第8話 追放者達の村
井戸で住民達に水を配り終わると、レティーナがユーリの腕をぐいぐいと引っ張った。
「ユーリ! 本当にありがとう! だが疲れただろう? ぜひ私の家で休んでいってくれ! 水のお礼もしたいからな!」
アークが生成した『MS-1人語翻訳プログラム』をダウンロードすると、レティーナの言う事が理解できるようになっていた。
「はい! 是非ご招待に預かりたいと思います! こちらの皆さんの生活様式や風習にも興味がありますので!」
そしてユーリのその言葉もレティーナ達の言葉に翻訳されている。
「あ、あれ……!? ユーリ、私達の言葉を話せたのか!?」
「いえ、先程まで話せませんでしたが、アークにデータを解析して貰って、プログラム化してインストールしました」
「で、でぇた? ぷろぐらむ? いんすとーる……?」
聞き慣れない単語に、レティーナが目を白黒させている。
「うーん、外国の魔法のようなものか?」
それでも何か、納得行く解釈をひねり出そうとしている。
割と思慮深い、機転の利く人なのかも知れない。
「あ、はい。そんな解釈で結構ですよ」
「そうか、是非他にも色々話を聞かせてくれ。さあ、私の家に行こうか!」
レティーナはユーリを連れ、村の中心部へと歩いて行く。
そこに他のログハウスよりも数倍大きな規模の家があり、どうもそこがレティーナの家のようだった。
そして、中に入ると木のいい香りが心地良かった。
銀河連邦では木造の家屋など殆ど見られず、ユーリも一般的な銀河連邦人と同じく木造の家に住んだ事は無い。
とてもアンティークで、エキゾチックな魅力に満ちている。
「わぁ……綺麗なお宅ですね! 木のいい香りがします」
そしてこの空気に包まれていれば、木が吸って来たマナ粒子を摂取して、ユーリも魔法が使えたりしないだろうか。
期待を込めて、何度も大きく深呼吸する。
「ははは。森の木しか材料が無かったからな、でも確かに石の城より落ち着くかも知れない。さあ、そちらに座ってくれ」
レティーナはユーリにテーブルと椅子を勧めてくれる。
それも木で出来ており、色合いから真新しさを感じさせる。
全体的に家の中身は質素なもので、装飾や調度品の類いのインテリアが皆無に等しかった。
イメージとしては、引っ越し直後、という感じがある。
唯一の調度品的なものは、近くの壁に掛けられた地図だろうか?
「レティーナさんは、以前はお城に住まれていたんですか……!? すごいなあ、見てみたいです!」
「すぐには難しいが、もし戻れる事があれば、是非見せてあげたいな」
そうレティーナは微笑むのだが、表情に一抹の寂しさのようなものを感じなくもない。
「?」
「姫様は、リューシュ国の国王陛下のご息女なんです。リューシュ王国はご存じですか?」
そうユーリに問いかけてくるのは、レティーナを井戸に呼びに来た金髪の少女だ。
レティーナより少し年齢は下のように見える。ユーリと同じか少し上くらいだろうか。
「いえ、存じませんが、レティーナさんはお姫様なんですか!? すごい……! そんな偉い人は初めて見ました!」
道理でなにかこう、凜とした威厳のようなものを持ち合わせているわけだ。
育ってきた環境がそうさせているのだ。
「あ、僕何かご無礼を働いていないでしょうか!? あれば直しますので、ご指摘下さい!」
「いや、だが今は『元』お姫様なんだ。だから偉くもなんともない、今のままで十分だよ」
「『元』ですか?」
ユーリは首を捻る。
「うん、戦争でな。リューシュは負け、国は滅んだ。残った私達は降伏したが、この無人島のガルドラス島を代わりの領地に与えられて、元家臣の皆と大陸から渡ってきたんだ。まあ、島流しのようなものだな」
「戦争ですか……なるほど、それはご苦労されたんですね」
「いや、戦争より無人島を開拓する方が私はいいよ。付いて来てくれた皆には苦労を掛けてしまうが……あ、こちらはアルカだ。リューシュの宮廷魔術師の孫娘でな」
と、レティーナが金髪の少女を紹介してくれる。
「よろしく。アルカ・ミレルです」
アルカがぺこりと頭を下げてくる。
「宮廷魔術師! いい響きですねぇ! 魔法の専門家という感じがして! 是非色々と魔法の事を教えて頂けると嬉しいです!」
「あ、あはははは……わ、わたしに教えられる事があれば――」
目を輝かせるユーリの勢いに圧されて、アルカは苦笑していた。
「しかし、そのユーリと一緒にいるアークが使っているのは魔法だろう?」
と、レティーナが疑問を口にする。
無論魔法などではなく科学技術による機能なのだが、レティーナ達から見れば魔法と区別が付かないのだろう。
「まあ……正確には科学技術と言いますが、魔法のように見えてしまうかも知れませんね」
嘘を言うわけではないが、あまりに大っぴらに説明するのも少し憚られる。
少し曖昧にしておくくらいが丁度いいのだろう。
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