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第8話:チーちゃんの願い

「え・・・はあ・・・はあ・・・なんだ今の?」



「キウリ!!」



「え、うん?」



先ほどまでの真っ暗な空間とは裏腹に、目の前には真っ青な空の下、大きな獣と、小柄の獣人・・・マルがいた。



ーベヘモトの目を潰そうとして・・・僕は・・・僕は・・・。



奥には大破したバイクがあった。それがぶつかった相手はおそらくベヘモト、かすり傷は1つとしてついてない。




「ってか!そうだベヘモト!」




目の前には黒い金属の光沢をした分厚い体毛・・・ベヘモトの眉間があった。マルを抱えて急いで距離を取る。



「マル!逃げろと言ったろ!」



「別に死んでもいい!」



「ばか!それはダメだ!」


「とにかく・・・」


「「走ろう!」」



「グラアァァァアァ。」


ベヘモトが嘶くと同時に、僕らは走り出した。マルは肩に抱えるようにして。


ーとにかく少しでも遠くへ。



その時、後ろで魔力を感じた。



「「来た!」」



{バリバリバリ}



「「上だ!」」



とっさに右に避けると、足元に雷光が落ちる。見上げれば真上から地面にかけて雲のような細い白い筋ができていた。


ーなるほど、雲の生成が雷魔法のー



「「次!左!」」



{バリバリバリ}



「あれ、どうして、わかるんだろう?」



「それは、僕が後ろみてるからね!」



「え・・・ってか、マル、なんで通じてるの・・・?」



「それは・・・ぼくにもよくわかんないよ・・・。」



ーそういえば、認識不能だったスキルが一つあったよな・・・。




「キウリ、次!前!」



「だね!」



ーこれなら逃げれるかも?



「まずい飛んだ!」



ーうん。わかる。マルの見てるものがわかる!しかし、どうする?森を抜けても、バイクがないとなると・・・。




{ズドドド}




「グララアアァァァ!」




「「あッ・・・」」



ーえ、この感じ・・・重力が逆方向に作用してる・・・体の自由がきかない!



「チュビ!!!」



僕たちがベヘモトの眼前まで浮かされる。マルの懐から飛び出たチュビヒゲは、まっすぐにベヘモトの眼前にいち早く到着し、その顔を風魔法で攻撃した。



「ア?」




「「チュビヒゲ!!」」



チュビヒゲの健闘虚しく、ベヘモトには一切のダメージが入っていない。ベヘモトが顔を横に振りーーほんの少しだけーー、今にもチュビヒゲを首のほんのひと揺すりで潰さんとする。



ーせめて一発なぐらせろ!



僕は空中で体勢を持ち直すと、マルを手放し残りの全MPを消費した暴風にも近い風魔法でほんの微かな推進力ーーほとんど無重力になった今でも、空気分子に対して体が重すぎるのだーーを得た。




「こなくそお!!」



気だるそうに振り回されるベへモトの顔に向かって、全身全霊をかけたただのパンチを仕掛ける。向こうは明らかに本気ではない攻撃。それでもぶつかればこっちの体は持つまい。



{ぱちん}



ーぐはぁぁ・・・まじか・・・



確かに僕のグーパンはベヘモトの顔を捉えた。ドラコもタルパウルサも沈めた僕のフィジカルだが、それも全く通じてない。同時に僕は軽く振られた首の動きで吹っ飛ばされて森の中、木々にぶつかって止まった。



「右手折れてる・・・ぐ・・・肋骨と足もか・・・。え・・・ぐろ・・・。」


ベヘモトは再び重力魔法を操り、僕の体を目の前まで引き寄せた。そこには僕と同じように、手足を抑えて苦しむマルと、傷を直そうとするチュビヒゲがいた。



ーえ、マルまで?・・・痛覚まで共有してるの?



「キウリ。僕のスキル・・・全部の感覚が共有されてる・・・みたい。」



「ああ・・・ごめんなマル・・・ここまでしてくれて・・・でももう・・・」



「グララララ!!!!」



目の前で、ベヘモトの口が大きく開けられる。そして・・・再び閉じた。なぜか何もせずじっとこちらを見ている。



ーん?



(汝、人間なりや?)



ーえっ、ベヘモトが語りかけている?



僕は突然のことに反応できないでいた。



(応えよ。人間なりや?)



(え、ええ、そうです。どうも人間です。そちらはベヘモト・・・さん?)



(人間・・・懐かしい。)



ー見た目通りの荘厳な声が頭に響く。



(懐かしい?ホーマじゃなく、僕以外の人間に心当たりが?)



(遥か前、・・・私がまだ汝くらいの大きさの頃。汝と同じ匂いのする者、在ったぞ。ああ・・・小さきものには優しくせよとあの者は言うが・・・。)




ーずっと昔?もしや”ソンギースト”じゃないよな?



(されど、この度は許せまじ。ホーマ供の我から子供を奪うことは許せまじ!!而して、彼の街、滅ぼさん!)


{ゴクリ}


ーこんな大きい生き物の子作りって・・・興味ある・・・じゃなくて!



(子供って、もしかして今朝攫われたり・・・?)



(まさしく!解せぬ!ホーマに能わざるものを!)



ーまじか・・・あのトランプとか言う奴どうやって盗んだんだ。それに流石にこれは拙いんじゃないか?子を奪って親の逆鱗に触れては・・・。


僕はほんの瞬、考えもなしに名案を閃いたような気持ちになった。


(そ、それならどうでしょうか?僕が奪い返すので、少し待ってはいただけないでしょうか?)


