↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リアルディープダンジョン―ある新興ギルドの一年―  作者: 大福


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/21

第3話 灯り


『設営。』


『完璧でしたよ。』



     ◇



 前回の潜航。



 帰還直後。



 トビーは。



 我々のカメラに。



 そう答えた。



『何も起きなかったでしょ?』



 笑顔だった。



     ◇



 それから。



 六日後。



 午前四時五十八分。



 《リレントレス・ウルフ》本部。



「おはようございます。」



「おはよう。」



「眠っ……。」



「レオン。」


「記録票。」



「ありますよ。」



 胸元から。



 一枚の紙。



「ほら。」



 ――今回は忘れません?



「……。」



 レオンが。



 カメラを見る。



「それ。」


「いつまで言うんですか?」



     ◇



 二度目の。



 実地訓練。



 今回。



 新人達が目指すのは。



 第五層。



 第四層までとは。



 地形が大きく異なる。



 迷宮型階層。



 複数の分岐。



 狭い通路。



 そして。



 自然光のない。



 完全な暗闇。



 新人達にとって。



 初めての。



 本格的な地下潜航となる。



     ◇



 午前五時十二分。



 潜航前ミーティング。



 地図の前に。



 パウエルが立つ。



「第五層へ入る。」



「ただし。」


「目的は攻略じゃない。」



「迷宮内での。」


「隊列。」



「照明管理。」



「地図記録。」



「撤退行動。」



「これを覚えてもらう。」



 新人達が。



 頷く。



「前回と同じだ。」



「勝手に動くな。」



「異常は報告。」



「物資を使ったら記録。」



 パウエルが。



 レオンを見る。



「……。」



「なんで俺見るんですか。」



 小さな笑い。



「以上。」



「準備しろ。」



「はい!」



「待ってくれ。」



 声をかけたのは。



 ダリルだった。



 新人達が。



 振り返る。



「一つだけ。」



 ダリルが。



 地図を見る。



「今回。」



「採取できる物資は。」



「なるべく。」


「持ち帰ってきてほしい。」



「……。」



 パウエルが。



 ダリルを見る。



「薬草でも。」



「鉱石でも。」



「魔物素材でもいい。」



「訓練とはいえ。」


「一度の潜航だ。」



「持ち帰れるものを。」


「置いてくる必要はない。」



 一度。



 言葉を切る。



「もちろん。」



「そのために。」


「危険を増やす必要はない。」



「訓練と安全が。」


「最優先だ。」



「ただ。」



「採れる範囲で。」



「なるべく頼む。」



「以上だ。」



     ◇



 前回。



 潜航終了後。



 午後五時二十二分。



     ◇



『赤字ですね。』



『はい。』



     ◇



『削れるところは?』



『あります。』



『どこだ。』



『東部遠征です。』



     ◇



 そして。



 六日後。



『採取できる物資は。』



『なるべく。』



『持ち帰ってきてほしい。』



     ◇



 午前五時四十分。



 出発。



     ◇



 午前八時二十六分。



 第一層。



「あ。」



 ミアが。



 足を止める。



「止まっていいですか?」



「どうした。」



「あれ。」



 岩壁の脇。



 小さな葉。



 先輩採取員が。



 確認する。



「採っていい。」



「はい。」



 ミアが。



 しゃがむ。



 根を残し。



 必要な部分だけ。



 切り取る。



 袋へ。



 入れる。



 ――何ですか?



「薬草です。」



 ――前回もありました?



「ありました。」



 ――今日は自分で見つけた?



