表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱勇者の英雄譚  作者: ギン次郎
1章 始まりの旅の始まり
PR
3/4

第1話 『ようこそ、異世界勇者サマ』

『全ての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に疑わしいことであっても、それが真実となる』


 これはかの名探偵、シャーロック・ホームズが残した言葉の一つだ。

 どんなに信じがたい事でも、どんなにあり得ない事でも、そこに至るまでに全ての不可能が消去されているのであれば、そこに残った事実こそが『真実』となる、ということ。

 まさに真実を解き明かす者に相応しい名言だと『彼』も心から思う。


 ――では、もしその『真実』に至るまでに、不可能が可能になってしまった場合はどうなるのだろうか。


 ……それはそもそもの前提の否定だ。

 本来ではあればあまりにも意味のない問いかけ。まるで素直じゃない子供のような揚げ足取りに、そう思考した本人さえも苦笑が零れる。

 だが、


「事実……そう、なっちゃったんだよなぁ……」


 足元に落としていた視線を上げると、そこにあるのは雄大な緑の草原だった。

 澄んだ青い空、そこに浮かぶ白い雲、そして風に吹かれ騒がしく踊る草と花々。

 きっと()()()()()でさえなければ、彼もこの絶景を前に心から安らぎを覚えたに違いない。


 学校からの帰り道。

 その道中でうっかり電車に轢かれて、人生の幕を終えた直後でさえなければ。


「Grrrrrrrrrr!!!!!!!!!!」


 瞬間、草原に響く咆哮。

 それは青い空を泳ぐように突き進む、飛竜から発せられたものだった。

 ……そう、飛竜。見間違いでも、勘違いでもなく、それは確かに『竜』と呼ばれる空想の生き物で。


「……つまり、これは、あれだ」


 最早、一周回って冷静に。

 彼はこの至った……至ってしまった『真実』に結論を出す。



「『異世界転生ってヤツ――ぅ!?』」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 『彼』の名前は【天宮 晴馬(アメミヤ・ハルマ)】。

 本日、大激戦となった選挙戦を勝ち抜き次代の生徒会長の座を手に入れた、生まれつきの茶髪に平均身長平均体重、学校指定のブレザーの制服に身を包む、普通の男子高校生である。

 それを『普通』と今も言って良いのかは些か疑問であったが、少なくとも現在直面している異常事態に比べれば、そんなことはあまりにも些細な問題だろう。


「良し、一旦落ち着こう。順番順番。こういう時は一つずつ解決していくのが大事なんだ」


 自分に言い聞かせるようにわざと独り言を言いながら、ハルマは自らの身に起きた事態を順番に振り替えっていく。

 幸い時間はたっぷりとあり、足元には座り心地の良さそうな緑の草原ソファーも広がっている。

 ならばきっと冷静になることも出来る……はずだ。


「よいしょっと……。えー、まず俺は今日、次の生徒会長の座を手に入れた。んで一通り学校で騒いで、浮かれポンチになったまま帰宅。浮足立つ足取りでいつもの駅へ」


 なんでだろうか。もうこの時点で嫌な予感しかしない。

 浮かれポンチで駅へ到着。目に見えて死亡フラグが乱立である。

 我ながらよくもまあこんな地雷原に突っ込んだものだ。


「で。ホームで電車を待っている間、落ち着かなかったのと空いてる車両に乗りたくて、一番奥まで移動を開始。がしかしその途中でポイ捨てされてた空き缶に気が付かず……」


 見事にすっ転んで線路に転落。そして、そのまま電車にすてみタックルされてサヨウナラという訳らしい。

 ……なんともまあ、自分で振り返ってみてもなんとも無様な死に様だ。

 次代生徒会長の座を手に入れた代償に、17年積み上げてきた人生をこんな形でドブに捨てる事になるとは。割に合わないにも程がある。


「しかもそれで終わりじゃないってんだから笑えるな。……嘘だ、流石に笑えねえよ」


 悲しくも人生の幕を閉じたはずのハルマ。

 しかし何故かカーテンコールが流れる事はなく、この雄大な草原で彼は再び人生の幕を上げる事になった。……そう、すなわちみんな大好き『異世界転生』。今となっては星の数ほど存在する、漫画・小説・アニメのお約束である。

 ハルマもこの手のジャンルのエンタメはそれなりに嗜んでいる側。ならば文字通りこの夢のような状況に、多少心躍らせていてもおかしくはないのだが……。


「普通、こういうのって案内役の女神様とか居るもんだろ。それか目を覚ました先で俺を呼び寄せた美少女ヒロインが待ってるとか。なんでどっちも居ないんだよ」


 ハルマの異世界転生は福利厚生にかなり難があった。

 なんせ今回の異世界転生旅行は紹介役も案内役もなし。特別なアイテムとか、何か超パワーを手に入れた様子もなし。なんなら必要最低限の物資すらなし。ないない尽くしも良いところである。

 人気のない寂れた観光名所への旅行だって『ようこそ』と書かれた看板くらいは用意してくれるだけ、これよりはまだマシと言ったものだ。まさかそれ以下があるなんて誰が想像出来ようものか。