(汝が奪い返すとな?)



ベヘモトの目が一層真剣味を帯びる。


(はい。)



「グララァァァァア!!!!!」



{パンッ・・・}



ーあ、鼓膜逝った・・・。



ベヘモトの一鳴きだけで周囲が地震かと思う程の揺れに襲われる。この距離では鼓膜だって優に破れる。



(約束なりや。汝らに此より1日の猶予を設けむ。必ず無事に此処に連参れ!彼奴の首もぞ!)



そう言うとベヘモトの周囲を光が包む。後には山かと見紛うような黒色の大きな岩があった。僕たちはといえば、マルも含めて地面に倒れておりベヘモトによるものか傷も治っていた。



「あ・・・あ・・・。」



ーん・・・鼓膜も治ってる・・・。



(我の名はチーリン、あの者”チーちゃん”と呼びたり。汝もそうせよ。)



(はい!ち、チーちゃん先輩!!!)


(・・・?)



やはり、振り返るとそこには黒色の巨岩があるばかりだった。



ーとかく急いで、街まで戻って奪い返さねば。



「マル・・・マル大丈夫か?」



「うん・・・痛かったけどもう大丈夫・・・キウリも?」



「うん。ありがとうマル・・・。チュビヒゲもね。」



僕が手を出すとマルは素直に握り返した。



「それにしてもマルのスキルってなんなんだ?」



「それは・・・もう限界かも・・・。」



________________________________________ 

名前: ーマルー(-Maru -)

種族:ミックス(ホーマ+ハーピィー)

性格:虚無

魔力保有量: 19/1,300

体重:1.01 kg

状態:ー

魔導:属性魔法 (風) 治癒魔法

能力:「共振」

加護:「アノマリー」

アドバイス:「それでも生きることにどんな意味がある」


<共振:触れ合い理解しあうものと意思・感覚・傷を共有する>

<アノマリー:周囲の環境に依存して生命力に補正:(+2%)>

________________________________________ 




ーあ、なるほど・・・。スキルのせいか魔力もほとんどなくなってる。それに・・・<アノマリー>の補正が正になってる?



「そう・・・マル、あとはおんぶしていくから、もう休んでいいよ。」



「・・うん。」



僕はマルをおんぶすると、街へと徒歩で帰ることにした。



鹿の素材は持って帰るどころの話ではなくなってしまったが討伐証明の小石は手元の袋にあるわけで、実際のところ街に着く頃には素材屋も閉まっているに違いない。今回は命があっただけで十分だと思える。いや、こうしてマルとの仲が深まったのならこれに勝るものはないのかもしれない。



「あ、でもマル、今のうちに言っておくけど、死ぬのはダメだぞ・・・」



「キウリを守ったのに・・・。」



納得していない顔のマル。



「自己犠牲もダメだ。それは・・・全ての最後の最後、そうしなければ自分が死ぬのと同じだと感じるような、大事なものにためにあるんだぞ、マル?」



「僕の命とかどうでも良いでしょ・・・。」



「・・・自分より大事なものってのは、自分のことが大事でないといけないの。・・・ね!」



ー僕にも正直、よくわかってないんだけどね。



「それに、いかにも最後だったし!」



ーまあ、そうとも言うか。



「うん・・・でも、ありがとうね。」



「ふーんだ!もう、魔力切れで何言ってるかわかんないもんね!」



ーマルと一緒でよかった。



「自己犠牲か・・・」



「ねえ。キウリって何処から来たの?」



「んー地球だよ。地球。」



「チキウ??そんな国あったかなぁ・・・。」



僕はウトウトとするマルをよそに街までの道のりで昔のことを思い出した。



_______




「ねえ、それって、タイラくんが弁償するってこと?」



「・・・そうだよ。」



「そんなのおかしいよ!私たち全員の問題でしょう?それに・・・ねえ、タイラくん、自己犠牲が美しいことだとでもおもってるの?」



「・・・***さん、もういいじゃないですか。僕が損をすればそれで済む話じゃないですか?大したことない額だし・・・。」



「全然すまないよ!そんなの私は許さないからね。」




「許すも許さないも・・・。」



「いいから!今からみんなで謝りにいくよ。ほら、準備して。・・・だからタイラくん来週もちゃんとくるんだよ?」



「え・・・。」



「もう来ないつもりだったんでしょ?一人だけ罪を被ってさ。それも私は許さないよ!」



「ああ・・・もう・・・いや・・・はい。」

  


________




ー***さん、今頃どうしてるかな・・・。お似合いの彼とはうまくやってるんだろうか・・・。



「ええい、いつまでも未練がましく昔のことばかり・・・・・・うわぁぁぁぁぁあぁ!」




「わ!・・・え、キウリ?」


「いや・・・しっかりつかまっていてね、マル。」


「あ、ってかいつの間に禿げたの?」


「は、禿げてねえわ!髪が短くなっただけだ!!・・・え、本当に禿げてる?」


「...」


「おーい、マルさんやー・・・え、ね、寝た?ねえ、本当にはげたの、ああ、片手でマルをおぶってるから、確認できない!!」



マルを抱えて走り続けた僕が街に着いた頃には西端の空に暗闇が迫り、街の街灯が暖かく人々の歩みを照らしていた。




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