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リアルディープダンジョン―ある新興ギルドの一年―  作者: 大福


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20/21

第20話 精鋭

 七月二十二日。


 午前五時四十一分。


 《リレントレス・ウルフ》本部。


 共同討伐当日。


 日の出から。


 まだ間もない。


 だが。


 倉庫前には。


 すでに荷物が並んでいた。


「油、六箱!」


「確認!」


「医療箱は?」


「二番洞ラバ!」


「水、こっちじゃない!」


「それ三番!」


「誰だ、ここに置いたの!」


 人が動く。


 箱が動く。


 洞ラバが鳴く。


 その間を。


 レオンが走っていた。


「エドガーさん!」


「何だ!」


「予備灯、これで全部ですか!?」


「札見ろ!」


「……あ」


「書いてあるだろ!」


「すみません!」


「謝る前に運べ!」


「はい!」


     ◇


 共同討伐。


 推定。


 百五十から二百。


 第十階層東部に形成された。


 ゴブリンの大規模生息域。


 その排除と。


 魔晶樹までの。


 輸送路確保。


 それが。


 この日の目的である。


     ◇


 午前五時五十八分。


 《女神の加護》から。


 最初の部隊が到着した。


 ポーター。


 三ユニット。


 続いて。


 環境整備員。


 五ユニット。


 ロープ。


 鋸。


 斧。


 杭。


 防護布。


 消毒薬。


 荷車。


 彼らの仕事は。


 ゴブリンを倒すことではない。


 倒した後。


 巣を撤去し。


 死骸を処理し。


 危険物を取り除き。


 再び。


 人と荷物が通れる場所へ戻す。


 戦闘が終わっても。


 仕事は。


 終わらない。


     ◇


 そして。


 午前六時七分。


 六人が到着した。


「……」


 レオンが見る。


 六人。


 それだけだった。


 派手な鎧はない。


 巨大な武器もない。


 昨日見た英雄のような。


 目を引く大盾もない。


「あの人達ですか?」


「何が」


 荷物を確認しながら。


 エドガーが答える。


「精鋭」


「ああ」


「……普通ですね」


「聞こえるぞ」


「え」


 六人の一人が。


 こちらを見た。


「すみません!」


「レオン」


「はい」


「仕事」


「はい」


     ◇


 《女神の加護》。


 精鋭戦闘ユニット。


 六名。


 二十階層以深での潜航を。


 何度も。


 共にしてきた。


 前衛。


 盾。


 魔術。


 斥候。


 治療。


 それぞれ。


 役割は違う。


 だが。


 六人で。


 一つの部隊として動く。


「灯り」


「確認済み」


「予備」


「二」


「水」


「予備込み」


「医療」


「俺」


「帰路標識」


「ある」


「食料」


「各自」


「行ける?」


「行ける」


「問題なし」


「同じく」


 終わった。


「……」


 レオンが見る。


 六人は。


 もう。


 出発を待っていた。


     ◇


――パウエルさん。


「はい」


――あれが精鋭ですか。


「そう聞いています」


――見て分かります?


「まだ戦ってないんで」


――準備は速かった。


「速いですね」


 パウエルが。


 六人を見る。


「確認する人間が決まってる」


――ウルフとは違いますか?


