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リアルディープダンジョン―ある新興ギルドの一年―  作者: 大福


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4/24

第4話 持ち帰る


 ガサ。



     ◇



 ガサガサ。



     ◇



 第五層。



 迷宮。



 ランタンの光が。



 ゆっくり。



 暗闇へ向けられる。



 光の端。



 何かが。



 動いた。



     ◇



 ガサ。



 ガサガサ。



     ◇



 硬い脚。



 鈍く光る甲殻。



 大きな鋏。



「……岩殻蟹。」



 前衛の一人が。



 小さく呟いた。



     ◇



 岩殻蟹。



 第五層から。



 第七層付近に生息する。



 中型魔物。



     ◇



 硬い甲殻。



 強靱な鋏。



 その一撃は。



 人の骨を。



 容易に砕く。



     ◇



 危険度は。



 決して。



 低くない。



     ◇



 しかし。



 潜航者達が。



 この魔物を見つけた時。



 考えるのは。



 危険だけではない。



     ◇



 甲殻。



 鋏。



 魔石。



 そして。



 食用部位。



     ◇



 岩殻蟹は。



 よく売れる。



     ◇



「三体。」



「奥は?」



「見えません。」



「……。」



 パウエルが。



 暗闇を見る。



 時計。



 ランタン。



 後方。



 退路。



 一つずつ。



 確認する。



「どうします?」



「……。」



 数秒。



「やる。」



 新人達が。



 顔を上げる。



「三体までだ。」



「四体目が見えたら。」


「即撤退。」



「奥へ逃げたら追わない。」



「新人は前に出るな。」



「照明係。」



「戦闘には参加するな。」



「はい。」



「退路を空けろ。」



「はい!」



     ◇



 ――戦うんですか?



「戦えますから。」



 パウエルが。



 岩殻蟹を見る。



 ――照明に問題があります。



「だから。」



「ここで終わらせます。」



「追わない。」



「増えたら帰る。」



 少しだけ。



 笑った。



「それに。」



「結構。」


「高いんですよ。」



     ◇



 前日。



 ランタン油の。



 四割を失った。



     ◇



 それでも。



 パウエルは。



 第五層へ入ることを。



 選んだ。



     ◇



 帰還用の油を。



 別に確保。



     ◇



 進入時間。



 半分。



     ◇



 進入距離。



 半分。



     ◇



 そして。



 想定外が。



 もう一つ起きれば。



 即撤退。



     ◇



 その条件は。



 岩殻蟹を前にしても。



 変わらなかった。



     ◇



「来るぞ!」



 ガサガサガサッ!



 一体。



 岩殻蟹が。



 通路を走る。



「前!」



 盾。



 巨大な鋏が。



 振り下ろされる。



 ガンッ!



「っ!」



 盾役の身体が。



 後ろへ滑る。



 石床。



 靴底が。



 擦れる。



「右!」



 二本目の鋏。



 前衛が。



 身体を沈める。



 頭上。



 鋏が。



 石壁へ。



 叩きつけられた。



 バギンッ!



 石片が。



 飛ぶ。



「ノア!」



「はい!」



 ノアが。



 踏み込む。



 剣。



 振り下ろす。



 ガギンッ!



