第5話:それでも夜が開けて日が登る
少し脱力回
ー朝だ。
空は徐々に白み、地球のそれと同じように日が昇った。一つだけ違うのは空に浮かぶ恒星は青く、朝焼けの空は真緑色なことだけだ。
ー行こう。山脈を背にして歩けばいいはずだ。。。
結局一睡もできず、これまでの出来事、これからの不安、アニマとの関係を考えていた。
ー僕と彼女は釣り合わない。
意図的に見ないようにしていたアニマに目をやり、顔色を伺う。まるで死んでいるかのように表情には一切の活気がない。目は閉じられており、黄金の月ーー今となってはアニマの目の中にしかないーーを拝むこともできない。角は心なしか縮れており、髪が頰に張り付いていた。唇は吐息に呼応し、微かに震えている。要するに生きていた。
「いきましょう。アニマさん。」
僕はどう持てばいいか悩んだものの、およそ6kgという重さから結局お姫様抱っこすることにした。せめても優しくしたかったというのもある。毛布とローブで体を包むように持ち。なるべく体が露出せず、そして僕に触れないようにした。それはなんと言えばいいかわからないが、そうしなければ気持ち悪がられるのではないかという感覚があったからでもあった。
ー冷たい・・・。
地球で最後に握手した時も、彼女の手は冷たかった。もしかしたら体温が違うのかもしれない。しかし、それにしても全開握った時のように生きた心地がまるでしない。これじゃまるで・・・
ー死人の手だ・・・。
実際、彼女は全身を布に包まれ、顔もフードで隠してある。その姿はさながら亡くなった人のようだった。
ーあっ、あっ、なんだろうこの寂しさ。涙・・・か?
気づけば頰を涙が伝っていた。僕はそれを隠すように親指で拭って彼女を腕に抱えた。抱えてからこぼれ落ちる涙はそのままにして、歩き始めた。
ー3時間後ー
「つ・・・つらい・・・。」
ーきつい。いくら軽いとは言え6kgのものを腕に抱えて歩くのはかなりきつい。腕がかなりきつい。足腰はまだ大丈夫だが、アニマは一旦下ろそう。
ーふう、慣れないことはするもんじゃないな。人さらいにしか見えないが肩に担いでも良いだろうか?現実的に考えて、それが一番いい気がする。下手に紳士を気取ったところで誰が見てるわけでもないし。
「異世界・・・きつすぎる。」
僕は昔から打たれ弱かった。中学時代は剣道部にもいたがそれだって全学年を合わせても下から3番目くらいの技量しかなく、同時に相手を倒すことになんの魅力も感じなかった。高校では部活をせず。一人、家でゲームをしたり、塾に通うばかりでこれといって鍛錬をしたこともなかった。それを思えば確かに、ここ3日間のできごとは過酷だといって差し支えないだろう。
ー水、飲みたいな。
無論あたりには何もない。アニマなら召喚魔法でなにか取り出しただろうか。いや、どうして人をすぐに当てにするのだろう。僕の嫌味なのは、そういうところか。
「もう少し頑張ってみよう・・・。」
・・・それから4時間ほど、多分に休みながら歩き続けた。振り返ると山脈は意外なほどに遠くにあった。自分の歩いた道のりがこれほど遠く感じたことは今までにないくらいだった。少しだけ背中を押された気分だった。
ーあれ、木が見える?
前方3km先には木が立っているのが見えた。そこから先には、これまでと違い、徐々に数種類の草木が生えており。よく見れば虫が飛んでいるのも見える。
「ひとまず草原を抜けたのか。」
僕は木に近寄ってアニマを抱いたまま、木の幹にもたれかかるように腰を下ろした。
フードをめくって、アニマの顔を見る。いつにも増して透明感のある素肌は、明らかに柔らかそうだった。
僕はたまらず右手で頰に軽く触った。
「やっぱり冷たい。けど、柔らかいや。」
ーこれはいいもんだ。あれ、でも何か足りない?
「あ!メガネ!!!」
ーなんてこった!メガネを途中で落としてしまったのか?いやまて、パーカーやローブの中とかに
・・・
・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・ない。
寝るときに外していたか、襲われたときに落ちたのだろうか。思えば、抱えた時にはもうしてなかった。
ああ!まったく僕はダメダメだ・・・どうしてこうもうまくいかない!
「取りに帰るか?」
ーいや、正直同じ場所に戻れる気がしない。なんせ草原はどこも変わらぬ景色なのだ。
「はああ・・・・。」
天を仰ぐと、太陽はもうかなり高いところにあった。昨日、転移したばかりの頃にくらべても少し高い。これから夕暮れまではすくなくとも6時間以上はあるだろう。僕は脱力した。
持久筋ってやつ?