「うちは、その日の仕事で編成を変えますから」


――固定ではない。


「六十人ですからね」


 少し笑った。


「毎回、同じ六人を空けて待たせておけないですよ」


     ◇


 新興ギルド。


 《リレントレス・ウルフ》。


 所属。


 六十名。


 一方。


 創設二十八年。


 《女神の加護》。


 所属。


 四百八十六名。


 規模の差は。


 単に。


 強い人間の数だけには現れない。


 同じ人間を。


 同じ役割で。


 何度も。


 同じ仲間と。


 現場へ送り出せる。


 それもまた。


 組織の大きさだった。


     ◇


 午前六時二十三分。


「来たぞ」


 誰かが言った。


 レオンが。


 入口を見る。


 大盾。


 昨日。


 初めて会った。


 一人の男。


「……ハンニバル」


 レオンが。


 小さく呟いた。


 ハンニバル。


 《女神の加護》所属。


 英雄級潜航者。


 通称。


 《女神の盾》。


「おはようございます」


 ハンニバルが。


 頭を下げる。


「おはようございます」


 パウエルが応じた。


「肩、大丈夫ですか?」


「条件付きで許可出ました」


「条件?」


「痛みが増えたら下がれって」


「守ってください」


「はい」


 昨日。


 二十三階層から帰還。


 翌日。


 第十階層へ。


 英雄も。


 今日の仕事へ加わる。


     ◇


 《リレントレス・ウルフ》からも。


 戦闘員が集まっていた。


 現場責任者。


 パウエル。


 盾役。


 ハンス。


 前衛と偵察を担う。


 ヴェラ。


 魔術職。


 セリア。


 そして。


 選抜された戦闘員達。


 その後ろには。


 採取。


 物流。


 医療。


 さらに。


 《女神の加護》から派遣された。


 精鋭戦闘ユニット。


 ポーター。


 環境整備員。


 この日の潜航は。


 一つのギルドだけでは。


 成立しない規模になっていた。


     ◇


 午前六時三十二分。


「出るぞ!」


 パウエルの声。


 隊列が。


 ゆっくりと動き始めた。


     ◇


 先頭。


 偵察。


 戦闘部隊。


 中央。


 物資。


 洞ラバ。


 ポーター。


 後方。


 医療。


 環境整備。


 レオンは。


 中央。


 物流隊にいる。


「……」


 歩きながら。


 前を見る。


 少し離れた場所に。


 ハンニバル。


「エドガーさん」


「何だ」


「ハンニバルさんって」


「うん」


「先頭じゃないんですね」


「なんで?」


「いや」


 レオンが。


 少し困る。


「英雄だから」


「まだ敵いねえだろ」


「……そうですけど」


「盾が必要になったら前に行く」


「はい」


「今は歩いてるだけだ」


「はい」


「お前も歩け」


「はい」


     ◇


 午前八時十四分。


 第十階層。


 東部。


 ここから。


 《リレントレス・ウルフ》にとって。


 見慣れた道になる。


「ここから狭くなる!」


 ヴェラが声を出した。


「洞ラバ、一列!」


「後ろ詰めるな!」


 隊列が。


 細くなる。


 その中で。


 《女神の加護》の精鋭六人が。


 ほとんど会話もなく。


 縦一列へ変わった。


 広い場所へ出る。


 再び。


 配置が戻る。


 誰かが。


 指示したわけではない。


「……」


 レオンが見る。


「エドガーさん」


「今度は何だ」


「あの人達」


「うん」


「全然喋らないですね」


「喋ってるだろ」


「いや、そうじゃなくて」


 レオンが。


 前を見る。


「必要な時しか」


 エドガーも。


 六人を見る。


「そうだな」


 それだけだった。


     ◇


 午前八時四十七分。


「止まれ」


 パウエル。


 隊列が止まった。


 ヴェラが。


 地面へしゃがむ。


「新しい」


 土を見る。


「昨日じゃない」


「数は?」


「ここじゃ分からない」


 壁際。


 足跡。


 糞。


 食べ残された骨。


 前回の調査で。


 確認されたものと。


 同じ痕跡。


 ただ。


 数が。


 増えている。


     ◇


 精鋭ユニットの斥候が。


 パウエルを見る。


「行きます」


 パウエルが。


 ヴェラを見る。


「一緒に行けるか?」


「もちろん」


 二人が。


 先へ消えた。


     ◇


 十分後。


 二人が戻る。


 先に。


 ヴェラ。


「十二」


 パウエルが聞く。


「距離」


「百五十くらい」


 精鋭の斥候が続ける。


「まだ気付かれていません」


「他は?」


「見える範囲にはいない」


「退路?」


「確保できます」


 精鋭ユニットのリーダーが。


 パウエルを見る。


「どうします?」


 決定を。


 委ねた。


     ◇


 今回。


 現場を指揮するのは。


 英雄ではない。


 《女神の加護》でもない。


 第十階層東部を。


 調査してきた。


 《リレントレス・ウルフ》。


 その現場責任者。


 パウエルである。


「処理する」


 短く。


 決めた。


     ◇


 戦闘員が前へ出る。


 ハンス。


 盾を構える。


 その隣に。


 《女神の加護》の盾役。


「左、もらいます」