「硬っ!」



 刃が。



 弾かれた。



「甲羅狙うな!」



「先に言ってくださいよ!」



「見りゃ分かるだろ!」



 岩殻蟹が。



 身体を振る。



「下がれ!」



 ノアが。



 飛び退く。



 その横。



 青白い光。



「セリア!」



「はい!」



 魔法陣。



 冷気が。



 石床を走る。



 だが。



 岩殻蟹の。



 身体全体には。



 向かわない。



 脚。



 一本。



 そして。



 もう一本。



 関節だけを。



 氷が包む。



 動きが。



 止まった。



「今!」



 前衛が。



 懐へ。



 入る。



 剣先。



 甲殻と。



 腹部の隙間。



 一閃。



 岩殻蟹が。



 大きく。



 身体を揺らす。



 ガサ。



 ガサガサ。



 脚が。



 石床を掻く。



 そして。



 止まった。



「一体!」



「次来る!」



     ◇



 我々が。



 これまで同行した。



 潜航の中で。



 魔物との戦闘は。



 何度も見てきた。



     ◇



 倒す。



     ◇



 それだけなら。



 話は。



 比較的単純だ。



     ◇



 だが。



 彼らは。



 仕事として。



 魔物を倒す。



     ◇



 できるだけ。



 傷つけずに。



     ◇



 二体目。



 前衛が。



 鋏を受ける。



「左脚!」



「見えてます!」



 セリア。



 再び。



 冷気。



 脚を止める。



「ノア!」



「はい!」



 今度は。



 甲殻を狙わない。



 側面。



 脚の付け根。



「ここ!」



 剣を。



 突き込む。



 岩殻蟹が。



 暴れる。



「離れろ!」



 ノアが。



 剣を抜く。



 その瞬間。



「甲羅!」



 ミアの声。



「傷つけないでください!」



「え!?」



「右側!」



「今!?」



「そこ高いんです!」



「戦ってるんだけど!?」



「来るぞ!」



 巨大な鋏。



 ノアが。



 身体を捻る。



 紙一重。



 かわす。



 剣。



 振る。



 ガリッ。



 刃先が。



 甲殻を。



 僅かに擦った。



「あっ!」



 ミア。



「今。」


「傷つけました!」



「知らないよ!」



「査定落ちます!」



「倒してから言って!」



     ◇



 三体目。



 前衛二人が。



 左右へ。



 分かれる。



 岩殻蟹の鋏が。



 一人を追う。



「セリア!」



「はい!」



 青白い光。



 だが。



 今度は。



 岩殻蟹が。



 脚を持ち上げる。



 氷が。



 外れた。



「動きます!」



「分かってる!」



 鋏。



 横薙ぎ。



「下がれ!」



 盾役が。



 受ける。



 ガンッ!



 身体が。



 壁際まで。



 押し込まれる。



「ノア!」



「はい!」



「右へ回れ!」



 ノアが。



 走る。



 岩殻蟹が。



 向きを変える。



 その瞬間。



「今!」



 前衛。



 剣。



 甲殻の隙間へ。



 深く。



 突き入れる。



 岩殻蟹が。



 暴れる。



 鋏が。



 石床を。



 何度も叩く。



 ガンッ!



 ガンッ!



