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第9話:それゆけ!ブンバボーン!




「さてと・・・どうやってベヘモトの子を攫うか・・・。」



 宿までつくとマルとチュビヒゲをベッドに寝かせ、一人でギルドへと戻ってきて様子を伺う。今日の昼に届いたばかりだというのにベヘモトの子は王に献上することが決まったらしく、すでに配送の手はずが整えられようとしていた。深夜過ぎに出発するとのことで、ギルド脇の石倉の中にて厳重な警備に守られている。なんでも今回はギルドの意向を領主が異例の早さで承認したらしい。




「あのトランプとかいう奴はここにいないか・・・うーん・・・本当に殺さないと駄目なのかな・・・。」



攫うことはもちろん、同族の冒険者を殺すことには色々と課題がある。いくらここが異世界でもホーマ間の殺人は罪に問われるーー盗賊は別だーー上に、相手は手練れの冒険者だ。いざという時に僕に殺しができる覚悟があるかも怪しいーー盗賊は別だ!!ーー。



「なにやら不遜なことをお考えですねえ?」



「うわあ!ツゲ!いつのまに!」



「あ、やっと話してくれましたねぇ!!今日は私とキウリさんの記念日ですねぇ!ねぇ!?」




ーあ、しまった・・・話さないようにしてたのに・・・。




「ってか、日本語通じてるのか?」



「ほほう、キウリさんの言葉はニホンゴというのですか?お気になさらず、私は相手の言葉がわかるスキルがありますので。・・・もっともこの世界に言語は一つですがね。」



ーなんて便利なやつ・・・そしてなんて鋭いやつ・・・。




「いや、なに・・・ちょっと街を救う必要があって。」




「街を?ですか?ふむふむ?くわしく?」




僕は一瞬の逡巡の後、ベヘモトの子供を攫うことを”ある筋”から依頼されていると話した。ついでに、トランプの首を一緒に持って行かねばならないことも。そして失敗すれば街が危ないということも。


どうせ僕には頼れる知り合いはツゲしかいないのだ。だからどうしてそこまでツゲを信用したのかは分からないが、渡りに船というか、藁にもすがるというか、とかくそんな心理だったのだろう。



「それはまた随分な依頼ですねぇ。依頼主がどなたか存じ上げませんけれど、国王への献上品を奪うとはとてもとても・・・いいんですかキウリさんも?」



ーツゲはどこか確信をついた様なことを言う。抜け目のないやつなのだ。



「ま、まあな、無茶な依頼だとは思うよ。僕の身も危ういしな。逆にツゲはー」



「でも、本気なのでしょう?キウリさんも依頼人も?」



僕が目も合わせずに頷いたのを見届けると、ツゲは嬉々として立ち上がって纏ったボロ布の袖をまくりあげた。



「そりゃあおもしろい!この放浪人ツゲ、全力でお手伝いさせていただきましょう!」



僕は何の根拠もないままに全てが上手くいきそうな気持ちになって、俯いたまま誰にも見られことなく少しだけ笑った。




______




「それで、なぜ、こんなに大量の腐れ汁が必要なんだ?」


「そりゃ決まってます。目くらましですよ!あ、目だけじゃなく鼻も、口も!だってほら、仮にいくらキウリさんが強かろうと、相手は中級から上級の冒険者数名ですよ?まともにかち合ったら即死ですよねえ?」



「たぶんそうだけど・・・。」



殆どの店が閉まり、早いところではすでに眠りこけているなか、市場で干物屋を叩き起こして、手振り身振りでなんとか購入したのがこの腐れ汁だ。とにかく即金で大量にもらったので手持ちの金だってほとんど使い果たしてしまった。



ー 借金返済が遠のいた・・・。それにこれ持ってるだけで、すでに死にそうだって・・・。



「ほら、もうすぐ動き出しますよ!街中では衛兵まで警護に当たっています。街の外れに先回りしましょう!」



街の外れ、王都につながるのは西門だ。僕らは速やかに門の先に広がる平野、その中で道に面した背高い草むらに陣取った。



「いいですか・・・。この大瓶がやつらにうまくかかるように正確かつ思い切り良く投げるのです。円を描くように多少の回転を加えながら・・・ってキウリさん聴いてますか?」



「借金返済・・・月収2ヶ月分・・・あれ?ここで僕、ギルド敵に回したら冒険者できなくない?返済も出来なくない?それってつまり奴隷落ちじゃない?」



「キウリさん。まあ、そう心配するもんでないですよ。少年よ大志を抱けっていうではないですか。」



「あの・・・え、あんたもしかして道民ー」



「ほら、来ましたよキウリさん。早く。ホラ、思い切りよく!さあ!行けポチ!」



ーだれがポチだ!




