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朝昼夜の三重人格な陛下と、第三王妃の聖女な薬師  作者: 桜咲かな


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第36話 レッドリアの聖女たち

 モニカはアサの頬に触れていた両手を首の後ろへと回して抱きしめる。

 銀髪のアサと銀髪のモニカ。朝日のような白銀の夫婦が一体となる。


「アサ様、愛しています」


 二人の唇が重なり合った時、聖力に包まれたアサの魂が熱を伴ってモニカの体内に流れ込む。

 アサの愛と魂を取り込んだモニカの体はプラチナ色に輝き、全てを吸収すると光が静かに消えていく。


(アサ様が私の中に……温かい)


 モニカはアサから離れると自分の胸に両手を重ねてアサの存在を感じ取る。

 目の前のアサを見ると、銀色の髪が金色を帯びながら色付いていく。まるでバトンタッチのように、アサからヒルへと人格が移り変わっていく。

 壇下のランナがヒルの金髪を確認した瞬間に衝動的に足が前に出る。


「ヒルくん!!」


 横に立つポーラがランナの背中を優しく押した。モニカに続いて、今度はランナの番であると伝えるように。


「ランナ、行きなさい」


 ランナは振り返り、互いに金の瞳を合わせると大きく頷く。ランナが階段を上り始めると、壇上のモニカは横へ移動してランナに道を開ける。

 階段を上るランナが目指す先には、両手を広げてランナを待ち構える金髪の彼の姿が見える。


「来い、ランナ!!」


 弾けるようなヒルの一声に導かれて、ランナは階段を上り切る前に駆け出す。

 白いドレスの裾を膝が見えるほどに乱暴に掴み上げて、前のめりに倒れそうになりながらヒルの胸の中に飛び込んでいく。


「ヒルくん、ヒルくん……うっ、あぁぁ、わぁぁ!!」

「おいランナ、大泣きしすぎだぞ……」


 ヒルはランナの背中を両腕で強く抱きしめると、さらに頬と頬と触れさせて体温を感じ合う。

 しかしヒルに残された時間は、あと僅か。いつも太陽のように明るいヒルの笑顔は今にも涙が降りそうな雨模様だった。


「ランナ、最後に会えて良かった。オレはランナをずっとずっと愛してるからな。忘れるなよ」

「最後じゃない! そんなこと言わないで、そんな顔しないで!!」


 ランナは大粒の涙を零しながらヒルを叱りつける。二人の頬が離れると二人の視線が重なり、吐息を感じるほどに唇の距離が縮まる。

 しかし、すぐにヒルはランナの体を離して横に置く。そして、いつの間にかランナの背後に立っていたカレンに向かって叫ぶ。


「カレン、オレを斬れ!!」


 ランナが振り返ると、鞘から抜いた剣を握りしめたカレンがヒルを見据えている。


「オレの人格が出てるうちに早く斬れ!!」

「いや!! ヒルくん、カレンさん、やめて!!」

「カレン、命令だ!! オレは悪魔になりたくねぇんだよ!!」


 ランナの制止も聞かずに、ヒルはヨルを道連れにして死ぬ道を選んだ。

 ヒルに仕える『使い魔』のカレンは、ヒルの命令には絶対服従のはず。それなのに無感情だったカレンの黒い瞳には涙が溢れて激しく揺れ動いている。

 煌めく白銀の剣を構えてはいるが、その手は震えている。葛藤の末にカレンは剣を床に投げ捨てた。


「できません!! 私はヒル様を殺すためにお仕えしてる訳じゃない! お守りしたいのです!!」


 カレンからは想像ができないような感情的な叫びが神殿の空気を振動させる。

 そんなカレンの思いは最初からランナと同じ。人格を殺すのではなく守りたい、そして救いたい。


「ごめん、カレン、ランナ……」


 諦めて沈んだ顔になったヒルの隣に再びランナが寄り添う。

 ヒルと結婚してからランナが得た能力は、毒の調合だけではない。ヒルの愛はランナの秘めた奇跡の能力をも開花させていた。


「私はヒルくんを愛してる。必ず救う。だから、いつものあれ言ってよ」


 ランナは自分の中に目覚めた力を信じている。だからこそ前を向いている。真っ直ぐに太陽に向かって顔を上げる向日葵のように。

 ヒルはようやく口角を上げて満面の笑顔を返す。


「あぁ。ランナ、愛してる。『信じてる』ぞ!!」


 呼吸すらも奪い取るような勢いで、ヒルはランナに強く唇を重ねた。同時にランナの中に愛という名のヒルの熱が注ぎ込まれる。

 その熱はランナの心臓、胸の中心に集められて、内に秘めた聖なる力と混ざり合っていく。


(そう、ヒルくん。私を信じて。私の中に来て……全てを受け取るから)


 ランナの得た能力はモニカと同じ。そしてポーラも同じ能力に目覚めている。それは最強の聖女のみが得られる奇跡の力。


(胸が熱い……ヒルくんの魂が私の中にある)


 それこそが、悪魔の魂を体内に取り込む能力。古の物語の聖女エリスが体内に三匹の悪魔の魂を封印したように。

 いつの世でも最強の聖女は『世に一人』のはずだった。だが今、三人の聖女が同時に『最強の聖女』として存在している。

 ランナとポーラとモニカはレッドリアの聖女であり、古の最強の聖女・エリスの血と能力を受け継いでいる。


 今、アサの魂はモニカの体内に。ヒルの魂はランナの体内にある。


 ランナがヒルから離れると、ヒルの金髪は彩度を落としてヨルの黒髪へと染色されていく。

 体内からアサとヒルの魂が消えた事で、ヨルは今度こそヴァクトの体を完全に支配した事になる。


「く、そ……アサとヒルのやつめ……だが、これでオレは自由だ」


 ようやく自我を取り戻したヨルだが、まだ視界が霞んでいて足元が不安定に揺れている。

 ヨルが顔を上げると、目の前には長い黒髪と漆黒のドレスを纏った三人目の聖女、ポーラが静かに佇んでいた。

 呪いの解けたポーラの瞳は金色。全ての闇を浄化するような視線が眩しくてヨルは目をそらしたくなる。


「ポーラ……貴様も邪魔をするのか」


 ポーラの足元にはカレンが落とした長剣がある。それを拾い上げると祭壇の前に立つヨルに刃先を向ける。


「ヨル様。これが私の答えです」


 正気を取り戻したはずの金色の瞳は、ヨルへの愛と狂気の色を滲ませていた。

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