「頼む」


 ヴェラが。


 右へ。


 セリアが。


 後方へ位置を取る。


 精鋭六人も。


 配置についた。


 そして。


 ハンニバルは。


 まだ。


 中央にいた。


     ◇


「来るぞ!」


 ゴブリン。


 十二体。


 こちらへ。


 走ってくる。


「ハンス!」


「任せろ!」


 最初の一体が。


 盾へぶつかる。


 ハンスは。


 受け止め。


 そのまま押し返す。


「右!」


 ヴェラ。


 回り込もうとした一体を。


 前衛が止める。


 精鋭の盾役が。


 二体の進路を塞ぐ。


 その横を。


 前衛が抜ける。


 セリアの魔術が。


 地面を走った。


 狙ったのは。


 ゴブリンではない。


 退路。


 炎に阻まれ。


 逃げようとした個体が。


 向きを変える。


 その先に。


 精鋭の斥候がいる。


「……」


 レオンが。


 後方から見ていた。


 一体。


 二体。


 倒れていく。


 だが。


 誰か一人が。


 突出しているわけではない。


「左、終わる!」


「次、右!」


「ハンス、そのまま!」


「分かった!」


「セリア!」


「見えてる!」


 最後の一体が。


 倒れた。


     ◇


 戦闘時間。


 二分十一秒。


 ゴブリン。


 十二体。


 負傷者。


 なし。


     ◇


――レオンさん。


「はい」


――精鋭の戦闘を初めて見ました。


「はい」


――どうでした?


「……」


 レオンが。


 考える。


「よく分かんなかったです」


――分からなかった?


「強いんでしょうけど」


 首を傾げる。


「途中から、誰が倒したのか分かんなくなって」


――派手ではなかった。


「そうですね」


 少し考えて。


「気付いたら終わってました」


     ◇


 同じことを。


 ハンニバルにも聞いた。


――ハンニバルさん。


「はい」


――あの六人、強いですか?


「強いですよ」


――英雄から見ても?


「そりゃそうですよ」


――ハンニバルさん一人と、あの六人なら?


「……」


 ハンニバルが。


 こちらを見る。


「何の勝負です?」


――例えば、ゴブリン討伐。


「六人」


――即答ですね。


「はい」


――英雄なのに?


 ハンニバルが笑った。


「俺一人に」


 精鋭達を見る。


「六人分の目はないんで」


     ◇


 強い。


 その言葉が。


 必ずしも。


 一人で。


 多くを倒すことを。


 意味するわけではない。


     ◇


 午前九時二十八分。


 隊は。


 さらに東へ進んだ。


 足跡。


 増える。


 糞。


 増える。


 骨。


 増える。


 臭いも。


 強くなる。


 会話が。


 減っていく。


     ◇


 午前九時四十一分。


「止まって」


 ヴェラ。


 地面を見る。


 いくつもの足跡が。


 同じ方向へ続いている。


「ここ」


 精鋭の斥候も。


 しゃがむ。


「かなり通ってる」


 パウエルが。


 前を見る。


「確認する」


 斥候が。


 一人。


 先へ向かった。


 今度は。


 ヴェラを残した。


     ◇


 五分。


 十分。


「……遅くないですか?」


 レオンが。


 小さく聞いた。


 エドガーは。


 答えなかった。


 十五分。


     ◇


 斥候が。


 戻ってきた。


 走ってはいない。


 だが。


 先ほどとは。


 顔が違った。


 パウエルが聞く。


「いた?」


「はい」


「何体?」


「……」


 斥候が。


 一度。


 後ろを見る。


「数えられませんでした」


 誰も。


 声を出さなかった。


「巣は?」


「あります」


「規模」


「想定より」


 斥候が。


 息を整える。


「大きいかもしれません」


     ◇


 推定。


 百五十から二百。


 その数字を基に。


 人を集め。


 装備を揃え。


 契約を結び。


 ここまで来た。


 しかし。


 推定は。


 推定でしかない。


     ◇


「パウエルさん」


 声。


 ハンニバルだった。


 背負っていた。


 大盾を外す。


 地面へ。


 置く。


 重い音が。


 通路に響いた。


 ハンスが。


 その盾を見る。


 レオンも。


 見る。


 昨日。


 エドガーと笑い。


 軽く抱き合っていた男。


 今朝まで。


 冗談を口にしていた男。


 その表情から。


 笑みが消えていた。


「ここから先」


 ハンニバルが。


 大盾の持ち手を握る。


「仕事していいですか?」


 パウエルが。


 頷いた。


「お願いします」


     ◇


 英雄。


 ハンニバル。


 通称。


 《女神の盾》。


「あの人の後ろにいれば、帰れる」


 昨日。


 我々は。


 そう聞いた。


 だが。


 その言葉が。


 本当は。


 何を意味するのか。


 この時の我々は。


 まだ。


 知らなかった。


     ◇


 七月二十二日。


 午前九時五十八分。


 第十階層東部。


 ゴブリン大規模生息域。


 共同討伐部隊。


 接敵。

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