「はい。」



 少し。



 嬉しそうに笑う。



「これ。」


「売れますよね?」



「売れるぞ。」



「じゃあ。」



「採ります。」



     ◇



 前回。



 ゴブリンの解体で。



 吐いた。



 ミア。



 十八歳。



 二度目の潜航で。



 初めて。



 自分で。



 会社の売上を拾った。



     ◇



 午前十時十一分。



「止血布。」



「はい。」



 レオンが。



 一枚。



 取り出す。



「どうぞ。」



「助かる。」



 受け取った隊員が。



 歩き出す。



「ちょっと待ってください。」



 記録票。



 止血布。



 一枚。



 使用。



 記入。



「はい。」



 ――忘れませんね。



「だから。」



 レオンが。



 記録票をしまう。



「いつまで言うんですか。」



 後ろ。



 エドガーが。



 歩いている。



 何も。



 言わない。



     ◇



 午後零時三十七分。



 第三層。



「重くなってきた。」



 レオンが。



 背負子を直す。



 出発した時より。



 荷が増えている。



 薬草。



 鉱石。



 小型魔物の素材。



 まだ。



 大きな成果ではない。



 それでも。



 潜るほど。



 背負子は。



 少しずつ。



 重くなっていく。



 ――重そうですね。



「重いですよ。」



 レオンが。



 背負子を。



 背負い直す。



「でも。」



「今日は。」


「重くなる方がいいんですよね?」



「帰ってから言え。」



 エドガー。



「まだ。」


「会社の金じゃねえ。」



「え?」



「地上まで持って帰って。」



「初めて金になる。」



「……。」



 レオンが。



 背負子を見る。



「じゃあ。」


「絶対持って帰ります。」



「当たり前だ。」



     ◇



 午後四時四十七分。



 第四層。



「今日はここだ。」



 パウエルの指示で。



 隊が止まる。



 野営地点。



「トビー。」



「はい!」



「設営。」



「今日は。」


「お前が主でやれ。」



「……俺が?」



「研修やったんだろ。」



「はい。」



「前回もやった。」



「はい。」



「ならやれ。」



「はい!」



 トビーが。



 荷を下ろす。



 少し。



 嬉しそうだった。



     ◇



 午後四時五十二分。



 設営開始。



 天幕。



 杭。



 ロープ。



 寝床。



 物資置き場。



 そして。



 排水。



「そこ。」



「もう少し張れ。」



「はい。」



「杭、深く。」



「これくらいですか?」



「もうちょい。」



「はい。」



 先輩設営員が。



 トビーの作業を見る。



「水来たら。」


「こっちへ流せ。」



「はい。」



 地面へ。



 溝を掘る。



「こんな感じですか?」



「……。」



 先輩が。



 確認する。



「まあ。」


「いいだろ。」



「よし。」



     ◇



 我々は。



 その様子を。



 少し離れた場所から。



 撮影していた。



     ◇



 この番組が。



 ダンジョンへ入り始めて。



 十八年。



 これまで。



 大小。



 三十を超える潜航ギルドに。



 同行してきた。



 様々な階層で。



 様々な野営を。



 見てきた。



     ◇



 カメラが。



 地面を映す。



 浅い。



 排水溝。



 その先。



 物資。



 さらに。



 地面に近い場所へ置かれた。



 ランタン油。



     ◇



 我々は。



 設営について。



 何も言わない。



 判断するのは。



 潜航する。



 彼ら自身だからだ。



     ◇



 午後五時二十一分。



「できました!」



 トビーが。



 完成した野営地を見る。



 ――今回は?