「ああくそ。いったれ!!!僕の体一つで街が救えるなら安いもんだ!」



 僕は少量のお酒と腐れ汁の入った大瓶をありったけ遠くーー100m程度だろうかーーへと数本ブン投げた。放物線状には冒険者と馬の群れだ。



「キウリさん良い投げっぷりですねぇ!よ、ブンバ・ボーン!!」



「なにそれ。なんか知らないけど、無駄にワクワクしてくる良い掛け声じゃんか。ブンバ!ボーン!」



 能天気な二人をよそに冒険者集団の動きは早かった。驚いた様子もなく見にかかる火の粉ならぬ、腐った飛沫を風魔法で一払いすると、1人が毒消しの呪文を唱えると同時に御者と思われた魔法使いが水を生成、全隊にかかった腐れ液を洗い流した。それに続くように斥候役と思われる片手剣の一人が早速こちらに向かって素早い足取りでかけてくるのが見える。残る弓を手に番える冒険者と、両手剣を持ったガタイの良い冒険者はそれぞれ、周囲を警戒するように広がった。



「”左舷10時の方向に敵影を見る。先行する。”」

「”報告、うう・・・染みる。毒ではなく、ただくさいだけだ。吸うな!それなら、害はない。”」

「”あああ!馬が!馬が卒倒してます!水魔法も追加しますが気絶からの回復魔法もお願いします!!”」

「”はやく体勢を立て直せ!いうまでもなく奇襲だ。意味のわからん攻撃だがな・・・とにかく!斥候が合図するまで動くな!”」

「”そりゃ毒じゃねえかもしれんだがね。うえええ・・・この匂い・・・尋常じゃないだろ・・・ったく。どうせくるなら正々堂々こいよなあ!”」



「とのことですキウリさん。どうしますか?」



腐れ汁を用意する間に得た最も大きな収穫は、ツゲが目視さえできればいくら遠くとも会話が聞き取れる謎の能力を持っていることだった。しかも<解釈>ができないと来た。まったくもって敵にするには恐ろしい男である。



「え?どうしますって、ツゲさんに案があるかのようでしたが・・・腐れ汁・・・全然効いてなくないですか?」



「何をおっしゃるキウリさん。馬は卒倒、敵全員も一時的に動きを封じました。敵の戦力も把握したし、この匂い!深く呼吸すれば()せてしまうことでしょう!これは強力なデバフですよ!あとはほら、キウリさんの出番!満を持して!ほら!」




そしてツゲは僕の目を真っ直ぐにみてこう言った。





「いけ!ポチ!」





ーちょまてよ!俺の装備は麻の服にぼろい短剣だけだよ?魔力も回復しきってないし・・・。




「だれが・・・ええい・・・行ったれ!」



「あ、ポチおすわり!あの斥候なら・・・私がちょっと足止めしますんで、後から来てやってくださいな!」



「僕のことおちょくってる?まあ、いいや、頼むよ。」



そういうと、ツゲはそそくさと青黒い夕暮れの間に消えていく様に進んでいった。




ー・・・そろそろいいか?



「コッチです!キウリさーん!見つからないように!」



ーちょ、お前の声が大きいよ!




敵の姿もうまく把握できない中でツゲの声のする方に進む。ゆっくりと音を立てずに草の間を抜き足差し足進んでいくと、何やら地面に蹲って取り乱す様に服を脱いでる男がいた。



「あっ・・・。」



「え!?」



「ほら、今ですよ!ポカッと!」



「お前、話せばわかる!今は待っー」



「えいや!」



いつの間にか丸腰どころか丸裸になっていた斥候を短剣の柄で殴る。皮の兜を通して鈍い音が静かに響くと男は沈黙した。



「え、ツゲさん何したの?」



「いや、なに、ちょっと体が痒くなる細工をね。」



ーえ何それ・・・地味に嫌。



「とかく、ほらこの服を着て近付けばバレないですから!ささ早く。大柄なのがこちらに近付いてますよ!」




僕は気絶した斥候の男から皮の兜や鎧、脛当てなどの一式を奪うと、最後に奪った片手剣を右手に持って馬車の方向へ歩き出した。



ーってか、右手しかないから慣れてない服は着づらいな・・・。



「ってかツゲの声って僕にしか聞こえないの?」



「何を今更いってるんですか?そういうスキルですよ!」



ー何なんだこいつ。・・・つくづく、都合のいい世界だよなあ。



「なあ、ツゲさんや!ぼかあ、なんだか負ける気がしないよ!」



「バカ!キウリさんの声は聞こえるんだから大声出しちゃだめでしょうが!」



ーいや、そうなんだけどさあ。



{バシュ}



「イテ・・・」


調子に乗ったのも束の間、僕の腹には鈍色に輝く矢じりが刺さっていた。



「な、なんじゃこりゃあ!・・・」



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