 そして。



 ゆっくり。



 動きを止めた。



     ◇



「……終わった?」



 レオンが。



 ランタンの後ろから。



 顔を出す。



「まだ動くな。」



 前衛が。



 三体を。



 一体ずつ。



 剣先で確認する。



 そして。



 暗闇を見る。



「追加なし。」



 パウエルが。



 時計を見る。



「よし。」



「ここで終わり。」



「予定通り。」


「戻るぞ。」



     ◇



 午前八時二分。



     ◇



 岩殻蟹。



 三体。



 討伐。



     ◇



 戦闘時間。



 七分。



     ◇



「やった……。」



 ノアが。



 壁へ。



 背中を預ける。



「ノア。」



「はい?」



 ミアが。



 しゃがんでいる。



「ここ。」



 甲殻。



 一本の。



 白い傷。



「……何?」



「ノアがつけた傷です。」



「……。」



「査定。」


「落ちます。」



「俺。」


「倒したんだけど。」



「はい。」



「倒したんだけど?」



「傷つけました。」



「……。」



 ノアが。



 カメラを見る。



     ◇



 ダンジョンで。



 魔物を倒す。



     ◇



 だが。



 それだけでは。



 会社の利益には。



 ならない。



     ◇



「こっちは綺麗。」



「鋏も大丈夫です。」



「魔石は?」



「解体してみないと。」



 レオンが。



 近づく。



「これ。」



「高いんですか?」



 採取班の先輩が。



 甲殻を叩く。



「高い。」



「三体で?」



「状態が良ければ。」


「今回の潜航費。」


「かなり戻るぞ。」



「マジですか!」



 レオン。



 笑顔。



「やったじゃないですか!」



 新人達にも。



 笑顔が。



 広がる。



     ◇



『採取できる物資は。』



『なるべく。』



『持ち帰ってきてほしい。』



     ◇



 出発前。



 ダリルの言葉。



     ◇



「これなら。」


「社長も喜びますね。」



「ああ。」



 エドガーが。



 三体の岩殻蟹を見る。



「持って帰れたらな。」



「……。」



 レオンが。



 蟹を見る。



「え?」



     ◇



「解体します。」



 ミアが。



 道具を出す。



「待て。」



 採取班の先輩が。



 止める。



「ここじゃ無理だ。」



「……ですよね。」



 狭い。



 暗い。



 足場も悪い。



 ランタン油にも。



 余裕はない。



「甲殻を綺麗に外すなら。」


「広い場所が要る。」



「灯りも。」



 パウエル。



「第四層まで上げる。」



「……。」



 レオンが。



 三体を見る。



「これを?」



「これを。」



「丸ごと?」



「丸ごと。」



「三体?」



「三体。」



「……。」



 レオンが。



 エドガーを見る。



「これ。」


「運搬班の仕事ですか?」



「誰の仕事だと思ってた。」



     ◇



 午前八時十四分。



 運搬開始。



     ◇



 この時。



 我々も。



 まだ。



 分かっていなかった。



     ◇



 三体の岩殻蟹を。



 わずか。



 一階層。



 上へ運ぶ。



     ◇



 それだけの作業に。



 これから。



 二時間近くを。



 費やすことになる。



     ◇



「せーの!」



「っ……重っ!」



「上げろ!」



「上げてます!」



「脚!」



「何!?」



「引っ掛かってる!」



「どれ!?」



「右!」



「蟹の右!?」


「俺の右!?」



「蟹だ!」



「分かるか!」



「一回下ろせ!」



「はい!」



 ドン。



「優しく!」



 ミア。



「甲殻傷つきます!」



「これ以上どう優しく下ろすんだよ!」



     ◇



 岩殻蟹。



 一体目。



     ◇



 問題は。



 重さだけではない。



     ◇



 左右へ。



 広がる脚。



 巨大な鋏。



 偏った重心。



     ◇



 引きずれば。



 腹側が傷つく。



     ◇



 脚を折れば。