「今回も。」



 胸を張る。



「完璧です。」



     ◇



 午後七時十四分。



 夕食。



「うまっ。」



「レオン、それ俺の。」



「え?」



「肉。」



「名前書いてました?」



「返せ。」



「もう食いました。」



「お前な……。」



 笑い声。



 初めての潜航では。



 ほとんど見られなかった。



 新人達の笑顔。



 二度目。



 少しずつ。



 地下で過ごすことにも。



 慣れ始めていた。



     ◇



 午後九時三十六分。



 消灯。



     ◇



 午後十一時四十八分。



 ぽつ。



     ◇



 ぽつ。



     ◇



 水滴が。



 天幕を叩く。



     ◇



 午前零時十九分。



 雨。



     ◇



 午前零時四十七分。



 雨脚が。



 強くなった。



     ◇



 午前一時十二分。



「……おい。」



「起きろ。」



「水だ。」



「……え?」



 レオンが。



 身体を起こす。



 足元。



 冷たい。



「うわっ!」



「荷上げろ!」



「起きろ!」



「全員起きろ!」



 一瞬で。



 野営地が。



 動き始めた。



「排水!」



「詰まってます!」



「掘り直せ!」



「こっち流せ!」



「トビー!」



「はい!」



「外!」



「はい!」



 雨。



 暗闇。



 ランタンの光。



 トビーが。



 泥の中へ。



 膝をつく。



 排水溝へ。



 手を入れる。



「流れない!」



「深くしろ!」



「はい!」



 水が。



 天幕の中へ。



 入り始める。



「物資上げろ!」



 レオンが。



 立ち上がった。



 治療薬。



 触媒。



 予備装備。



 順番に。



 高い場所へ。



「そっち先!」



「分かってます!」



 背負子を。



 持ち上げる。



 エドガーが。



 その横を通る。



 レオンを見る。



 何も。



 言わない。



「油!」



 声。



 トビーが。



 振り返る。



「やばっ。」



 水が。



 物資置き場へ。



 回っていた。



「上げろ!」



「はい!」



 一つ。



 持ち上げる。



 二つ。



 持ち上げる。



 三つ目。



「っ……!」



 足が。



 泥へ滑る。



 油の容器が。



 倒れる。



「トビー!」



「大丈夫です!」



 起こす。



 だが。



 蓋の周囲。



 水。



「……。」



「後だ!」



「今は上げろ!」



「はい!」



     ◇



 午前二時三十四分。



 雨脚が。



 弱まり始めた。



     ◇



 午前三時十二分。



 雨。



 止む。



     ◇



 午前五時五十七分。



 被害確認。



「食料。」



「問題なし。」



「治療薬。」



「問題ありません。」



「触媒。」



「大丈夫です。」



「寝具。」



「一部濡れてます。」



「予備装備。」



「問題なし。」



「ランタン油。」



「……。」



 トビーが。



 黙った。



「どうした。」



 先輩設営員。



「これ。」



 容器を。



 見せる。



 油。



 その下。



 透明な層。



「水。」



「……はい。」



「他は。」



 一つ。



 二つ。



 三つ。



「……こっちもです。」



「使えるのと。」


「分けろ。」



「はい。」



「すみません。」



「謝るのは後。」



「今は数だ。」



「……はい。」



     ◇



 午前六時二十一分。



 使用可能な。



 ランタン油。



 予定量の。



 六割。



     ◇



「……。」



 パウエルが。



 残量を見る。



「松明は。」



「十二です。」



「帰還用込みか。」



「はい。」



「……。」



 レオンが。



 手を上げる。



「松明じゃ。」


「駄目なんですか?」



「点けてみろ。」



「はい。」



 火。



 松明へ。



 炎が。



 立ち上がる。



「明るいじゃないですか。」



「ランタン。」



 隣で。



 ランタンを点ける。



「……。」



 レオンが。



 見比べる。



 松明。



 揺れる炎。



 煙。



 狭い。



 照らせる範囲。



 片手も。



 塞がる。



 対して。



 ランタン。



 安定した光。



 広い視界。



「……違いますね。」



「これでも。」


「松明としては明るい方だ。」



「第五層で使えます?」



「使える。」



「じゃあ――」



「使えるのと。」


「向いてるのは別だ。」



「……。」



「迷宮で。」


「灯り失ったら終わりだ。」



     ◇



 午前七時十三分。



 第五層入口。



 階段が。



 下へ。



 続いている。



 その先。



 暗闇。



 ランタンを。



 掲げる。



 石壁。



 分岐。



 その先は。



 見えない。



     ◇



 第五層。



 迷宮型階層。



 ここから。



 潜航の形は。



 変わる。



 一本道ではない。



 遠くまで。



 見渡すこともできない。



 右。



 左。



 さらに。



 その先。



 いくつもの分岐。



 道を失えば。



 帰れない。



 そして。



 灯りを失えば。



 道を探すことすら。



 できない。



     ◇



 ――帰還しますか?



 パウエルは。



 答えなかった。



 階段の下。



 暗闇を見る。



 残った油。



 松明。



 時計。



 地図。



 一つずつ。



 確認する。



     ◇



 ――潜るんですか?



「……。」



 パウエルが。



 少し考える。



「もう少し。」



「持ち帰る成果が。」


「欲しいですね……。」



 ――会社のために?



「まあ。」



 小さく。



 笑う。



「うちも。」


「余裕がある会社じゃないんで。」



 そして。



 第五層を見る。



「もちろん。」



「安全第一ですけど。」



     ◇



「第五層へ入る。」



 新人達が。



 顔を上げる。



「ただし。」



「予定を変える。」



「帰還用の油は。」


「ここで分ける。」



「絶対に使うな。」



「はい。」



「進入時間。」


「予定の半分。」



「進入距離も。」


「半分。」



「松明は。」


「非常時以外使わない。」



「油が規定量を切ったら。」


「その時点で撤退。」



「予定外が。」


「もう一つ起きても撤退。」



「いいな。」



「はい!」



「行けるところまで行って。」


「帰る。」



「それも。」


「潜航だ。」



     ◇



 午前七時二十八分。



 第五層。



 進入。



     ◇



 階段を。



 下りる。



 一段。



 また。



 一段。



 第四層の光が。



 遠ざかる。



 最後の一人が。



 第五層へ。



 降りた。



     ◇



 暗い。



     ◇



 ランタンの光。



 それだけ。



     ◇



「右。」


「分岐。」



「記録。」



「はい。」



「標識。」



「設置しました。」



「確認。」



「確認。」



     ◇



 誰も。



 余計な話をしなくなった。



 聞こえるのは。



 靴音。



 装備が。



 擦れる音。



 呼吸。



 そして。



 ランタンの。



 小さな燃焼音。



     ◇



 午前七時五十一分。



「止まれ。」



 パウエル。



 全員が。



 止まる。



「ここまで。」



「引き返す。」



「はい。」



 地図担当が。



 現在位置を。



 記録する。



 パウエルが。



 時計を見る。



「予定通りだ。」



「戻るぞ。」



     ◇



 その時だった。



     ◇



 ガサ。



     ◇



「……。」



     ◇



 ガサガサ。



     ◇



 全員が。



 止まった。



 暗闇。



 ランタンの光が。



 届かない。



 その先。



     ◇



 ガサ。



     ◇



 ガサガサ。



     ◇



「……何ですか?」



 レオンが。



 小さな声で聞く。



「喋るな。」



 パウエルが。



 手を上げる。



 前衛達が。



 武器へ。



 手をかける。



     ◇



 ガサガサ。



     ◇



 近い。



     ◇



 パウエルが。



 暗闇を。



 見つめる。



「動くな。」



 ランタンが。



 ゆっくり。



 暗闇へ。



 向けられた。



     ◇



 光の。



 すぐ外。



 何かが。



 動いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。