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第7章:ラスボス戦

ちょやばい!、マル逃げて!」


「え・・・何これ・・・。」



「グララァァァァア!!」



{キイイィイン}



ベヘモトの一鳴きとともに、赤い角に魔力が集まる。その刹那、周囲の地形が歪んだ。



ーこの重さ・・・重力魔法?ちょ・・・それはトラウマ・・・。


骨が軋み、肺が潰れる感覚が蘇る。以前アライテルに押し潰された時の記憶が、実際よりもずっと痛みと不安を増幅して今にもパニックになりそうだ。



「い、痛いよぉぉ!!」



目の前でマルが為すすべもなく手をついて地面にめり込んでいく、チュビヒゲは飛んでいることができず、地面の上で徐々に凹んで血のような液体が溢れ出てくる。



ー死ぬ、死ぬ、みんな死んでしまう。ああ・・・くそ・・・頼む・・・



「”解釈”、魔法範囲の変更・・・!」



 ここ最近でもっとも進展したのは<解釈>の解釈変更(・・・・)だ。<解釈>はとても強力なスキルで、”現象”に対して自身の意識を作用させることができる。その一方でそれに釣り合う魔力か、不足分を補う自分の体そのものを対価に支払う必要があるようだ。



「・・・つ・・・やった・・・はあ・・・はあ・・・」



今であれば重力魔法の発動範囲を2人分除外しただけでも、ほとんど全ての魔力と髪の毛の半分を消費してしまうといった始末だ。大丈夫、毛根が死んだのではなく、長さが短くなっただけだ。



「マル・・・チュビヒゲと逃げろ・・・。」



僕はマルから片手剣を奪い取ると、チュビヒゲを押し付けて移動を促す。



「キウリ・・・う・・・うわぁぁぁ・・・」



マルは一瞬だけ何かをためらってからまっすぐに走り去っていく。バイクまで行けば、逃げ切ることができるだろうか。



ーいやその後も、こいつが街まで行けばどうなる・・・くそ!



 僕は残りの魔力で地面から液体を掘り出す。ここ数ヶ月なにも単に逃亡だけに時間を費やしたのではない。魔法の使い方を自分なりに研究したつもりだ。



「名前とかないけど、せめて多少のダメージになれよ・・・くらえ・・・化学の力・・・」



 僕が地面から染み出させたのは地下の炭素源、ほとんどが魔力に還元されてしまうこの世界では希少だが、ゼロというわけではない。特に石油は地下深くまで細い穴を空けると、微かな量であるが取り出すことができるとわかった。もっとも可燃性が高いのはそれと同時に気化する、天然ガスで、無色無臭だが、これだけ液体がでれば十分だろう。今は幸い重力魔法で周囲の地形が大きく陥没している。特にベヘモトが立っている場所は自重も手伝って石油やガスが集まりやすい。



「燃えろ、怪物め!」



{バンッ!ゴオオオ!}



一瞬の爆鳴ののち、地獄絵図のように炎がベヘモトを覆う。炎の色は青く燃焼熱が高い。2000度くらいにはなっただろう。一瞬の眩しい光のなか、ベヘモトの黒い目が光ると、視界全てが青から一転、真っ黒に染まった。



「なにこれ・・・闇魔法?」



ーいかにもファンタジーな”闇魔法”が何なのか全然わからん・・・しかしこれは・・・



目の前では出現した黒い靄が炎に触れると相殺し、パッと消えていく光景が見えた。



ー周囲に魔力が溢れていく?・・・もしかして、触れたものを魔力に分解しているのか?となるとまずい・・・。



「こいつ、魔力を吸うんだったよな?かえって回復とか・・・絶望しかない・・・」



炎が燃え尽きる前が勝負だと思った。剣を構えてまっすぐに相手の顔の周囲まで走り抜ける。足元の土を数m隆起させ、足場を作る。ベヘモトの目に向けてまっすぐに攻撃を繰り出した。



「せめて目を潰さなきゃ死んでも死にきれんわ!」


剣がベヘモトの顔へと向かうその瞬間、僕の目とベヘモトの目が合い視界が暗転した。




「グラアアアアア!」




ーなんだよ・・・吾子を返せって・・・。俺に言うなよ・・・。




_________



ーどこだここ・・・。



どこまでも続く青空の下、赤い液体が床を覆っている。

伸ばす手に力が入らなくて、まぶたも重い。

背中に触れる液体が暖かく鉄分の匂いが鼻を突く。



ー空の日差しが今日はやけに優しい。



そんなくだらないことがふっとよぎって、鼻先に綿毛がくっついた。



大学の同期のみんなが泣いてる。声がうまく聞こえない。

叫ぶ声もあり悲鳴に似た声も聞こえる。



ーあれ、***さん?何で泣いてるんだ?あれ?涙をふきたいのに、手に力が入らないや。



まぶたももうほとんど開いちゃいなかった。



ーあ、母さんも、父さんもいる・・・なんで、泣いてるんだ?ああ、みんなが泣いてる。そんなの最低だ。



瞼が重さで閉じて再度ゆっくり開くと、今度は目の前に黒い棺があった。あたりは真っ暗闇だ。



ーあれ、チュビヒゲ。



周囲にはマルやツゲ、ネティマスやサジャーロ、そしてアニマが居た。



ーやっぱり・・・なんでみんな泣いてるんだ。



みんなが泣いている中心には、棺の中に横たわる自分自身。 「大凡 平」 が居た。



ーう、うわああああ!死んだ?なんで、なんで!?



 チュビヒゲが頻りに僕の顔をヒゲで撫でる。

 マルは静かに下を向いて手を握りしめている。

 ネティマスは、僕の棺に近づくと「残念だ。・・・見損なったよ。」と言った。

 サジャーロは小さくいなないた。

 アニマは僕の手を取ると涙の流れる頰で触れて「さようなら。」と言った。



ー最低だ・・・みんなが泣いている。・・・僕はコッチの世界(ニラヤ=カナヤ)でも何も為さず、ただ騒いでいただけ・・・そしてそのまま忘れ去られていく。なんて・・・そんなの・・・そんなのなんて最低だ!




「・・・離せ!」




ー・・・どこか遠くで、声がする・・・



「キウリを離せ!殺すなら僕から殺せ!!」

 

_______




{バアンッ}



そこで爆音とともに視界が開けた。




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