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第10話:ただの前座


ー嘘だろ?この視界で俺が見えてるのか?



「”おい、10時の方向に弓の手ごたえがある。斥候はやられてるかも知れん注意しろ”。と言ってますよキウリさん?」



僕は鈍く痛む腹に刺さったーー正確には革鎧に刺さって止まっているーー矢を抜いた。



「ねえ、この弓の人どう考えてもベテランだよね?」



「弓なんて動き回ってれば当たりませんて!」



「いや、でもさあ、この世界、魔法だけじゃなく”武法”とかいうよくわからん理屈の技あるじゃん?」



「ほら、大柄のが来ましたよ!ああ!鎖帷子に全身鎧だ!ダメです。さっきの方法は使えないですよ?」



ー夜目も効くのなあんた。



「まあ、力比べなら自信ありますんでご安心を。」



二人が能天気にペチャクチャと話している間にも大男は数mの位置に近づいていた。



ー来た。



「おい、カクズ・・・あんた斥候の仕事もしねえで、なにしてるだね?」



「・・・」



僕は無言で近づいて拳が届く間合いまで接近した。



「カクズ?・・・いや、あんた・・・ふぐぅ!?」



そして腹パン一発で仕留めたのだった。



「ふう・・・間抜けなタイプで助かった・・・」



「うーん、女性でしたね?しかも、強者感あったのに、騙してワンパン。どうなんですかねえ。読者的にどうなんですかねえ?この展開は。ねえ?ねえ?」



ー知らなーい。見ざる・言わざる・聞かざるの三位一体とは僕のことです。



{バシュ}



「うぐ・・・」



2射目の矢は正確に僕の頭部を捉え、皮の兜を弾き飛ばした。



「実際、あいつが一番やばい・・・。」



矢に続いて魔法使いの詠唱が続くのが聞こえる。



「”EKBRULU DE LA SONO-(音より点滅せよ)-"だそうでー」




{ブワァ}



ーちょいちょい・・・点滅とかじゃないじゃん、これもう爆燃じゃん?



 矢が刺さった僕の兜を中心に一瞬にして火が燃え盛ると、強い発光とともに辺りを照らした。必然、我々の居場所は相手にバレるが、こちらからも彼らの様子がこれまで以上に見えたのは幸いだった。



ー弓の冒険者は帯刀しているところを見るに近距離でも戦えると見た。逆に御者は手ぶらから察するに完全に治療や馬の扱いが専門かもしらん?魔術師は・・・あれはモーニングスターってやつか?



「キウリさん?とかく、近接戦闘はあの弓のやつで最後ですから、ほらここらで熱風をブワっとね?」



ー熱風をブワッと?



「むせたら魔法は詠唱できないでしょうからねぇ?」



ーあ、ツゲ(こいつ)策士だな。ってかなんでおれがそれ使えるの知ってんの?風呂上がり覗いてた?




ここまで漂ってくる腐れ液の主成分はおそらくアンモニアとアルコール、そして酪酸のような刺激臭を放つ物質だ。気化した濃度の高いこれらの気体は当然呼吸器を刺激し、場合によっては気絶・粘膜を損傷する代物に違いない。



「BRULIGU VENTO -(燃えよ風)- 」



僕は両の手を野原に付け、熱風を生むと馬車に向かって最大出力でかました。



「まずい!VEN-・・・・」



{バタリ}



風の魔法を詠唱しようとして却って強く吸い込んでしまった魔法使いが気絶した。



「んーでも、倒れたのは魔法使いだけのようですよ。御者風の男は予測していたのか風魔法を自分にかけてますから・・・なかなか手練れ?あー、弓の冒険者は瞬時に水袋を矢先で切り開きマスクがわりにしてますねーやっぱりやるなあ。あ、弓のおっさんこっち来ますよ?」




ーベテラン勢すげいなあ。それもそうと、ツゲの視力もすげい・・・どうなってんの?つくづく僕の連れどうなってんの?