 値段が落ちる。



     ◇



 鋏を外すにも。



 暗すぎる。



     ◇



 つまり。



 なるべく。



 そのまま。



 運ばなければならない。



     ◇



「引きずりません?」



「駄目。」



「なんで?」



「腹側も売れるから。」



「……。」



「脚折りません?」



「駄目。」



「なんで?」



「売れるから。」



「鋏外しません?」



「ここで綺麗に外せる?」



「……。」



 レオンが。



 蟹を見る。



「売れるところ。」


「多すぎません?」



     ◇



 午前八時二十二分。



     ◇



 経過。



 八分。



     ◇



 進んだ距離。



 二十三メートル。



     ◇



「止まれ!」



「また!?」



     ◇



 ロープ。



 二本。



 運搬棒。



 一本。



 脚の間へ。



 通す。



「持て。」



「はい。」



「力だけで上げんな。」



「え?」



 エドガーが。



 ロープを。



 掛け直す。



「重心。」


「こっちだ。」



「前。」


「少し短く持て。」



「はい。」



「後ろ。」


「鋏側持つな。」


「振られるぞ。」



「はい。」



「上げるぞ。」



「せーの。」



 持ち上がる。



「……あれ?」



 レオンが。



 歩き出す。



「さっきより。」


「軽い。」



「軽くなってねえ。」



「持ち方だ。」



「最初から。」


「やってくださいよ。」



 エドガーが。



 レオンを見る。



「お前の訓練だろ。」



「……。」



 レオンが。



 ロープを握り直す。



「訓練って。」


「だいたい後から言いますよね。」



「覚えんだろ。」



「嫌でも。」



「……それは。」


「そうですけど。」



     ◇



 角。



「止まれ!」



「今度は何!?」



「左脚!」



「また!?」



 向きを。



 変える。



「鋏!」



「今度はそっち!?」



 戻す。



「甲羅擦ってる!」



「動けないじゃん!」



     ◇



 午前八時四十九分。



     ◇



 一体目。



 階段前。



     ◇



 上。



 第四層。



     ◇



 レオンが。



 階段を。



 見上げる。



「……これ。」



「上げるんですか?」



「そうだ。」



「この階段を?」



「他にあるなら教えろ。」



「……。」



「持て。」



     ◇



「せーの!」



 一段。



「待て!」



「何!?」



「鋏!」



「また!?」



「壁に当たってる!」



「向き変えろ!」



「この状態で!?」



「落とすなよ!」



「言われなくても!」



     ◇



 二段。



 三段。



     ◇



「止めて!」



 ミア。



「今度は何!?」



「甲殻擦ってます!」



「……。」



 レオンが。



 歯を食いしばる。



「もう。」



「ちょっとくらい。」


「傷ついてもよくないですか!?」



「よくありません!」



「即答!?」



     ◇



 午前九時六分。



     ◇



 岩殻蟹。



 一体目。



 第四層。



     ◇



 所要時間。



 五十二分。



     ◇



 残り。



 二体。



     ◇



 ドン。



「優しく!」



「もう置いた後に言わないで!」



 レオンが。



 その場へ。



 座り込む。



「……終わった。」



「一体な。」



「……。」



 レオンが。



 ゆっくり。



 第五層へ続く階段を見る。



「あと。」



「二体?」



「二体。」



「……。」



     ◇



 二体目。



     ◇



 一体目より。



 早い。



     ◇



 ロープの位置。



 持ち手。



 曲がり角。



 階段。



     ◇



 少しずつ。



 新人達も。



 運び方を。



 覚えていく。



     ◇



 それでも。



 重いものは。



 重い。



     ◇



「休憩……。」



「まだだ。」



「腕。」


「取れます。」



「取れたら。」


「置いてけ。」



