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朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師  作者: 桜咲かな


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第37話 封印された悪魔の真実

 ポーラが剣を振り下ろした先はヨルの体ではなく、その後ろにある祭壇だった。


「私がヨル様の願いを叶える!!」


 一刀両断とはいかなくても、祭壇の真ん中に重い刃が沈み込んだ。そこから走った亀裂の隙間から暗黒の魔力が煙のように吹き出していく。

 祭壇の前に立つポーラの横にはヨル、少し離れた右側にランナ、左側にモニカ、後方にはカレン。祭壇を囲んでいた誰もがポーラの行動を予想できなかった。


「ポーラ姉さん!?」


 ランナが声を上げた時には、もう遅い。祭壇が破壊された事で、最強の悪魔の体は封印から解き放たれる。

 ポーラは呪いが解けてもヨルへの愛を貫き、最後の最後に王妃たちを裏切った。

 その中でもヨルだけは黒い魔力に満ちていく神殿の天井を見上げて笑う。


「よくやった、ポーラ。これでオレは最強の悪魔だ!!」


 地響きと共に床は揺らぎ、祭壇から伸びる亀裂は天井を支えている柱をも侵食していく。

 モニカは全身に感じる邪悪な悪魔の魔力の恐怖と、破壊されていく神殿を目にした絶望に震えている。


「どうすればいいの……アサ様……!!」


 自分の胸に手を当てて体内のアサに語りかけるが返事はない。

 その時、天井を仰いでいたヨルが急に振り返ってポーラの手を掴んで引き寄せる。ポーラの体を全身で包んで抱きしめると体を反転させて再び祭壇の方を向く。

 まるで何かからポーラを守るような体勢。ヨルの咄嗟の行為を見たランナは思い出した。


(ルアージュ様の刃から私を守ってくれた時も、ヨル様は背中で……)


 次の瞬間、ヨルの背中に銀色の刃先を持つ細く長い棒が突き刺さる。その矢は音もなく壇下から放たれていた。

 ヨルに矢が刺さるよりも先に敵の気配に気付いて最初に振り返ったのはカレンだった。


「しまった、敵兵……!!」


 カレンは祭壇に背を向けて走り出すと階段を下って敵兵を追う。レッドリア国への侵攻の最中、国境を越えて敵軍もジョルノ国に侵攻してきていた。

 ここは国境に近い位置であり、ヨルがこの神殿に向かった事は敵軍に知られている。

 侵入してきた敵兵は少数だが、単身でこの場所に来たヨルには味方の兵がカレンしかいない。

 二本の剣を腰に帯びていたカレンは残りの一本を鞘から抜いて走る。外へと逃げた敵兵に続いて出口を抜けようとするが、迫り来る炎と熱風に行く手を阻まれる。


(出口に火を放たれた!)


 おそらく神殿の周囲にも火を放たれて逃げ道は塞がれている。神殿の内部は立ち上る暗黒の魔力、そして炎の黒煙によって黒の世界へと塗りつぶされていく。

 さらに封印が解かれた事により神殿の柱が次々と崩れ落ちていく。神殿が崩壊するのが先か、燃え尽きるのが先か。絶望的な状況としか言えない。

 祭壇の前では、背中に矢を受けたヨルが両膝をついて崩れ落ちる。


「ヨル様っ!!」


 ポーラがヨルの体を支えようとするが力が足らずに、抱き合う形で一緒に床に座り込んでしまう。

 ランナとモニカはヨルの背中側に回って傷口を確認する。出血は多くないものの、背中の中心から突き刺さった矢は胸まで貫通している。

 治癒の能力を持つモニカが傷口に手をかざすが、ヨルが体を捩って拒絶した。


「構うな、朝の女」


 ヨルは苦痛に顔を歪めながらも、モニカを睨みつける赤い瞳の炎は生気を失っていない。さらに強引に口角を上げて笑みを作る。


「どうせ、この体はもう不要だ。オレは悪魔の体を得るのだからな」

「バカ!!」


 ヨルの言葉に被せるように放たれた怒声は、ランナではなくポーラの声だった。その気迫に驚いたモニカとランナの肩が跳ねてしまう。

 そしてヨルも思わず黒い瞳を丸くしてポーラの顔を驚きの目で見返している。


「悪魔になろうとしないで! ヨル様は悪魔の魂に支配されているだけなのよ!」

「うるさい……オレは……最強の悪魔に……」

「いい加減に気付いて、ヨル様は悪魔じゃない!!」


 ポーラの叫びと共に金色の瞳から涙が弾け飛ぶ。ポーラには分かっていた。神殿に封印されているのは悪魔ではない事に。

 ヨルの孤独な時間に寄り添って愛し合ったからこそ、ポーラはヨルの全てを理解していた。

 決して誰かを裏切った訳でもない。それを証明するためにポーラは祭壇を破壊して封印を解いた。


「私がヨル様を救うから、愛しているから!」


 ポーラはヨルの首の後ろに両腕を回すと深く唇を重ねる。ヨルの愛も孤独も闇も、全てが唇を通してポーラの中に流れ込んでいく。

 ヨルは薄目を開けてポーラを見つめていたが、次第に遠い前世の記憶が呼び起こされてくる。


(この瞳、あの時の聖女に似ている……)


 遥か昔に三匹の悪魔の魂を体内に封印した、最強の聖女・エリス。あの時のエリスとポーラに対してヨルが抱く感情は共通している。

 それは紛れもなく『愛しさ』。それに、記憶の中のエリスと今のポーラは同じ瞳をしている。それは『優しい』愛の眼差しであった。

 ヨルは今、やっと真実に気付いた。前世の悪魔ヨルデオは、聖女エリスを愛していた。そして今世の自分はポーラを愛しているのだと。


(そうか……悪魔でないなら、オレは誰なんだ……)


 真実を得た代わりに生まれた矛盾。自分を見失いかけたヨルの意識が現実に戻る。彷徨うヨルの心は、ポーラの唇の温もりと眼差しに導かれていく。

 ヨルは、その流れに身を任せる。悪魔の体と融合するよりも、ポーラの中に全ての答えがある気がした。


(ヨル様、私の中に来て。私があなたを包むから)


 二人の心が一つに重なると、ヨルの魂はポーラの体内に取り込まれる。全てが終わると、抜け殻となったヨルの体は崩れ落ちて床に倒れる。

 しかし静寂は訪れない。破壊された祭壇から溢れ出した黒い魔力が融合し、巨体を形成しながら神殿の天井まで覆い尽くす。

 ランナがその姿を確認しようと天井を見上げると、神殿を支える柱と天井が崩れ落ちる音と共に視界が暗転する。

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