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最弱勇者の英雄譚  作者: ギン次郎
1章 始まりの旅の始まり
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第2話 『その狼、《賢者》につき』

「貴方たち、その子を離しなさい。そうでないなら、ここから先は私が相手になってあげる」


「――― ―」




 この『感覚』を、人は一体なんと呼ぶのだろうか。




 鋭く響く少女の声。その声にハルマは、まるで全身の感覚が奪われたかのような錯覚を覚えた。


 凛とした佇まいでこちらを見据える少女から目を離せない。

 数秒前に過ぎ去ったはずの声が何度も耳の中で残響を繰り返している。

 緊張に震える舌は一言たりとも言葉を紡ぐ事をさせてくれなかった。


 それは、まさに、電撃が走ったかのような衝撃で――、


「P……Pyaaaaa……」


 少女の言葉の意味を理解出来たのか、それともその敵意を察知したのか。ハルマを襲っていたスライムたちは低い威嚇の声を漏らしながらじっと少女を睨む。

 だがその割にハルマの時と違い、すぐさま襲い掛かる様子は見られなかった。


 それは、きっとスライムたちも少女のただならぬ『実力』を察したからだろう。現に少女のその手には、まるで武器を構えるかのように淡い光が集まり始めていて――、


「どうするの。あんまり長くは待たせないでほしいのだけど」


 その手に光を集めながら、変わらぬ凛とした声で再度少女は呼びかける。

 その言葉に、スライムたちはしばし戸惑っていた。が……、


「Pyaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」


 ついに一番近くにいた1匹が少女へと襲い掛かった。

 その様子に少女は少しだけ残念そうな表情を見せたが、それも即座に元の顔つきに戻る。

 そして真っすぐ指先をそのスライムへ向けると一言。


下級火炎魔術(フレア)


 先ほどのハルマとは対照的に、静かに、されど力強く。少女は魔法の『名前』を唱えた。

 瞬間、少女の指先から放たれたのは赤い火の玉。そしてその炎は容赦なくスライムへと襲い掛かり、


「P!!!!!!!!! Pyaaaaaaa!!!!! Pyaaaaaaa!!!!!」


 スライムはまさに文字通り、火の玉に焼かれ火達磨に。

 結果少女を襲うどころか返り討ちにされたスライムは、火に包まれたまま草原を大暴れ。その様子をハルマと残りのスライムたちは目を丸くして見ていることしか出来なかった。


「貴方たちはどうするの? あの子みたいに炎に焼かれる? それとも大人しく逃げる?」


 そんなハルマ達……否、ハルマを除いたスライムたちに少女は三度目の問い掛け。ここで残りのスライムたちは素直に逃げれていれば良かったのだが……。

 果たしてそれは仲間の仇討ちなのか、それともプライドなのか。残りのスライムたちも逃げる素振りは見せず、少女をキッと睨み返す。


「……なら、しょうがないか」


 少女は再三逃げるようにスライムたちに促した。だが、それでも彼らはその慈悲を無下にした。してしまったのだ。

 だから少女も最早容赦は一切しない。


中級火炎魔術(フレイア)!」


 今度は指ではなく片手で、先ほどよりも一回り大きい炎を放つ。

 だがスライムも同じ手を二度も食らうほど愚かではない。放たれた炎を素早く躱し、その勢いのまま少女へと一直線に向かっていく。


「危ない!!!」


 その戦況に思わず声を上げるハルマ。

 だがこの場において最も強いのはハルマではなく、スライムでもなく、他でもない少女だ。

 ならば、もちろんこれくらいのことは初めから想定済みで。


「大丈夫、さっきのは躱されるのは分かってたから。本命は――こっち!」


「!!!!!!!!」


中級疾風魔術(マフーガ)!」


 先ほどまでとは異なる魔法の詠唱。

 すると今度はその手から炎ではなく風が生まれ、全速力で突っ込んでいたスライムたちを思い切り吹き飛ばす。そして器用にハルマだけをその場に残し、スライムだけをその場から取り除いた少女は、そのままその手を止める事なく――、


「これで、最後! 中級合成魔術(ヴェルカラ)!!!!!!!!」


 放たれたのは虹色の光。

 その光もまた一切容赦することはなく、真っすぐにスライムたちへと襲い掛かった。


 ――瞬間、炸裂する七つの閃光。


 美しく、同時に力強く、輝いた虹色の光はまさに『魔法』のような光景……否、事実『魔法』の光景だ。元の世界では絶対に見られはしなかっただろう輝きを前に、ハルマはこれが本当に人の手で生み出されたものなのか、その一部始終を見ていたはずなのに疑いたくなってしまう。


「これが……異世界……」


 だが、どんなに疑わしくとも眼前の光景こそが真実だ。それだけはどう足掻いても覆しようがない。

 だから、改めてハルマはその真実を認め、受け入れるしかなかった。


 『自分は本当に異世界転生をしてしまったのだ』と。


「……ふぅ。……ちょっと、やり過ぎちゃったかな。まあでもちゃんと加減はしたから多分大丈夫でしょ」


「……」


「……よし。それじゃあ、その、まず。貴方、私の言葉が分かる?」


「え? あ、はい」


 スライムたちを退治しようやく一息ついた少女。すると、先ほどまでの気迫はどこへやら。まるで包み込むような優しい声色で、ハルマにゆっくりと声をかけた。

 しかしそんな少女とは対照的に、様々な感情が胸中を渦巻くせいでハルマはたどたどしくしか返事が出来ない。だが、そんなハルマにも少女は一切その雰囲気を崩す事はなく。


「良かった。言葉が分からなかったら、どうしようかと思っちゃった。私、勉強は教えるのも教わるのも苦手で……」


「……そう、なんだ。まあ、人にはそれぞれ向き不向きってあるしね。……、……えっと、その」


「あ、ごめんなさい。私まだ自分が誰なのか話してなかったわね。ちゃんと会えたのが嬉しくってつい」


「……」


 『ちゃんと会えた』とはどういうことなのか。少女はハルマがここに居ることを、そしてこの世界に来ることを知っていたのだろうか。

 たった一言に様々な疑問が生まれるが、ハルマはまだその疑問を口にはしない。

 今はまず、聞くべきことが他にあったからだ。そしてそれはハルマの方から尋ねなくとも、少女が自ら話してくれる。




「――私の名前はホムラ。ホムラ・フォルリアス」




「……ホムラ」


「――狼の半獣。目醒めたばかりの新米《賢者》。どうか、これからよろしくね」


 ハルマにはない耳と尻尾を可愛らしく揺らしながら。

 少女はハルマに自らを《賢者》と名乗った。

 

【後書きトピックス】

ホムラの暴れっぷりを解説すると、さながら序盤のスライムに『メラ』と『メラミ』と『バギマ』と『ライデイン』を使ったくらい容赦ない。


次回 第3話『始まりの国 ゼロリア』 

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