「ほんとに置いていきますからね。」



「好きにしろ。」



「……絶対。」


「俺が置いていかないって分かってる。」



     ◇



 午前九時三十六分。



 二体目。



 第四層。



     ◇



 レオンが。



 床へ。



 寝転がる。



「もう。」


「無理。」



「三体目。」



「置いていきません?」



「いくらすると思ってる。」



「じゃあ。」


「エドガーさん。」


「もっと持ってくださいよ。」



「持ってるだろ。」



「俺より。」


「元気じゃないですか。」



「お前の訓練だ。」



「……絶対。」


「それ言えば済むと思ってますよね。」



     ◇



 午前九時四十二分。



 三体目。



 運搬開始。



     ◇



「……。」



 誰も。



 喋らない。



     ◇



 ガサ。



 死んだ岩殻蟹の脚が。



 石床へ。



 触れる。



「止まれ。」



「……何ですか。」



「灯り。」



 前方。



 第四層側から。



 別の光。



     ◇



「おーい。」



 声。



 帰還途中の。



 別ギルド。



「リレントレスか?」



「そうだ。」



「何やってんだ?」



 エドガーが。



 岩殻蟹を見る。



「見りゃ分かるだろ。」



「……。」



 相手の男が。



 笑う。



「三体?」



「三体。」



「馬鹿だなあ。」



「うるせえ。」



     ◇



 ここで。



 我々には。



 見慣れた光景が。



 始まった。



     ◇



 地下取引。



     ◇



 ダンジョンでは。



 素材を手に入れた者と。



 それを地上へ。



 持ち帰る者が。



 同じとは限らない。



     ◇



 鉱石。



 薬草。



 魔物素材。



     ◇



 我々も。



 これまで。



 何度も。



 地下で売買されるのを。



 見てきた。



     ◇



 相手の隊。



 荷は。



 多くない。



     ◇



 パウエルが。



 その背負子を見る。



「積載。」



「空いてるか?」



「……何だ。」



「一体。」


「買わないか。」



「え?」



 レオンが。



 顔を上げる。



     ◇



「未解体?」



「未解体。」



「甲殻。」



「ほぼ無傷。」



「六割。」



「安すぎる。」



「じゃあ。」


「自分で運べ。」



「七割五分。」



「七。」



「七割三分。」



「細けえな。」



「こっちも会社なんで。」



「……七割三分。」



「買った。」



 握手。



     ◇



 レオンが。



 パウエルへ。



 近づく。



「売るんですか?」



「売る。」



「地上なら。」


「もっと高いですよね?」



「高い。」



「じゃあ。」


「損じゃないですか。」



「お前が持つか?」



「売りましょう。」



「お前が決めるな。」



     ◇



 地上で売るより。



 安い。



     ◇



 それでも。



 ここで売れば。



 重量は。



 その場で消える。



     ◇



 一方。



 買った側は。



 空いていた積載を。



 利益に変えられる。



     ◇



 ダンジョンでは。



 空いた背負子にも。



 値段がある。



     ◇



 午前十時十三分。



 第四層。



     ◇



「解体します。」



 ミアが。



 道具を並べる。



「そこ。」


「押さえてください。」



「はい。」



「脚から外します。」



「これ?」



「違う。」



「そっち。」



「はい。」



 刃。



 関節。



 甲殻。



 迷いなく。



 進んでいく。



     ◇



 六日前。



     ◇



 ゴブリンを前に。



 吐いた。



 ミア。



 十八歳。



     ◇



 今日。



     ◇



 岩殻蟹を。



 誰よりも。



 手際よく。



 解体している。



     ◇



 ――今日は平気なんですね。



「はい。」



 ――何が違うんです?



「蟹。」



 ミアが。



 甲殻を外す。



「美味しいんですよ。」



 ――食べたことあるんですか?



