ◇



「よろしくお願いします。」



「こちらこそ。」



     ◇



 若い潜航者達が。



 リディアへ。



 声を掛ける。



     ◇



 その先。



     ◇



 古参の。



 潜航者が。



 二人。



     ◇



「……二十七か。」



「やめろ。」



「聞こえるぞ。」



     ◇



「聞こえるように。」



「言ったんだ。」



     ◇



 リディアの。



 足が。



 一瞬。



 止まった。



     ◇



 振り返らない。



     ◇



「お疲れさまです。」



     ◇



 二人へ。



 頭を下げる。



     ◇



「……。」



     ◇



「……お疲れさまです。」



     ◇



 返事は。



 返ってきた。



     ◇



 それだけだった。



     ◇



 四十一年。



     ◇



 積み重ねた時間は。



 会社を。



 強くする。



     ◇



 そして。



     ◇



 四十一年あれば。



     ◇



 人も。



 変わる。



     ◇



 午後六時十二分。



     ◇



 旧。



 ギルドマスター室。



     ◇



 机の上。



     ◇



 小さな箱。



     ◇



 グレイが。



 本を。



 詰めている。



     ◇



「……本当に。」



「今日から?」



「今日から。」



     ◇



「引き継ぎは?」



「年末までの分。」



「もう終わってる。」



「そうじゃなくて。」



「何だ。」



     ◇



 リディアが。



 腕を組む。



     ◇



「九十六人。」



「いるんだけど。」



「知ってる。」



     ◇



「私。」



「二十七なんだけど。」



「それも知ってる。」



     ◇



「……。」



     ◇



「本当に。」



「最悪。」



「知ってる。」



     ◇



 最後の本が。



 箱へ入る。



     ◇



「じゃあ。」



「帰る。」



「待って。」



     ◇



「何だ。」



「明日は?」



「来ない。」



     ◇



「……明後日は?」



「来ない。」



     ◇



「来週は?」



「しつこい。」



     ◇



「いや。」



「普通。」



「もう少しあるでしょ。」



     ◇



「ない。」



     ◇



 グレイが。



 箱を持つ。



     ◇



「ギルドマスターだろ。」



     ◇



「今日から。」



「お前が。」



     ◇



 扉へ。



 向かう。



     ◇



「……お父さん。」



     ◇



 グレイが。



 止まった。



     ◇



 今日。



     ◇



 初めて。



 そう呼んだ。



     ◇



「何だ。」



     ◇



「あの時。」



     ◇



「撤退したこと。」



     ◇



「今でも。」



「正しかったと思ってる?」



     ◇



「思ってる。」



     ◇



 迷いは。



 なかった。



     ◇



「……私も。」



     ◇



 リディアが。



 机を見る。



     ◇



 六月二十日。



     ◇



 第十九層。



     ◇



 潜航記録。



     ◇



「それでも。」



     ◇



「一人。」



「死んだ。」



     ◇



「……。」



     ◇



「そうだ。」



     ◇



 それだけだった。



     ◇



 正しい判断だった。



     ◇



 父も。



     ◇



 娘も。



     ◇



 そう考えている。



     ◇



 それでも。



     ◇



 一人。



 帰らなかった。



     ◇



 ――第十九層で。



     ◇



 ――何があったのでしょうか。



     ◇



 六月二十日。



     ◇



 午前五時四十分。



     ◇



 三日前。



     ◇



 《アイアン・ホーク》。



 本部前。



     ◇



「十九層。」



「最終確認するぞ。」



     ◇



 グレイ・ハワード。



 六十三歳。



     ◇



 その隣。



     ◇



 リディア・ハワード。



 二十七歳。



     ◇



 まだ。



 副ギルドマスター。



     ◇



 潜航者。



 二十四名。



     ◇



 ポーター。



 八名。



     ◇



 医療職。



 三名。



     ◇



 総勢。



 三十五名。



     ◇



「装備。」



「問題ありません。」



     ◇



「緊急石。」



「確認済み。」



     ◇



「食料。」



「予備含め問題なし。」



     ◇



「天候。」



「安定しています。」



     ◇



「全員。」



「いるな?」



「はい。」



     ◇



 装備。



 問題なし。



     ◇



 人員。



 問題なし。



     ◇



 天候。



 問題なし。



     ◇



 計画。



 予定通り。



     ◇



 グレイが。



 全員を見る。



     ◇



「出発する。」



     ◇



 三十五人が。



 地下へ。



 向かう。



     ◇



 目的地。



     ◇



 第十九層。



     ◇



 この時点では。



     ◇



 まだ。



     ◇



 何一つ。



     ◇



 問題は。



     ◇



 なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。