 最もベテランと思われた冒険者はこちらに走り寄ってくると、懐から炎のでる魔鉱石を取り出し火をつけ様に平野に転がした。これによって僕らの姿はもちろん相手の姿も優に見えるようになった。どうやら真っ向からやり合う気らしい。



「おいおい冗談だろ・・・顔を隠してもわかるぜ、そのなり、新人の”墓戻り”じゃねえか?・・・誰に頼まれた?」




ーえ、誰?この人。新人のことちゃんと覚えてるとか、出会う場所が違えば面倒見のいい先輩キャラー



{ヒュッ}



黒い何かが顔を掠めて傷を作った。



「もうお前の負けだ。俺はそこら辺に倒れてる若輩とは年季が違う。”縫い弓”の2つ名くらいは知ってるだろう?」




ーいやごめん、知らないんだわ・・・。




「・・・」



「・・・まあ、いい。お前も誰に唆かされたか知らないが、新人の失態はギルドの失敗でもある。今のうちに依頼人を言えば命までは取らないでやるぞ?どうだほら?どうせもう体が動かないんじゃないか?」




ーえ、まじで体が震えてうまく立てない・・・もしかして、さっき頰を掠めたのって・・・





「気付いたか。そうさ、麻痺毒だよ!数秒で身動きが取れなくなる!これがベテランってやつさ。」




「あ、まずい・・・力ははいんあい・・・・」



{カラン}



右手に持った片手剣が地面に落ちるのをニヤリと見つめると、男はゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。




「ほらな。言わんこっちゃない。新人よ、一旗揚げるにしたって方法ってもんがあるんだ。・・・それで、誰の差し金だ?」



綺麗な銀髪に染め上がった精悍な顔つきの男は幅広の柄のついたロングソードをゆっくり抜く。そしてゆっくりと僕の首筋に刃先をかけた。こちらは立っているだけでも精一杯だ。



「・・・。」



「坊主、遊びは終わりだと言ってるんだ。早く吐かないと後悔するのは坊主だぞ?」



「あ・・・はのむ・・・フゲ・・・」




「え?何だって?”フゲ?」




音もなく男の後ろにさっと黒い影が回る。何を隠そう、いや別に何も隠そうとしてはいないのだが、頼れる隣人ツゲが通る。



「んん!!背中が・・・背中がかゆい・・・んん!?猛烈にかゆい!!」




 どういう仕組みかわからないが、ツゲが気付かれることもなく男の背後に回ると途端に男は悶え苦しみ始めた。僕が麻痺でロクに動けないことで油断もしていたのかも知れないが、しまいには膝をついて地面を転がり始め、上着を脱ぎ始めてさえいる。その時ぼくはしめたと思った。



 なんせ倒れるだけで相手は自分の数倍の体重の衝撃を味わうことになるのだから。




「ん?んん?待て、今は取り込み中だ。」




{ズン}



「あ・・・。」



 僕は前傾に倒れる。ただそれだけの攻撃(・・)であるが、額が男の鳩尾に刺さるようにヒットすると、男は悲鳴をあげることもなく呆気なく意識を失った。



ーそう言えば、ド◯クエ3のマミーにはこんな攻撃で苦戦させられたもんだぜ。



「もーキウリさん油断しすぎじゃないですかねぇ。」



「うわ・・・ほめん・・・」



「まあ、相手も上手だったしね。街の運命もかかってるし、今日だけ特別に助けてあげちゃうけど、どうする?ねえどうする?」



「え、ほねはい・・・ぃます・・・」



「まー言われなくても助けるつもりなんですけどね!」



 そう言うや否や、ツゲは傷のある箇所ーー頰だーーにみるみる顔を近づけてきた。それは明らかに口づけをする動作のように見えてならない。というかそれ以外に考えられない。



ーえ、ちょ・・・そっち系?



動けない僕は何をされるかわからない恐怖とどうにもならない諦観をごちゃ混ぜにしつつ、突然のツゲの口付け?をただ待つだけであった。



{・・・チューチュー}



ー・・・なんか夜の草むらでこれは・・・。



僕は一人悶々とし、新しい扉が開かれないか無駄に心配した。



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