「あります。」



「高いですけど。」



 手は。



 止まらない。



     ◇



 甲殻。



 鋏。



 脚。



 魔石。



 食用部位。



     ◇



 売却できるもの。



 持ち帰るもの。



 置いていくもの。



     ◇



 選別されていく。



「これ。」



 レオンが。



 外された部位を見る。



「置いてくんですか?」



「持っても。」


「値段つかない。」



「でも。」


「使えるんですよね?」



「使える。」



「じゃあ――」



「全部持って帰れるなら。」


「苦労しない。」



「……。」



     ◇



 ダンジョンには。



 価値のあるものが。



 数多くある。



     ◇



 だが。



 人が。



 持てる重さには。



 限界がある。



     ◇



 何を。



 持ち帰るのか。



     ◇



 何を。



 置いていくのか。



     ◇



 それもまた。



 潜航者の。



 仕事だった。



     ◇



 レオンが。



 解体された。



 岩殻蟹を見る。



 さっきまで。



 数人がかりでも。



 まともに運べなかった。



 それが。



 いくつもの。



 荷物へ。



 分けられている。



「最初から。」


「こうすればよかったんじゃ……。」



「第五層でやったら。」


「甲殻の値段。」


「もっと落ちてた。」



「……。」



 レオンが。



 鋏を。



 持ち上げる。



「金って。」



「重いんですね。」



     ◇



 午後五時四十分。



 《リレントレス・ウルフ》本部。



     ◇



「おかえりなさい!」



 エマ。



「ただいま……。」



 レオンが。



 背負子を。



 下ろす。



 ドン。



「何それ。」



「成果。」



 疲れ切った顔。



 それでも。



 少し。



 得意そうだった。



     ◇



 査定。



     ◇



 薬草。



 鉱石。



 小型魔物素材。



 岩殻蟹。



 地下売却分。



     ◇



 そして。



 今回の潜航は。



 新人達が参加した。



 実地訓練として。



 初めて。



 黒字になった。



     ◇



「……黒字?」



 エマが。



 数字を見る。



「黒字ですね。」



 コウハ。



「ほんとに?」



「今回だけなら。」



「やった!」



     ◇



 岩殻蟹。



     ◇



 甲殻は。



 売られた。



     ◇



 鋏も。



 売られた。



     ◇



 魔石も。



 売られた。



     ◇



 そして。



 査定で。



 規格外となった。



 食用部位は。



     ◇



「でかっ!」



「それ俺の!」



「早い者勝ち!」



「待て待て!」



     ◇



 午後七時二十二分。



     ◇



 本部。



 食堂。



     ◇



 大鍋。



 岩殻蟹のスープ。



     ◇



 新人。



 古参。



 内勤。



     ◇



 同じ鍋を。



 囲んでいた。



「うまっ!」



「レオン。」


「それ三本目。」



「俺。」


「運びましたから。」



「お前だけじゃないだろ。」



「一番運びました。」



「俺が教えた。」



「エドガーさん。」


「食べてるじゃないですか。」



「俺も運んだからな。」



「じゃあ。」


「いいです。」



「何がだよ。」



     ◇



 ミアが。



 蟹の身を。



 口へ運ぶ。



「これです。」


「これ。」



 ――そんなに?



「美味しいんですよ。」



 ノアが。



 横を見る。



「それ。」


「俺が倒したやつじゃない?」



「多分。」



「甲羅の傷で。」


「査定落ちたやつ。」



「……。」



 ミアが。



 もう一口。



「美味しいですよ。」



「慰めになってない。」



     ◇



 笑い声。



     ◇



 二度目の。



 実地訓練。



     ◇



 失敗も。



 あった。



     ◇



 予定変更も。



 あった。



     ◇



 それでも。



 彼らは。



 自分達で。



 成果を。



 地上へ持ち帰った。



     ◇



 その様子を。



 少し離れた場所から。



 二人の男が。



 見ていた。



     ◇



 ダリル。



 コウハ。



     ◇



「楽しそうだな。」



「そうですね。」



「黒字だったって?」



「今回だけです。」



「分かってるよ。」



「前回の訓練費。」



「新人装備。」



「夏の遠征費。」



「考えれば。」


「まだ足りません。」



「分かってるって。」



     ◇



「これ俺達が運んだやつですよ!」



「何回言うんだよ!」



     ◇



 食堂から。



 また。



 笑い声。



     ◇



「……でも。」



 ダリルが。



 食堂を見る。



「悪くないだろ。」



「何がです?」



「会社。」



「……。」



 コウハも。



 食堂を見る。



     ◇



 新人達。



 古参。



 内勤。



     ◇



「今年は。」


「行ける。」



「去年も。」


「同じこと言ってましたよ。」



「今年は違う。」



「一昨年も。」


「同じこと言ってました。」



「……。」



 ダリルが。



 コウハを見る。



「お前。」



「今日くらい。」


「夢見させろよ。」



「経理ですので。」



「……。」



     ◇



 少し。



 間。



     ◇



「でも。」



 コウハ。



「ん?」



「去年よりは。」



「人がいます。」



 ダリルが。



 笑う。



「だろ?」



「人数だけです。」



「お前な。」



     ◇



 創業。



 三年目。



     ◇



 二度の。



 第十層挑戦。



     ◇



 二度の。



 撤退。



     ◇



 それでも。



 ダリルは。



 言う。



     ◇



『今年は違う。』



     ◇



 その言葉を。



 我々は。



 もう少し。



 追ってみることにした。

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