 もしかしたらこの後、秘めたる力が発揮されるみたいな展開が待っているのかもしれないが、どちらにせよあまりにも扱いが雑な事に変わりはない。

 元の世界から持ち込んだ携帯電話ガラケーと財布だけを持った状態で、一人草原に寝転がらされていたスタートはもう覆しようがないのだ。


「携帯は当然圏外。財布はこの世界で日本円が使えるはずもない。落っこちる時に落としたリュックは異世界転生を免れたので一緒に入ってた弁当や水筒もなし。……なんだこれ、詰んでない?」


 早くも終焉が見え始めた、ハルマのゼロから始める異世界生活。

 というか最早始まってすらいない。これではゼロから始めたかった異世界生活だ。


「ふざけんなよ、じゃあもうあのまま殺しとけよ。なんで意味もなく続きを用意したんだよ……」


 冷静に振り返った結果、露わになった最悪の現状にハルマは重い溜息と共に頭を抱える。

 異世界転生なんてのはあくまで作り話だからこそ楽しいのだ。文字の中、絵の中だけの話、そしてそこから都合の良い部分だけを脳内に搾取し、妄想のレパートリーに加える。それで十分。

 だから誰も実際に体験したいなんて思っちゃいない。ましてやこんな最悪最弱の転生なら尚更だ。


「……。……いやいや、切り替えろ、俺。いつまでも落ち込んでてもしょうがないだろ。それにまだスーパーウルトラチートが宿ってる可能性も否定はしきれないんだ。そうさ、きっとなんか超凄い力が宿ってて俺TUEEE出来るはず!」


 落ちていく気持ちを無理やり切り替え、ハルマはその場に勢いよく立ち上がる。

 わざわざ異世界転生なんて超常が起きているのだ。ならばこれにはきっと意味があるはず。

 であればハルマもこのまま何も出来ず野垂れ死ぬなんてこともあり得ない。そうハルマは強引に理論づけた。


 と、無理やりメンタルをリセットしたハルマの前に、小さな影が二つ三つ。

 それは元の世界では明らかに存在しない生き物、俗に言う異世界のお約束『モンスター』だった。しかもその外見からして彼らは、


「見たところアレはスライム……かな? うーん、なんとも分かりやすいザコの代名詞。よし、ちょっと悪いが俺のこの世界での実力を試させてもらおうか」


 ニヤリと、悪い笑みを浮かべながらハルマは運悪く目の前に現れたスライムと対面する。

 そして右手を真っすぐスライムに向け、輝かしき初陣を飾る一言を彼は言い放った!


「シャマク!!!!!!!!!!!!」


「――!!?」


 自分の知っている魔法の中で、一番好きな魔法の名前を声高く叫ぶハルマ。

 ……がしかし、そこに生み出されたのはハルマの大声と残響だけで、元ネタのように影が吹き出ることも、炎や雷が現れる事もない。

 それどころか、いきなり大声をかけられたスライムたちが、明らかにこちらへと鋭い敵意を向けていた。


「……。えーと。いや、その、あれだ。これはちょっと変わったくしゃみでね……? 決してお前らに何かしようと思ったワケでは……」


「……。Pyaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」


「どぅおわ!!!?」


 瞬間、弾かれたようにハルマに飛びかかるスライムたち。

 そんなスライムたちにハルマは、魔法がダメなら今度は物理で対抗しようする……が、こちらもなかなか上手くいかなかった。


「なっ、なんだこの身体!? 柔らかくて……! 掴みどころが!!!!!」


 ニュルニュルと器用に動く液体と固体の中間のような身体は、追い払うどころか掴むのさえも一苦労。

 おまけにスライムが案外強いのか、それともハルマが悲しいくらいに弱いのか。なんとか一瞬捕まえてもシンプルに力負けしてすぐに逃げられてしまう。


 そして徐々に追い詰められていくハルマ。今はなんとか抵抗しているが、もしこの軟体に気管支を塞がれたりしようものなら確実に助からないだろう。そしてそれは最早時間の問題だった。


 ――ああ、クソ……。マジで本当に、何のために、俺は異世界転生したんだよ……。何のチート能力もないどころかスライム数匹にすら勝てないなんて……。


 追い詰められる心に湧き上がるのは、どうしようもない無力感だ。

 何も出来ず、目に見えて弱いモンスターにすら対処できないまま、意味も分からず放り込まれた異世界で再び人生の幕を閉じることへの無力感。

 強引に持ち直したメンタルも、この悲しい現実を前に完全に砕け散っていた。


 ああ。本当になんとも惨めで、滑稽で、無様なことだ。

 こんなどうしようもない終わりを迎えるくらいなら、いっそ、最初から――











「――間に合った」











 ――瞬間、声がした。




「……?」



 見上げると、そこに居たのは一人の少女だった。

 ハルマと同い年か少し年上くらいの、長く綺麗な黒髪をたなびかせ、さながら狼のような獣耳と尻尾を持った少女が一人、凛とした佇まいでスライムに襲われるこちらを見据えている。

 そして、その在り方を崩さないまま、少女は一言、


「貴方たち、その子を離しなさい。そうでないなら、ここから先は私が相手になってあげる」


 この世界に来て初めて、

 ハルマに確かな『希望』を与えてくれたのであった。



【後書きトピックス】

Q:『天宮』は『アマミヤ』とは読むけど『アメミヤ』とは読めないのでは?

A:うるせえよ、黙れよ。


次回 第2話『その狼、《賢者》につき』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